2021年04月12日

えひめ結婚支援センターにおけるイベント成婚「年の差」分析結果-「年の差婚」の正しい認識が成功のカギ-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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はじめに-独自の目標を掲げるセンターの姿

筆者は2017年より愛媛県法人会連合会が運営する「えひめ結婚支援センター」(愛媛県法人会連合会内設機関)のマッチングビッグデータ分析チームに所属させていただいている(チームリーダーは国立情報学研究所・情報学プリンシプル研究系教授 宇野 毅明氏)。
 
えひめ結婚支援センター(以下、センター)は全国にある都道府県別の公益型の地域結婚支援センターとしては、特筆すべき特徴を持っている。それは自治体型の結婚支援センターの運営母体が「法人会」1である、という点である。これは愛媛県独自の公益型結婚支援の在り方である。
 
なぜ法人会が運営しているのか。

そこには近年大きくクローズアップされている、地方創生のあり方の大きなヒントの1つとなるだろう設立理念がある。
 
センターは2008年11月(平成20年)に一般社団法人愛媛県法人会連合会(以下、法人会)によって設立され、すでに12年を超える歴史を持つ。当時、法人会はかつてない「ある深刻な問題」に直面していた。

法人会は主要事業のひとつとして適切な納税指導を地元企業に対して行っているが、相談を受ける中で企業経営者たちから、経営内容は良好であるにもかかわらず、「黒字倒産の可能性」についての話が少なからず出てきていたのだ。
 
なぜ黒字経営であるにも関わらず、倒産の可能性が経営者から相談されるような事態になっていたのか。

それは、後継者がいないからである。

「残念ながら、2代目に子どもが授からなかったのか」という話ではない。経営を承継している息子・娘はいるものの、そもそも結婚をしていないので、家族経営の事業を引き継ぐ者がいないという嘆きである。

このような相談が少なくない中で「愛媛県の中小企業の少子化対策は、子育て支援以前の問題。つまり、黒字倒産につながる『後継者の未婚化』解消にあるのではないか」との結論に至った法人会が結婚支援センターの設立に挙手し、立ち上がったのだ。
 
法人会によると自治体型2の結婚支援センターとしては都道府県で21番目という遅いスタートだったものの、運営理念が漠然とした「地域の未婚化を阻止する」というような内容ではなく、組織目標が具体的、かつ、地元企業を巻き込んで効率的なマッチングを強力に進めてくことができるため、その後、急速な発展を遂げた。
 
特に2013年からは従来型の「釣書と電話」によるお見合い作戦ではなく、ITを活用したマッチングシステムの導入を行った。この際、センターのボランティアで構成される結婚支援者(通称、「サポーター」)も、電話による情報伝達しか対応できなかった者は「メール研修」を受け、業務でのメール対応が必須とされた。これは、利用者側からの「いちいち電話や手紙で日程確認されるのは困る」というクレームに応えた、ユーザー目線に合わせた大きな改革であった。この時、地元企業によって開発されたマッチングシステムが「えひめ方式」と呼ばれ、今では四国4県、山陰、中部など、多くのエリアで活用されている。
 
センターはシステム活用によるお見合いマッチング効率を上げるために、2013年に宇野教授をリーダーとした結婚支援ビッグデータ研究会を設置し、その成果をシステムやサポーターに還元し改革・改善を続けている。

筆者が2017年に同研究会に入って感じたことは、システムの改良は先進的であるが、さらにサポーターの行動や登録者の行動をより効率的かつ効果的にサポートするための、支援者へのデータの提供が必要である、ということであった。

そこでサポーターの方達に、国の婚姻統計を用いた「結婚成立のリアルデータ」を毎年学んでいただく機会(サポーター勉強会)を提案し、勉強会では、成婚の年齢別発生状況、再婚発生割合、夫婦の年齢差の推移、結婚支援が現代において統計的にもつ意味など多面的な情報提供を行っている。
 
参加しているサポーターの方達からは、「統計に基づいた婚姻の実態を知って、目からうろこだった」「考えを改める必要を感じた」「婚活支援に向けて勇気が出た」「婚姻実態を活動者にも広めたい」等、好評を得ており、情報のアップデートへの熱心なご要望に今後も応えていきたいと考えている。

勉強会の際などにサポーターの方達からヒアリングをすると、サポーターや結婚を望む男女(またその親族)の結婚への強い思い込みが何よりも「成婚への壁」になっていることが、強く伝わってくる。
 
今回は、その強い「思い込み」について、センターに限らずあらゆる結婚支援者から挙がる最大の問題といっても過言ではない「男女の年の差」問題について、愛媛県法人会連合会、ならびに愛媛県の協力のもとに得たマッチングデータを解析した結果をレポートしたい。
 
解析結果をもとに、エビデンスに基づく適切な結婚支援、ならびに成婚に向けた活動の選択がなされることを期待したい。
 
1 法人会は、中小企業や個人事業主を会員の対象とした非営利団体組織で、税の啓発や租税教育を積極的に進めている。税務署の管轄地域毎に社団法人(地域法人会)が存在し、それを束ねる中央組織として公益財団法人全国法人会総連合(全法連)がある。
2 センター設立は、県の交付金事業に法人会が応募する形で開始された。
 

1――結婚支援イベント参加者における成婚分析結果

1――結婚支援イベント参加者における成婚分析結果

1-1 平均成婚年齢差は2歳で全国平均並み/揺るがない成婚トレンド
センターより2020年7月にデータ提供を受けたイベントデータによると、センター主催(またはセンター応援企業主催)のイベントに参加した男女から交際が成立したカップルは、のべ7982件にのぼる。マッチングシステムの本格稼働が2014年あたりからとすると、7年あまりで8千件近い交際を誕生させており、1年間に千件を超えるペースで男女の出会いを生み出しているセンターの取り組みには脱帽する。

この7982件の交際から実際に成婚にいたった件数は261件であり、イベントによるカップリング後の成婚率は 3.3%であった。
 
イベントをきっかけとして成婚した男女のイベント参加(成婚に至る出会い)時の平均年齢は、男性35.9歳(中央値36歳) 女性33.7歳(中央値33歳)となっている。
 
筆者が2018年の婚姻統計をもとに算出した全国の成婚男女のピーク年齢は、初婚男性27歳、初婚女性26歳である3。これと比べると、男性は9歳(36歳-27歳)、女性は7歳(33歳-26歳)年齢が高い。統計的には年齢が上昇するほど成婚件数が急減する傾向があることから、成婚件数を上げるには、センターの課題として「イベント参加者の年齢の引き下げ」戦略の検討が必要となる。
 
また、成婚カップルの平均年齢差は2.1歳、年齢差の中央値は2.0歳となった(図表1)

全国平均での成婚カップルの年齢差は再婚者を含めると2.2歳、初婚者同士では1.7歳であることから、イベントによる成婚は、参加者が高齢化傾向である地方においても、大きな差は出ない、ということが示された。
【図表1】えひめ結婚支援センター開催イベントによる成婚カップル年齢差(男性-女性)別 成婚件数(件)
1-2 5歳差までに成婚の7割が集中/イベント設計に工夫を
男女の成婚年齢差をみると、男性2歳年上がピークとなり、女性1歳年上から男性6歳年上までがボリュームゾーンとはなっている(図表1)ものの、男女どちらの年齢が上であっても、5歳差までに7割のカップルが入っている(図表2)
 
このことから、イベントにおいて今後できる限り成婚に至るようなカップルを多く誕生させたい目的を持つ場合は、参加男女の年齢差が5歳差までに収まるようなイベントを仕掛けることが効率的であると指摘できる。

逆に言えば、図表からみて統計的外れ値となるような10歳を超えるような年齢差の男女が集まるイベント設計では、「そもそも成婚に至らない男女を集めた」イベント色が強くなる。
 
実際、別の自治体結婚支援センターからは「20代女性がイベントに参加している場所に、50代男性が参加すると、『今後は参加したくない』といったアンケート回答が寄せられて悩んでいる」という声も出ている。統計的に妥当な男女の年齢幅でのイベントを設計する、という考え方は、イベント参加離れを防止する観点からも必要であるだろう。
【図表2】男女の年齢差(どちらが年上かを問わない)でみた成婚割合
公費で運営される部分もある自治体型センターは、その最大目標である「地域の未婚化解消」に加えて、費用対効果を踏まえた運営が求められていると考える。ゆえに、有償のセレブ結婚相談所に求められるような「年の差ドリーム婚(主に男性からの要望)」「高収入ドリーム婚(主に女性からの要望)」の期待にそうようなイベント設計は、マッチング発生確率の極めて低い結果につながることから、なされるべきではない。

成婚の確率をしっかりと視野に入れたブレないイベント運営を全国の自治体センターに期待したい。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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