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コラム
2021年05月18日
原油価格の動向は企業の直面する物価に大きく影響
新型コロナウイルスの感染拡大により2020年4月下旬に1バレル10ドル台まで下落した原油価格は、世界的な経済活動の持ち直しや、OPECによる協調減産の動きを背景に上昇基調にあり、足もとでは1バレル当たり60ドル台まで上昇している。原油価格の上昇は企業のコストを上昇させるため、企業収益を圧迫する要因となる。
企業間の財の取引価格をあらわす国内企業物価指数を構成項目ごとに寄与度分解すると、石油・石炭製品や、原油との関係の深い電力・都市ガス・水道、化学製品の寄与が大きく、2020年はこれらの構成項目の下落により、国内企業物価の落ち込みの大部分を説明することができる(図表1)。足もとでは石油・石炭製品、化学製品がプラス寄与に転じており、原油価格の変動が企業の直面する物価に大きな影響を与えていることがわかる。
もっとも、コストの上昇分が製品価格に適切に転嫁されれば、企業は原油価格の上昇に伴う収益への下押し圧力を緩和することができる。そこで、価格転嫁がどの程度十分に行われているのかを調べるために、日本銀行が公表している製造業部門別投入・産出物価指数を用いて、2000年以降の原油価格上昇局面において投入物価が上昇し始めた時点を起点として、投入物価・産出物価の伸びと、価格転嫁率1の推移を素材・加工型製造業別に求めた(図表2)。
もっとも、コストの上昇分が製品価格に適切に転嫁されれば、企業は原油価格の上昇に伴う収益への下押し圧力を緩和することができる。そこで、価格転嫁がどの程度十分に行われているのかを調べるために、日本銀行が公表している製造業部門別投入・産出物価指数を用いて、2000年以降の原油価格上昇局面において投入物価が上昇し始めた時点を起点として、投入物価・産出物価の伸びと、価格転嫁率1の推移を素材・加工型製造業別に求めた(図表2)。
素材型製造業では、価格転嫁率がいずれの期間でもおおむね50%~70%程度となっており、ある程度十分に価格転嫁が行われていると判断される。一方、加工型製造業では、価格転嫁率が素材型を下回っているほか、マイナスとなっている期間も長い。
足もとの状況を確認すると、2020年第2四半期以降の原油価格上昇局面では、素材型製造業の価格転嫁率は60%前後と比較的高水準で推移している。一方、加工型製造業では、価格転嫁率が非常に低くなっているが、投入物価の上昇ペースがゆるやかなものにとどまっているため、企業収益への影響は軽微に抑えられたとみられる。ただし、先行きの原油価格がさらに上昇し、投入物価の上昇ペースが加速した場合には、産出物価への価格転嫁が追いつかず、企業収益が圧迫される可能性がある。
足もとの状況を確認すると、2020年第2四半期以降の原油価格上昇局面では、素材型製造業の価格転嫁率は60%前後と比較的高水準で推移している。一方、加工型製造業では、価格転嫁率が非常に低くなっているが、投入物価の上昇ペースがゆるやかなものにとどまっているため、企業収益への影響は軽微に抑えられたとみられる。ただし、先行きの原油価格がさらに上昇し、投入物価の上昇ペースが加速した場合には、産出物価への価格転嫁が追いつかず、企業収益が圧迫される可能性がある。
1 価格転嫁率=産出物価の伸び/投入物価の伸び
企業収益に与える影響を試算
実際に、原油価格の上昇によって企業収益はどの程度押し下げられるのだろうか。影響の大きさを求めるため、価格転嫁率の過去の実績と、原油価格の上昇による投入物価への波及効果の試算結果をもとに、企業収益への悪影響の大きさを業種別に計算した。
まず、原油価格の上昇による投入物価への波及効果を、業種ごとに試算する。直近の原油価格上昇局面である2016年第3四半期から2018年第4四半期にかけて、原油価格は約2倍に上昇し、それに伴い石油・石炭製品の投入物価は2倍以上に上昇している。これをもとに、石油・石炭製品の投入物価が2倍になった場合を想定し、各業種の投入物価がどれだけ上昇するのか、産業連関表を用いて計算すると、原料に石油を多く使用する化学製品(製造業)の投入物価が13%と上昇幅が最も大きくなり、次いで鉄鋼が7%、窯業・土石製品が5%となった(図表3)。上昇幅の大きい業種は素材型製造業種であり、加工型製造業種は上昇幅が相対的に小さくなっている。なお非製造業では、燃料として原油を使用する運輸・郵便や、電力・ガス・熱供給で大きく上昇し、それぞれ12%、8%程度上昇する結果となった。
次に、原油価格の波及効果に加え、業種ごとの価格転嫁率をもとに、石油・石炭製品の投入物価が2倍になったとき、四半期あたりの経常利益がどれだけ押し下げられるのかを業種ごとに試算したところ、(図表4)の通りとなった。
次に、原油価格の波及効果に加え、業種ごとの価格転嫁率をもとに、石油・石炭製品の投入物価が2倍になったとき、四半期あたりの経常利益がどれだけ押し下げられるのかを業種ごとに試算したところ、(図表4)の通りとなった。
石油・石炭製品は経常利益が大幅に押し下げられる。投入物価の上昇に加え、売上高変動費率が非常に高い(2020年実績は97%。製造業平均は76%)ことが押し下げに寄与している。そのほか、繊維製品や化学製品、パルプ・紙・木製品などの素材型製造業種も経常利益が大きく押し下げられている。また、加工型製造業種は経常利益が約2割程度押し下げられている。加工型製造業は原油価格の上昇による波及効果が相対的に小さいものの、価格転嫁率が素材型製造業よりも小さいことが、経常利益を押し下げる要因となっている。一方、窯業・土石製品、鉄鋼では、原油価格の上昇が経常利益の押し上げ要因となっている。これらの業種は価格転嫁率が高いため、産出物価の上昇による売上高の増加分が、投入物価の上昇による変動費の増加分を上回ったことが影響している。
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藤原 光汰
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(2021年05月18日「研究員の眼」)
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