コラム
2021年05月31日

「マイニング」とは何か

経済研究部 准主任研究員   高山 武士

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4――「マイニング」のメリット

さて、最後に「不正をどのように防いでいるのだろうか」という疑問について考えていきたい。
(図表6)ビットコインのハッシュレートとマイニング報酬 不正にはいくつか種類がある。例えば、「自分のものではない電子財布を盗んで使う」「データ上不備のある取引をする(例えば、原資より大きな金額を送金するなど、図表1参照)」といったことが考えられる。

このうち「電子財布を盗んでしまう」という疑問は、前述の「Aの財布にあるビットコインは持ち主でなければ使えないのはなぜだろうか」という疑問と同じであるため、本コラムでの解説は省略したい。次の「データ上不備のある取引をする」という疑問については、マイニングからやや離れることになるが、重要な点でもあるため少し解説しておきたい。

ビットコインにおいて「データ上不備のある取引」を防止させているのは、その「分散性」にあると言える。ビットコインでは、前述の通りネットワーク参加者が同じデータ(ブロックチェーンおよびブロックに取り込まれる前の取引)を持ち、同じルールでデータを更新している。そして、ルール外のデータについては取り除くようになっている。つまり、ネットワーク参加者全員がデータを管理している。したがって、例えば、原資より大きな取引を許可できるように、自分のシステムを変更したとしても、他のネットワーク参加者にそのデータが共有されたときに、他のネットワーク参加者により破棄されてしまうのである。管理者は不在だが、各参加者が管理の一環としてデータチェックを行っており、データ構造上の不備のある取引が共有されないようになっているのである。(ブロック」の作成が「取引」の承認(confirmations)と呼ばれるのに対し、他の参加者から伝送されてきた「取引」の正当性確認は検証(verification)と呼ばれる。検証は承認の前工程のとも言える。取引がネットワーク参加者から検証されているように、ブロックも各参加者同士でその正当性(データ上の不備がないか)が検証されている。)

では、「マイニング」によりブロックをチェーンとしてつなげていくメリットは何かというと、それは(過去の)データの書き換えを防ぐ、という点にある。つまり、データの書き換えという不正に対してブロックチェーンが有効に機能するのである(「耐改ざん性」「不変性」という)

例えば、不正な取引(データ構造上の不備)が受け付けられなくても、取引を後から修正することができれば、参加者にとってメリットになることがある。例えばAからBにビットコインを送金(取引を作成)し、代わりになにかの商品や通貨を受け取った後でその取引とは違う取引で上書きできれば、Aは不正に得をする(その分、Bは損をすることになる)。ビットコインのブロックチェーンはこういった種類の攻撃(不正)に強い。

この改ざんに強い理由は、いままで述べてきた「マイニング」の大変さにある。ビットコインでは(たまたま同じ時間に異なる参加者によって異なる“あたり”の「ナンス」が発掘されるなどして)ブロックチェーンが2つ作成されてしまった(分岐してしまった)場合、長い方のブロックチェーンを正当なブロックチェーンとみなし、短いブロックチェーンは破棄されるようになっている
これにより、後からのデータの書き換えがとても大変になる。例えば図表7のようなケースで、Aが「ブロック#3」に含まれている【取引7】を改ざんしたいと思った場合を考えて見る。そのためには新しい【改ざん取引7’】の「ブロック#3’」を作成する必要がある。これは改ざん取引7’のブロックで“あたり”の「ナンス」を発掘する必要があるということである(これは「ブロック#3」の“あたり”の「ナンス」とは異なる。「マークルルート」と「タイムスタンプ」の数値が異なっている可能性が高いためである)。さらにこのブロック#3’はブロック#4にはつながらない(「ブロック#4ヘッダ」の先頭にある値は「ブロック#3ヘッダのハッシュ値」であり、それを前提に発掘された“あたり”の「ナンス」となっている)。したがって、ブロック#3’に続くブロック(ブロック#4’)を作成する必要がある。これには、ブロック#4の“あたり”の「ナンス」を別途発掘することが必要になる(そして、このブロック#3’に続くブロックの“あたり”の「ナンス」は、ブロック#4の“あたり”の「ナンス」とは異なるため、新たに計算しなおさなければならない)。
(図表7)データの書き換え
書き換えを成功させるには、攻撃者以外の参加者で作成しているブロックの高さを超えるまで新しい“あたり”の「ナンス」を見つけ、ブロックを伸ばさなければならない。つまり、データの改ざんを成功させるには、攻撃者が、自分以外の参加者全員による「ナンス」探しを上回るほどの計算力を持っている必要がある。多くの参加者がマイニングをしている場合、攻撃者が他の参加者以上の計算力を得る可能性は難しくなる(ただし、こうしたデータ書き換えは「51%攻撃」と呼ばれ、理論的には不可能ではない)。また、ブロック(とそれに含まれている取引)が古いほど改ざんするのは難しくなるのである。これは不正な攻撃ではない場合も同じで、間違って取引を行ってしまった場合でも、後からキャンセルすることは困難になる。費やされた計算力(≒電力)が耐改ざん性を保証していると言える22

逆に言えば、新しい取引ほど改ざんされる可能性は高い。特に、承認前の取引(ブロック作成までの10分程度)はかなり不安定である。同じ原資の別の取引を記載すると、どちらかが消えてしまうからだ。

なお、承認後であっても、既存の「ブロック」より、長い「ブロック」を伸ばすことができれば、「取引」はすべて長いブロックに含まれているものに書き換えられることになる(上述の通り、ビットコインには「残高」情報は直接的には含まれていないが、採用されるブロックチェーンが変わり、それに含まれる「取引」も変更されれば、利用可能な「残高」も変わる)。

最後に、“あたり”の「ナンス」を探すのは難しいが、“あたり”のナンスがあったときにそれが“あたり”であることを確かめることは簡単であることも重要であるので触れておきたい(ハッシュ値を計算するだけである)。ビットコインでは参加者がデータを共有する際に、共有されたデータ自体が正当であることを検証するが、検証作業は発掘作業の負荷と比較すると断然容易である。この“あたり”の「ナンス」の、「見つけにくいが“あたり”であることを検証しやすい」という性質は、参加者がデータを検証し、共有・管理する(「分散」させつつも、プルーフオブワークという「耐改ざん性」を確保する)上では重要な性質といえる23
 
22 また、不正による暗号資産への信頼喪失というデメリットが攻撃の抑止となっている面がある。51%攻撃をできるほどの計算力を持った人であれば、自らの資産を毀損する攻撃はしないだろう、ということ(プルーフオブステーク(PoS)などの概念では重要となる抑止力)。
23 たとえば、「マインイング」が円周率の小数点以下○桁目~△桁目の数字を計算する、という計算だったとしたら、○桁を増やして難易度を挙げると、その“あたり”の数値を計算することも難しくなる。一方で、それが“あたり”であることを確かめることも発見するのと同じ程度に難しくなってしまうだろう。発掘は難しいが検証は簡単ということ複数のノードでデータを管理する(検証してもらう)上では重要と言える。

5――おわりに

さて、ここまで「マイニング」とそれに関連する疑問について説明してきた。

結局のところ、「マイニング」はハッシュ値の計算と、それが閾値以下(“あたり”)かという単純な試行の繰り返しである。そして、この(意味がないように思われる計算に)多くの電力が使われ、マイニングの電力消費量(142.9TWH(テラワットアワー))はノルウェーの消費電力(124TWH)を上回り、世界のデータセンターで消費されている電力(205TWH)に近づく勢いのようである24

冒頭マスク氏が危惧したように、「ナンス」探しという単純計算の電力を生み出すために、多くの化石燃料が費やされているとすれば、気候変動リスクを懸念する立場としては看過できないところだろう。

なぜこの単純計算にこんなにも電力が使われるのだろうか。ナカモト・サトシの「ナンス」探しという単純計算と金の発掘との比喩表現を用いれば、なぜ金の発掘は行われるのだろうか、というころになろう。

理由のひとつは、それはマイニングで得られるビットコインの報酬が魅力的であるため、と言えるだろう。そして、この魅力度を高めているのは、ビットコインがドルなどの別の通貨と交換できる、商品が購入できる、といった点にもあると見られる(金の発掘が、儲かるから行われるのと同じである)。

そのため、現在のところ、ビットコインには相当な需要があり、その需要の高さに応じた電力が使われていると見られる(電力を利用しても、電力使用料がマイニングの報酬を下回れば儲けられる)。

せっかく電力を使うのであれば、もっと有用な計算に活用できないのかといった指摘もできると思う。ただし、ビットコインによる一見“無駄”に見える電力消費でも、“無駄”とは言い切れない面がある。それは、(必ずしも電力である必要はないが)コストのかかる仕事をしているために、後から書き換えることが大変で、それが「耐改ざん性」を高めているという特徴にある。コストがかからないと「マイニング」の意味がなく、大胆に言ってしまえば“無駄”な「マイニング」だから信頼性が高まっているのである(それがプルーフオブワークという概念であり、実際に、「電力使用量の大きさ≒耐改ざん性の高さ」がビットコインの魅力を高めている面があると思われる)。

仮に、ビットコインの需要が低下すれば、マイニングして報酬を得たいと思う人が少なくなるだろう。「ナンス」探しに使われる計算力(ハッシュレート)が低下すれば、発掘難易度が下がり、ブロックを作成するのに必要な電力も低下する(ビットコインと同じ仕組みで動いているが、ほとんど電力が使われていない他の「暗号資産」は多いとみられる)。

ただ、図表6で見た通り、現在のところそういった需要が低下する気配は見られない。ビットコインの価格は激しく上下に動いているが、マイニングの計算量は安定的に増えている(もちろん、CPU・GPUなどの性能が良くなっている面もあるだろうが、ビットコインの報酬がマイニング需要を激減させるほど低下していないという面も指摘できるだろう)。
 
なお、ビットコインはプルーフオブワーク(端的に言ってしまえば、計算力≒電力による承認)を採用したブロックチェーンの例であるが、プルーフオブワークではない承認の仕組みを採用するブロックチェーンもある点は補足しておきたい(電力以外の「証拠」で耐改ざん性を担保しようという仕組みといえる)。必ずしも、ブロックチェーンとプルーフオブワークはセットではなく、また、一部の暗号資産では既存のプルーフオブワークという仕組みから転換しようという動きもあるようだ25

一方、上述の通り、電力が「耐改ざん性」を高め、信頼性につながるのであれば既存のプルーフオブワークも有用であるという考え方もできるだろうし、気候変動を危惧する視点からはクリーンな電力での発掘なら許せるという立場もあるかもしれない。どの仕組みが「良い」のかは結局、人間により判断されるのであり、将来的に生き残っていく暗号資産が結果として人間にとって「良い」と判断された仕組みということになるのかもしれない。
 
ビットコインのような(分散型であるため、自律的で耐障害性にも優れている)システムの仕組みを(例えばプルーフオブワークから違うものに)変更するには、すべてのネットワーク参加者が使うシステムを変更する必要があるだろう。暗号資産のシステム保守や管理を行っているコミュニティはこうした力を保有している可能性があり、政治的その他の力を使うことで、システム利用を停止することなどもできるかもしれない。こうしたシステム自体が将来的に変更されていく可能性もゼロとは言い切れない(だだし、すべてのシステムを変更する可能性について言及してしまうと“何でもあり”ということになってしまう)。

本コラムでは脚注で触れるにとどめたが、ビットコインはその発行量が決まっている(金のように希少性がある)といった性質なども後押しする形で、これまで需要は増加する一方であった26。現在でもビットコインに対する需要は高く、最近もETFの組成が検討されているなど、投資対象としての魅力を高めていることに鑑みれば、今後も当面は高い需要が維持されるように思われる。

ビットコインはその価格変動の大きさや、気候変動への関心の高まりにより、最近、多くの報道を目にするようになった。またNFT(非代替トークン)などの関連技術に関する報道も多くなっているように思う。今後も、こうした技術の動向に注目して行きたい。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

(2021年05月31日「研究員の眼」)

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