2021年05月28日

家族計画の変化に見る、新型コロナの少子化への影響(1)-イントロダクション-

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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1―― はじめに

2020年の妊娠届数は前年比4.8%減少した1。これは新型コロナの影響と見られ、2021年の出生数は、国立社会保障・人口問題研究所の推計2より大きく減少し、80万人を割る可能性が高まっていることが伝えられている3。この出生数の減少は、コロナ禍での一時的なものなのだろうか、それとも将来的な少子化の加速に影響するのだろうか。もし将来的な少子化の加速に影響するとすれば、どの程度の影響が予想されるのか。また、出産につながる重要なライフコースとしての結婚への意識は、コロナ禍でどう変化したのか。そして、こうした状況の中で少子化対策としてどういった対応が必要とされているのか。

こうした疑問に答えるための示唆を得ることを目的とし、ニッセイ基礎研究所は独自調査の分析を行った。本稿を含めて全4回の基礎研レターでは、この独自のアンケート調査の分析結果を紹介する。本調査の分析ではまず、一時的にコロナ禍で妊娠を控える行動、コロナによる将来的に持ちたい子の減少、そして、コロナ禍での結婚意欲の高まり、というコロナ禍での家族計画に関する3つの側面の意識の変化に注目し、それぞれに当てはまる人の割合とその要因を捉えた。さらに、こうした変化があった人には、それぞれどのような特徴がみられるかを検証した。

それぞれの詳細な分析方法や分析結果に関する説明は、第2回以降の基礎研レターに譲るとして、本稿ではまず、このニッセイ基礎研究所の独自の調査の概要と、一時的にコロナ禍で妊娠を控える行動、コロナによる将来的に持ちたい子の数の減少、そして、コロナ禍での結婚願望の高まりの3つの側面に関するそれぞれの分析結果の概要を簡単に紹介しよう。
 
1 厚生労働省2020年5月26日「令和2年度の妊娠届出数の状況について」(https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000784662.pdf, 2021年5月27日アクセス)
2 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成27年推計)」(http://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp29suppl_reportALL.pdf,2021年5月27日アクセス)
3 日本経済新聞 2020年12月25日「出生数、21年に80万人割れも コロナで少子化想定超え」
(https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF244GA0U0A221C2000000/, 2021年5月20日アクセス)
日本経済新聞2020年5月26日「20年の妊娠届4.8%減 コロナの影響色濃く」
(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA25DXS0V20C21A5000000/, 2021年5月27日アクセス)
 

2――調査概要

2―― 調査概要

本調査は、WEBアンケートによって実施した。回答は、全国の18~64歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女を対象に、全国6地区、性別、年齢階層別(10歳ごと)の分布を、2015年の国勢調査の分布に合わせて収集した。回答件数は5,808件。このうち、本分析で注目する、一時的にコロナ禍で妊娠を控える行動、コロナによる将来的に持ちたい子の減少、そして、コロナ禍での結婚願望の高まりについての主な分析対象となる、40歳以下の回答者による回答件数は、2,603件である4
 
4 調査名は、「被用者の働き方と健康に関する調査」。本調査は、全国6地区、性別、年齢階層(10歳ごと)の分布が国勢調査に合うように事前に回答数を定め、その回答数に合う用に割付を行った上で、株式会社クロスマーケティングのモニター会員から回収されたアンケート調査である。つまり、非確率抽出である。さらに、コロナ禍という普段と異なる状況で行われた調査であるため、回答者の傾向が一般的なアンケート調査とは大きく異なっている可能性も考えられる。そのため、本調査の結果は、必ずしも日本の被用者全体の傾向を示すものではなく、結果の解釈には十分な留意が必要であり、この調査結果のみによる断定的な判断は避ける必要があることにご留意頂きたい。
 

3―― 一時的にコロナ禍では…

3―― 一時的にコロナ禍では妊娠を控えたいと思った人は子を持ちたい人の約2割

まず、1つ目の側面である、コロナ禍で一時的に妊娠を控える傾向について、40歳以下で既婚の回答者のうち、一時的にコロナ禍では妊娠を控えたいと思った人の割合は、約1割であった。そのうち、子を持つことを希望していると考えられる人の間でみると5、一時的にコロナ禍では妊娠を控えたいと思った人の割合は、約2割と予想される。2020年の妊娠届数は、5月に前年同月比最も大きく減少しており、その際の減少率が17%であったことと6、整合的な結果である。

一時的にコロナ禍では妊娠を控えたいと思った理由としては、「感染の親子への影響の不安」を挙げた人が最も多く、49%が選択した。次に多かったのは、「子育てへの経済的な不安」で37%、その次が「ワクチンの親子への影響の不安」で35%だった。また、女性の間では、「感染の親子への影響の不安」の次に、「子育て環境の変化」を理由として挙げた人が多く、「一時的にコロナ禍では妊娠を控えたいと思った」女性のうち、48%が選択した。

さらに、年齢が若い女性、年収が高い男女、身近な人が新型コロナに感染した女性が一時的に控えたいと思う傾向が強かった。また、家事や育児の負担が過去1年間に増えた女性は、コロナ禍で一時的に妊娠を控える傾向が見られた。一方、2020年は在宅勤務をしていなかったものの、2021年に在宅勤務をするようになった女性は、一時的に妊娠を控えるようになる傾向が小さく、在宅勤務の導入は、コロナ禍で妊娠を控える傾向を和らげる可能性があることが示唆された。
 
5 新型コロナ流行前の妊娠希望の有無は、本調査では聞いていないため、その割合は、ベネッセ総合研究所の未妊レポート2013(https://berd.benesse.jp/up_images/research/p1-16.pdf, 2021年5月25日アクセス)より、子のいない既婚男性のうちの子どもを持ちたい人の割合である67.3%と子のいない既婚女性の子どもを持ちたい人の割合である56.9%として推計した。また、子がいる人の妊娠希望者の割合は、株式会社ベビーカレンダーによる調査の経産婦のコロナ流行前の第2子以降を希望する人の割合である48%として推計した(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000079.000029931.html, 2021年5月25日アクセス)。
6 厚生労働省、令和2年12月24日「令和2年度の妊娠届出数の状況について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15670.html, 2021年5月25日アクセス)
 

4―― 新型コロナによって中期的に…

4―― 新型コロナによって中期的に予想される出生数の減少は約2%

一時的にコロナ禍では妊娠を控えたいと思った人が子を持ちたい人のうち約2割であった一方、コロナ拡大によって将来的に持ちたい子の数が減った人の割合は40歳以下の回答者のうち約3%であった。そして、コロナ禍で将来的に持ちたい子の数が増えた人も約2%いた。将来的に子を持つ事を希望していると考えられる人の間で見ると7、将来的に持ちたい子の数が減った人の割合は約4%で、一方、将来的に持ちたい子の数が増えた人は約2%であった。このことから、2020年から2021年にかけては、一時的に妊娠を控えたことによると思われる出生数の大きな減少があるものの、将来的に持ちたい子の数の変化からみれば、中期的なネットでのコロナの影響による出生数の減少は2%程度と予想される。

将来的に持ちたい子の数が減った理由として最も多く選択されたのが、「子育てへの経済的な不安」で、コロナ拡大の影響で将来的に持ちたい子の数が減ったと答えた人の45%が選択した。そして、次に多く選択されたのが「ワクチンの親子への影響の不安」で32%であった。経済的な不安を小さくする支援や、ワクチンの妊娠出産への影響についての正しい情報を明らかにすることが中期的な新型コロナの少子化への影響を小さくするための対策として重要なことがわかる。

さらに、将来的に持ちたい子の数が減った人の特徴としては、年齢が若い男女、子どもが2人以上いる男性、高収入の男女(年収700万円以上)、身近な人が新型コロナに感染した男性が挙げられる。高収入の人ほど、(子育てへの経済的な不安によっても)将来的に持ちたい子の数を減らす傾向が見られることから、経済的な不安を小さくするための対策は、新型コロナの少子化加速への影響を防ぐ対策として、年収の多寡にかかわらず、重要であることが示唆される。また、家事育児負担の増加は、女性の将来持ちたい子の数を減らす傾向が見られた他、男性は在宅勤務をするようになったり、仕事量が減たりすると、将来的に持ちたい子の数が減る傾向が見られた。
 
7 新型コロナ流行前の将来的に子を持ちたいかどうかの希望については、本調査では聞いていないため、既存の調査の結果を用いて推計した。40歳以下の未婚者の新型コロナ流行前の将来的に子を持つことを希望する人の割合は国立社会保障・人口問題研究所による第15回出生動向基本調査を元に、男性は78%(未婚者でいずれ結婚を希望する人の85.7%×不詳を除きいずれ結婚を希望する人の希望の子ども数が1以上の人の割合91%)、女性は83%(未婚者でいずれ結婚を希望する人の89.3%×不詳を除きいずれ結婚を希望する人の希望の子ども数が1以上の人の割合93%)として推計した。子のいない既婚者の子どもを持ちたい人の割合は、ベネッセ総合研究所の未妊レポート2013(https://berd.benesse.jp/up_images/research/p1-16.pdf, 2021年5月25日アクセス)より、男性は、67.3%と女性は56.9%として推計した。また、子がいる人の妊娠希望者の割合は、株式会社ベビーカレンダー(2020年6月8日)による調査の経産婦のコロナ流行前の第2子以降を希望する人の割合である48%として推計した(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000079.000029931.html, 2021年5月25日アクセス)。
 

5―― コロナ禍で結婚したいと…

5―― コロナ禍で結婚したいと感じた人は未婚者/1年以内の結婚者のうち17%

さらに、出産につながる重要なライフコースである結婚について、新型コロナ拡大によって結婚したいと感じた人は、40歳以下の未婚者もしくは1年以内の結婚者のうち約17%であった。コロナ禍で結婚意欲が下がった人の割合は本調査では質問項目に含まれていないため確認できていないが、別調査によると、コロナ禍では、結婚意欲が下がった人よりも高まった人の方が多いことが確認されている8。しかし、結婚意欲は高まっているものの、実際の2020年の婚姻届の件数は、前年比12.7%減少している9。このことは、コロナ禍での婚姻届の提出を延期する人が多い可能性を示すとともに、出会いから1年以内で結婚する人も一定割合いることから10、コロナ禍での出会いの難しさが影響を与えている可能性も考えられる。コロナ禍での結婚意欲の高まりを活かしつつ、コロナ禍での出会いの難しさを克服するような対策を考えていくことが重要かもしれない。
 
今後、コロナ禍で一時的に妊娠を控える傾向についての詳細な分析結果は『家族計画の変化に見る、新型コロナの少子化への影響(2)―一時的に妊娠を控える傾向について―』、将来的に持ちたい子の数の減少についての詳細な分析結果は『家族計画の変化に見る、新型コロナの少子化への影響(3)―将来的に持ちたい子の数の減少について―』、結婚願望の高まりについては『家族計画の変化に見る、新型コロナの少子化への影響(4)―結婚願望の高まりについて―』の基礎研レターで、それぞれ紹介していく。読者の興味に合わせてご参照頂きたい。
 
8 株式会社ネクストベル, 2020年6月15日, 「新型コロナウイルスの流行により結婚に対する意識にどう変化が生じたか」(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000037.000032757.html, 2021年5月25日アクセス)
9 厚生労働省「人口動態統計速報(令和2年12月分)」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/s2020/dl/202012.pdf, 2021年5月25日アクセス)
10「第15回出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所)によると、結婚持続期間5年未満の夫婦で、交際期間が1年未満の割合は12%。
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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

(2021年05月28日「基礎研レター」)

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