2021年05月20日

わが国の不動産投資市場規模(3)~商業施設の「収益不動産」は約71.1兆円、物流施設は約23.9兆円、ホテル・旅館は約12.9兆円。

金融研究部 主任研究員 吉田 資

株式会社価値総合研究所 パブリックコンサルティング第3事業部 主任研究員 室 剛朗 

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1. はじめに

日本の不動産投資市場は、J-REIT市場の開設以降、拡大が続いている。投資対象資産は、当初、オフィスビルが中心であったが現在は多岐に渡っており、投資エリアについても広がりをみせている。

拡大を続ける不動産投資市場の将来を見通すにあたり、投資対象となる「収益不動産1」の資産総額がどれくらいの規模であるのか、また、その内訳について「用途別」や「エリア別」に把握することは重要だと考えられる。そこで、ニッセイ基礎研究所と価値総合研究所は、共同でわが国の不動産投資市場規模(収益不動産ストック)に関する調査を実施した。

前回までの2つのレポート2では、「収益不動産ストック」の推計方法と、「オフィス」と「住宅」に関する推計結果を解説した。本稿では、(1)「商業施設」(2)「物流施設」(3)「ホテル・旅館」に関する推計結果の内容を報告する。
 
1 事業者や個人に物件を賃貸することで、賃料収入を獲得できる不動産。
2 吉田資・室 剛朗『わが国の不動産投資市場規模(1)』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2021 年3 月12 日
 吉田資・室 剛朗『わが国の不動産投資市場規模(2)』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2021 年4 月19日
 

2. 商業施設の資産規模の推計結果

2. 商業施設の資産規模の推計結果

2-1. 概要
商業施設の「収益不動産ストック」を把握するため、

(1)一定水準以上の面積基準や築年基準を満たす「収益不動産」
(2)機関投資家の投資意欲が特に強いスペックや立地要件を満たす「投資適格不動産」

のカテゴリーに分類し、推計を行った(図表-1)。
図表-1 「収益不動産ストック」の定義(商業施設)
まず、商業施設の資産規模は、「収益不動産」で約71.1兆円、「投資適格不動産」で約50.7兆円、と推計された(図表-2)。「オフィス」(「収益不動産:約99.5兆円」、「投資適格不動産:約71.0兆円」)に次ぐ資産規模を有している。

不動産投資市場の将来を見通す上で、「不動産証券化」の視点は重要である。そこで、各カテゴリーにおけるJ-REITの保有比率を確認すると、「収益不動産」で4.7%、「投資適格不動産」で5.0%となった。前述の「オフィス」におけるJ-REITの保有比率(「収益不動産:9.2%」、「投資適格不動産:11.9%」)や、「住宅」の比率(「収益不動産」:5.2%、「投資適格不動産」:9.4%)と比べると、商業施設の比率は低い水準に留まっている。
図表-2 商業施設の「収益不動産ストック」とJ-REITの占率
次に、商業施設の「収益不動産ストック」に対する年間の取引量(以下、市場回転率3)を確認する。

RCAによれば、商業施設の年間取引額は、ファンドバブルと言われ活況を呈した2007年には約1.2兆円に達した。その後、リーマンショックや東日本大震災等の影響により取引額は低迷したが、2013年にスタートしたアベノミクス以降、国内外の投資資金が流入し、2015年と2017年の取引額は1兆円を超えたが、2020年はコロナ禍を受けて、約0.4兆円(前年比▲37%)に減少した(図表-3)。

また、取引額に占めるクロスボーダー取引(外国資本による取引)の割合は、取引額が1兆円を超えた2017年は42%に達したが、2020年は6%まで低下した。昨年は、緊急事態宣言時における大型商業施設への休業・時短営業要請などに伴い施設売上が低迷し、投資家の様子見姿勢が強まったこと等から商業施設の取引額は大きく落ち込んだ。

2007年から2020年の商業施設の年間取引額は、平均0.7兆円であった。これに基づく市場回転率は、「収益不動産」で1.0%、「投資適格不動産」で1.4%と推計される(図表―4)。前述のオフィス(「収益不動産:2.1%」、「投資適格不動産:3.1%」)と比べて、商業施設の市場流動性は低いようだ。
図表-3 商業施設の取引額(2007年~2020年)/図表-4 商業施設の市場回転率
 
3 「市場回転率」=年間取引額÷収益不動産ストック
2-2. エリア別にみた商業施設の「収益不動産ストック」
商業施設の「収益不動産(71.1兆円)」をエリア別にみると、「関東地方」が約32.7兆円(占率46%)と最も大きく、次いで「近畿地方」が約14.0兆円(20%)、「中部地方」が約8.8兆円(12%)、「北海道・東北地方」が約6.0兆円(8%)、「九州・沖縄地方」が約5.9兆円(8%)、「中国・四国地方」が約3.8兆円(5%)と推計された(図表―5)。「収益不動産」の5割弱が「関東地方」に集積している。
図表-5 商業施設の「収益不動産」の市場規模(単位:兆円)
続いて、商業施設の「投資適格不動産(50.7兆円)」をエリア別にみると、「東京都」が約9.6兆円(占率19%)と最も大きく、次いで「神奈川県」が約5.0兆円(10%)、「大阪府」が約4.5兆円(9%)、「千葉県」が約3.8兆円(8%)、「愛知県」が約3.6兆円(7%)と推計された(図表―6)。
図表-6 商業施設の「投資適格不動産」の市場規模(単位:兆円)

3. 物流施設の資産規模の推計結果

3. 物流施設の資産規模の推計結果

3-1. 概要
物流施設の「収益不動産ストック」を把握するため、(1)「収益不動産」、(2)「投資適格不動産」のカテゴリーに分類し、推計を行った(図表-7)。

まず、物流施設の資産規模は、「収益不動産」で約23.9兆円、「投資適格不動産」で約10.8兆円と推計された(図表-8)。

各カテゴリーにおけるJ-REITの保有比率を確認すると、「収益不動産」で15.5%、「投資適格不動産」で29.8%となった。「収益不動産」の約7分の1、「投資適格不動産」の約3分の1をJ-REITが保有しており、J―REITによる投資が最も進んでいるアセットタイプといえる。
図表-7 「収益不動産ストック」の定義(物流施設)
図表-8 物流施設の「収益不動産ストック」とJ-REITの占率
次に、物流施設の市場回転率を確認する。RCAによれば、2020年の物流施設の取引額は、約0.8兆円(前年比+5%)に増加した。また、取引額に占めるクロスボーダー取引の割合は29%であった(図表-9)。ネット通販関連貨物の増加に伴い、EC 関連企業は物流拠点の拡大に積極的で、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率は1.1%と、低水準で推移している(2021年 第1四半期・CBRE 調べ)。賃料も緩やかに上昇していることから、投資家の関心は高く、コロナ禍においても「物流施設」の取引は好調であった。

2007年から2020年の物流施設の年間取引額は、平均0.5兆円であった。これに基づく市場回転率は、「収益不動産」で2.1%、「投資適格不動産」で4.6%と推計される(図表-10)。「投資適格不動産」を基準とした場合、米国(約4.5%4と推計)と同水準の不動産取引が行われていると言える。
図表-9 物流施設の取引額(2007年~2020年)/図表-10 物流施設の市場回転率
 
4 PGIM Real Estate 「A Bird’s Eye View of Real Estate Markets: 2017 Update」によれば、アメリカ合衆国の「収益不動産」(全プロパティ)の資産規模は、約8.1兆ドル。RCAによれば、アメリカ大陸の年間取引額(2007年から2020年の平均値)は、約0.3兆ドル。
3-2. エリア別にみた物流施設の「収益不動産ストック」
物流施設の「収益不動産(23.9兆円)」をエリア別にみると、「関東地方」が約11.6兆円(占率49%)と最も大きく、次いで「近畿地方」が約5.2兆円(22%)、「中部地方」が約2.8兆円(12%)、「九州・沖縄地方」が約2.0兆円(8%)、「北海道・東北地方」が約1.4 兆円(6%)、「中国・四国地方」が約0.9兆円(4%)と推計された(図表―5)。「収益不動産」の約5割が「関東地方」に集積している。
図表-11 物流施設の「収益不動産」の市場規模(単位:兆円)
続いて、物流施設の「投資適格不動産(10.8兆円)」を都道府県別にみると、「神奈川県」が約2.0兆円(占率18%)と最も大きく、次いで「千葉県」が約1.6兆円(14%)、「埼玉県」が約1.5兆円(14%)、「東京都」が約1.2兆円(11%)、「大阪府」が約1.0兆円(10%)と推計された(図表―12)。「投資適格不動産」の約6割が「東京圏(1都3県)」に集積していることになる。
図表-12物流施設の 「投資適格不動産」の市場規模(単位:兆円)
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金融研究部

吉田 資 (よしだ たすく)

株式会社価値総合研究所 パブリックコンサルティング第3事業部 主任研究員 室 剛朗 

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