2021年06月10日

米国経済の見通し-21年は経済の正常化、経済対策の効果で高成長も、注目されるインフレリスク

経済研究部 主任研究員   窪谷 浩

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(住宅投資)住宅市場の回復に陰り
GDPにおける住宅投資は、21年1-3月期に2桁の伸びを維持したものの、住宅着工件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は21年4月が年率▲7.1%、先行指数の許可件数(同)も▲8.9%と20年6月以来のマイナスに転じており、住宅市場の回復持続性に黄色信号が灯っている(図表12)。

一方、30年固定の住宅ローン金利は20年12月中旬につけた2.86%を底に上昇に転じ、21年3月下旬に3.4%弱まで上昇した後、21年5月下旬は3.2%近辺で推移している(図表13)。また、全米抵当銀行協会(MBA)が集計する借り換えも含めた住宅ローン申請件数は21年1月下旬に981.1まで上昇した後、21年5月下旬には660台と20年2月以来の水準に低下しており、住宅ローン金利上昇の影響とみられる。

住宅市場では住宅に対する需要は強いものの、住宅在庫が不足するなど供給不足が深刻化しているほか、昨年以降の住宅市場の好調を支えてきた低い住宅ローン金利も反転しており、住宅市場の回復に陰りがみられる。当研究所は長期金利の上昇を見込んでおり、住宅ローン金利も22年末にかけて上昇基調が持続する可能性が高い。このため、今後も好調を維持することは難しく、住宅ローン金利の上昇に伴って住宅市場は悪化に転じよう。
(図表12)住宅着工件数と実質住宅投資の伸び率/(図表13)住宅ローン金利および住宅ローン申請件数
(政府支出、債務残高)バイデン政権の成長戦略の先行きは不透明
新型コロナで落ち込んだ経済を立て直すために、米政府が昨春以降、累次の経済対策を実施した。この結果、米国の財政状況は20年度(19年10月~20年9月)に大幅に悪化したが、21年度も9,000億ドル規模のコロナウイルス対策救済法や1兆9,000億ドル規模の米国救済計画などの大型経済対策を実施したため、財政赤字は▲3兆4,230億ドル(前年度:▲3兆1,320億)、名目GDP比▲15.6%(同:▲14.9%)となり、前年度からさらに赤字幅が拡大した(図表14)。
(図表14)財政収支・債務残高見通し 債務残高(GDP比)も21年度は108.0%(前年度:100.0%)と前年度から大幅な増加となったほか、第2次世界大戦直後の1946年に記録した106%を上回り史上最高となった。

一方、バイデン大統領が5月28日に発表した就任後初となる予算教書では、同大統領が掲げる成長戦略である「米国雇用計画」、「米国家族計画」が盛り込まれた。「米国雇用計画」はインフラ投資や在宅介護サービスなどに8年間で総額2.6兆ドル規模の支出を行うことを計画している。また、「米家族計画」では子育て支援などに10年間で総額1.8兆ドル規模の支出を行うことを計画している。一方、「米国雇用計画」の財源としては法人税率の引き上げや多国籍企業の海外利益に対する課税強化などを充当するほか、「米国家族計画」では富裕層に対する個人所得最高税率の引き上げやキャピタルゲイン課税の強化で賄うとしている。

これらの結果、予算教書では22年度の財政赤字は▲1兆8,370億ドル(GDP比▲7.8%)と21年度からは縮小するものの、現在の予算関連法を前提にしたCBOベースライン(▲1兆830億ドル(GDP比▲6.9%)からは財政赤字の拡大が見込まれている。さらに、債務残高(GDP比)も22年度は112%となった後、31年度が117%までの増加が見込まれており、CBOベースラインの31年度の113%を4%ポイント程上回るとみられる。

一方、現在野党共和党との協議が本格化している「米国雇用計画」では伝統的なインフラ投資しか認めない共和党が主張する予算規模である1兆ドルに対して、バイデン大統領は1兆7,000億ドルまで縮小することを提案して妥協を模索したが、財源としての法人税率の引き上げに対して強硬に反対していることから、交渉は決裂している。また、「米国雇用計画」に次いで審議される「米国家族計画」については共和党との協議はさらに進展がみられていない。

米国では法定債務上限の引き上げの期限を7月末に控えており、歳出削減と併せて処理したい共和党とそのような制限なしに処理したい民主党との間で対立が続いており、米国の成長政策の審議と併せて非常に流動的となっている。
(貿易)旺盛な国内需要を背景に当面外需は成長率を押し下げ
実質GDPにおける外需の成長率寄与度は21年1-3月期に3期連続のマイナス寄与となった。輸出入の内訳をみると輸出が前期比年率▲2.9%(前期:+22.3%)となったほか、輸入が+6.7%(前期:+29.8%)となっており、輸出入ともに貿易赤字を拡大させる方向に働いた。

一方、先日発表された21年4月の貿易収支(3ヵ月移動平均)は季節調整済で▲715億ドル(前月:▲709億ドル)の赤字となり、前月から赤字幅が▲6億ドル拡大した(図表15)。輸出入別では、輸出が+39億ドル増加した一方、輸入の増加幅が+45億ドルと輸出を上回ったことが貿易赤字の拡大の要因となっている。このため、4月以降も堅調な国内需要を背景に外需の成長率寄与度はマイナスが続いているとみられる。

米国経済は個人消費主導で高成長が見込まれ、米国の成長率が相対的に海外経済の成長率を上回る状況が続くとみられる。実際にIMFの見通しに基づく米国の輸出相手国上位10ヵ国の平均成長率をみると、22年にかけて当研究所の米国の成長率見通しを下回ることが見込まれる(図表16)。このため、米国の旺盛な内需を背景に外需は当面成長率を押し下げる方向に働こう。

一方、外需に影響を与えるバイデン大統領の通商政策については、同大統領は対中政策で同盟国を巻き込む国際協調路線をとる方針を示しているものの、当面対中関税を維持するなど、トランプ政権の強硬な対中政策路線の継続を示唆している。

また、米国が将来的にCPTPPに復帰する可能性はあるものの、お膝元の民主党議員や世論の反発が予想されるため、短期的な復帰は困難だろう。いずれにせよ、バイデン政権は当面新型コロナ対策などの内政を重視する姿勢を明確にしており、通商政策の優先順位は低いため、通商政策が大幅に変更される可能性は低いだろう。
(図表15)貿易収支(財・サービス)/(図表16)米国の輸出相手国の成長率と外需の成長率寄与度

3.物価・金融政策・長期金利の動向

3.物価・金融政策・長期金利の動向

(物価)当面はインフレ高進も来年以降のインフレ率は低下へ
消費者物価の総合指数(前年同月比)は、新型コロナの影響で20年5月に+0.1%まで低下した後は上昇に転じ、21年4月は前述のように前年同月比+4.2%となった(図表17)。また、コア指数も20年6月の+1.2%から持ち直し、4月は+3.0%となっており、基調物価にも上昇圧力がかっていることが明確となっている。

4月の中身をみると、原油価格の上昇などでエネルギー価格が前年同月比+25.1%となったほか、中古自動車価格が+21.0%と物価を押し上げた。中古自動車は半導体不足による新車生産減少の影響とみられる。また、新型コロナの感染拡大に伴い昨年大幅に消費が落ち込んだホテルや航空需要が経済正常化の動きが強まる中で、回復に転じたことから航空運賃が+9.6%となったほか、ホテル宿泊料も+8.1%となるなどペントアップ需要が物価を押し上げた(図表18)。
(図表17)消費者物価指数(前年同月比)と原油価格/(図表18)CPI項目別(前年同月比)
インフレ指標はベース効果に加え、上記の要因が続くことから当面は高進が見込まれるものの、ベース効果やペントアップディマンドなどは一時的な要因であるため、これらの物価押上げ効果は剥落することが見込まれる。

また、労働市場の回復を背景に労働需給の逼迫から賃金には上昇圧力が掛かるとみられるものの、2000年以降はフィリップス曲線が平坦化しており、労働需給の逼迫が物価上昇に繋がり難くなっている。このため、労働需給の逼迫を背景とした持続的なインフレ高進の可能性も低いとみられる。

当研究所は消費者物価の総合指数は21年に前年比+2.8%と、20年の+1.2%から大幅に上昇した後、22年は+2.2%に低下することを予想する。
(図表19)家計、専門家のインフレ率予想 一方、家計の短期インフレ予想は足元で前年比+3.4%と12年以来の水準に上昇しているものの、経済専門家の今後10年間の期待インフレ率は足元の急激なインフレ上昇にも関わらずFRBの物価目標(2%)近辺で安定している(図表19)。今後、インフレの高進が続き、インフレ上昇を一時的と主張しているFRBに対する信認が低下して、期待インフレ率が上昇基調に転じる場合にはインフレの高進が長期化する可能性があり、期待インフレ率の安定を維持できるか注目される。
(金融政策)22年前半のテーパリング開始、24年前半の政策金利の引き上げを予想
FRBは、新型コロナによる米国経済、資本市場への影響を軽減すべく、20年3月以降、実質ゼロ金利政策、量的緩和政策、資金供給ファシリティ―の創設など、実行可能な政策を総動員して危機対応を行っている。FRBは政策金利引き上げの条件として、労働市場の状況が雇用の最大化との評価に一致し、インフレ率が2%に上昇して、しばらくの間2%をやや上回るとしている。
(図表20)政策金利およびPCE価格指数 21年3月時点のFOMC参加者のインフレ見通しはFRBが物価指標としているPCE価格指数の総合指数が21年末に前年同期比+2.4%、コア指数が+2.2%と物価目標(2%)を上回る水準が見込まれているものの、22年末はいずれも+2.0%と物価目標水準まで低下しており、今年のインフレ上昇が一時的との見方を示している(図表20)。

また、21年4月のFOMC会合後の記者会見でパウエル議長は、足元のインフレ上昇が一時的な要因であるとしたほか、今年のインフレ率が2%を超えてもそれが政策金利変更の条件を満たさないことを明確にした。

このため、インフレが当面高止まりしたとしても、労働市場の回復が緩慢であることと併せて今年や来年に政策金利が引き上げられる可能性は低いだろう。

当研究所はFRBが掲げる政策金利引き上げの条件が達成させるのは早くても23年後半と予想しており、政策金利の引き上げ開始を24年前半と予想している。また、金融危機後の金融政策の正常化プロセスでは、15年12月の政策金利の引き上げに先立ち、13年12月から量的緩和の買い入れペースの縮小を開始し、14年10月に量的緩和政策を終了している。このため、前回同様のペースを想定すると24年前半の政策金利の引き上げに先立ち、22年前半に買い入れペースの縮小を開始することが見込まれる。

もっとも、前述のように足元のインフレ上昇が期待インフレ率の継続的な上昇に繋がる場合にはFRBは早期の利上げに追い込まれよう。
(図表21)米国金利見通し (長期金利)21年末1.9%、22年末2.2%を予想
長期金利(10年金利)は景気回復やインフレ率の上昇を背景に上昇基調が持続しよう。当研究所は21年末に1.9%、22年末に2.2%に上昇すると予想する(図表21)。

一方、インフレリスクの高まりや、財政赤字の拡大に伴う国債需給悪化懸念などで長期金利が急激に上昇し、金融市場や実体経済への影響が懸念される場合には、FRBが長期金利の上昇を抑制するための対策を実施しよう。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

(2021年06月10日「Weekly エコノミスト・レター」)

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