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「名古屋オフィス市場」の現況と見通し(2021年)

金融研究部 主任研究員 吉田 資
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3. 名古屋オフィス市場の見通し
(1)オフィスワーカー数の見通し
住民基本台帳人口移動報告によると、2020年の名古屋市の転入超過数は+3,075人と、10年連続で転入超過となった。ただし、転入超過数は、2015 年をピークに縮小傾向にある(図表-11)。
愛知県の就業者数は、2016年以降4年連続で増加し、2019年には414.9万人に達した。しかし、2020年の就業者は414.7万人(前年比▲0.2万人)となり、僅かであるが減少した(図表-12)。また、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」によると、名古屋市の生産年齢人口は減少基調で推移する見通しとなっている(2025年は2015年比▲1.1%減少)(図表-13)。
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI3」(東海地方)は、2020年第2四半期に「▲52.2」と一気に悪化した。翌第3四半期はプラスに回復したもののその後は再び悪化し、2021年第1四半期は「▲2.3」となった(図表-14)。
また、「従業員数判断BSI4」(東海地方)は、不足の「21.1」(2020年第1四半期)からやや過剰の「▲1.3」(第2四半期)へ大幅に低下した後、足もとでは「+7.7」まで回復している(図表-15)。しかし、コロナ禍による「雇用環境」への影響は、全国平均と比べてやや大きい傾向がみられる。
また、名古屋商工会議所「新型コロナウィルス感染症に関する調査」(2020年9月調査)によれば、新型コロナウィルス感染症の拡大防止策として、「テレワーク(在宅勤務等)を実施し、現在も実施している」との回答は32%で、大企業では70%に達している(図表-17)。
名古屋におけるテレワーク実施率は東京と比べて低いものの、コロナ禍を経て「在宅勤務」を導入する企業は増加しているようだ。今後とも「在宅勤務」と「オフィス勤務」を組み合わせた働き方が続くと予想され、オフィス需要への影響を注視する必要がある。
3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
リニア中央新幹線の名古屋駅開業に対する期待は大きい。中部圏社会経済研究所「中部圏経済白書2018」によれば、リニア中央新幹線の名古屋駅開業に伴う経済効果は、愛知県で2兆2,738億円(全国で14兆8,204億円)と推計されている。
「名駅地区」と「栄地区」では、リニア開業を見据えた再開発事業が進展しており、オフィス需要にもプラスの効果が期待されている。
名古屋市「名古屋駅周辺まちづくりの現在の状況(令和2年3月)」によれば、「名駅地区」では、(1)「名古屋駅駅前広場周辺の再整備等」、(2)「リニア駅周辺の面的整備」、(3)「ささしまライブ24地区・名駅南地区へのアクセス改善等の推進」等が進んでいる(図表-18)。(1)「名古屋駅駅前広場周辺の再整備等」に関して、名古屋市は、名駅東側の駅前広場とともにオフィス集積の少ない西側の駅前広場を整備し開発誘導を行うというまちづくりの方針を示している。今後、名駅西側でもオフィスの開発が進めば、「名駅地区」のオフィスエリアとしての位置付けは高まり、就業者数の増加が期待される。
「名駅地区」における大規模ビルの開発は、2021年の「名古屋三井ビルディング北館」、2023年の「名駅4丁目OTプロジェクト」、「名鉄名古屋駅地区再開発事業」(竣工時期未定)等が計画されている。
「栄地区」でも、リニア中央新幹線開業に向け、名古屋市が「栄地区グランドビジョン―さかえ魅力向上方針―」を策定し、「公共空間の再生」、「民間再開発の促進」、「界隈性の充実」の3つを方針に掲げ、まちづくりを進めている(図表-19)。
「栄地区」における大規模ビルの開発は、2022年の「アーバンネット名古屋ネクスタビル」、2023年の「新中日ビル計画」等が計画されている。
また、名古屋鉄道は、新型コロナウィルス感染拡大に伴うテナント需要の変化を見極めるため、前述の「名鉄名古屋駅地区再開発事業」の着工を当初予定の2022年から延期し、2024年度を目途に見直し後の計画を決める方針とした6。
リニア中央新幹線の開業工事や、リニア開業を見据えた再開発事業の先行きに不透明感が増しており、その動向を注視していく必要がある。
5 日本経済新聞「JR東海、リニアに4300億円、来期設備投資13%増、工事、静岡以外は予定通り。」2021/3/26
6 日本経済新聞「名鉄、名駅周辺の再開発延期 21年3月期初の営業赤字」2020/11/10
名古屋では、2016 年に「シンフォニー豊田ビル」、2017年に「JR ゲートタワー」、「グローバルゲート」と、名駅周辺で大規模ビルの竣工が相次いだ。そのため、総ストックに占める過去5年間の新規供給面積は4.2%と、東京都心5区に次いで高い水準であった。過去10年間でみても新規供給面積の割合は9.1%となり、こちらも東京都心5区に次いで高い(図表-20)。
ただし、2020年の新規供給面積は7,000坪となり、過去10年間の平均(年間1.2万坪)の約6割の水準に留まった(図表-21)。
今後の大規模ビルの竣工は、2021年の「名古屋三井ビルディング北館」、「(仮)ノリタケの森プロジェクト」、「GRANODE名古屋丸の内」、「関電不動産伏見ビル」、2022年の「アーバンネット名古屋ネクスタビル」、「(仮)名古屋ビル東館」、2023年の「名駅4丁目OTプロジェクト」、「新中日ビル計画」等が予定されている。
前述の新規供給見通しや経済予測 、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2025年までの名古屋のオフィス賃料を予測した(図表-22)。
名古屋市では、2020年の就業者数が減少に転じた。新型コロナウィルス感染拡大により、雇用環境が大きなダメージを受けるなか、「在宅勤務」を導入する企業も増加しており、オフィスワーカー数は減少に向かう可能性が高いと予想される。また、リニア中央新幹線の開業時期および開業を見据えた再開発の進捗にも先行き不透明感が増している。以上を鑑みると、名古屋のオフィス需要は当面弱含み、空室率は緩やかに上昇すると予想する。
名古屋のオフィス成約賃料は、空室率の上昇に伴い、下落基調で推移する見通しである。2020年の賃料を100とした場合、2021 年の賃料は「95」に、2025 年は「92」へと下落すると予想する。ただし、ピーク(2019年)対比で▲12%下落するものの、2017 年の賃料水準「89」を上回る水準にとどまり、リーマンショック後のような大幅な賃料下落には至らない見通しである。
(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
(2021年04月16日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
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