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株価リスクの低下は先行不透明感の払拭と同義か?

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 高岡 和佳子
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最後に、株価変化率から企業価値の変化率を導出する方法を、図表4(右)を用いて説明する。企業価値が負債に比べて十分大きい場合、株式の価値を示す線の傾きはほぼ1(角度45度の直線)である。つまり、株式の価値の変化分と企業価値の変化分は等しい。2章でも説明したように、分子である価値の変化分が同じであれば、株価変化率と企業価値の変化率の比は、分母である株式の価値(縦軸)の逆数と企業価値(横軸)の逆数の比に一致する。つまり、株価変化率を企業価値と株式の価値の比(企業価値÷株式の価値)で割ることで、企業価値の変化率を導出できる。しかし、企業価値が低いほど株式の価値を示す線の傾きは小さくなり、株式の価値の変化分は企業価値の変化分とは一致せず、企業価値の変化分に株式の価値を示す線の傾きを乗じた値と一致する。この影響を考慮するためには、株価変化率を企業価値と株式の価値の比(企業価値÷株式の価値)で割った上に、更に株式の価値を示す線の傾きで割る必要がある。ここで、時点tにおける負債比率の高さに依存するもの(企業価値÷株式の価値×株式の価値を示す線の傾き)を





2 正しくは、企業価値の変化率の誤差項(企業価値の変化率と企業価値変化率に対する直前の期待値との差)であるが、当レポートでは、企業価値変化率の期待値を0%と仮定しているため、企業価値の変化率と一致する。
4――株価リスクの推移と、レバレッジ要因、事業リスク要因
図表5は電気機器、情報・通信業、化学の3業種を対象に2006年~2010年と2016年~2020年のデータを用いてそれぞれ推計した結果である。3業種全てにおいて、極端な変化率データを除いて算出しても2016年~2020年の株価リスクは2006年~2010年の株価リスクよりも統計的有意に低いが、その要因は異なる。
電気機器(上段)は事業リスク(青)自体も低下しているが、レバレッジ要因(赤)も低下している。株価リスク低下のおよそ4割はレバレッジの変化で説明ができる。
情報・通信業(中段)は、レバレッジ要因は低下しておらず、株価リスク低下は事業リスクの低下に起因しているようだ。
一方、化学(下段)は、事業リスク自体はさほど変化しておらず、株価リスク低下はレバレッジ要因の低下に起因しているようだ。コロナ・ショック時の株価リスクはリーマン・ショック時ほど上昇していないが、事業リスク自体はコロナ・ショック時もリーマン・ショック時と大差なかったことが分かる。つまり、観測不能な事業リスク(投資家の事業リスクに対する態度)の代わりに株価リスクを用いて、なんらかの意思決定を行う場合、リーマン・ショック時もコロナ・ショック時も事業リスクは同程度なのに、誤った意思決定をしてしまった可能性が有る。
レバレッジによる日次株価リスクの低下の影響は、会計上の数値を基準に評価すると極めて軽微であったが、株価に織り込まれる情報を勘案すれば、決して小さくない。業種によって異なるものの事業リスク要因をやや下回る程度の影響がありそうだ。とはいえ、株価リスクの低下の主たる要因は事業リスク要因である。10年間でビジネス環境が大きく変化した可能性も否定できないが、10年前との比較では、投資家がリスクを小さく評価している、もしくは投資家が将来をより楽観的に捉えていると解釈する方が自然である。
3 ただし、未上場の政府保有株式については、株式時価総額及び負債算出の際に勘案・調整している。
5――最後に
事業リスクは2006年~2010年から2011年~2015年にかけて低下し、その後2016年~2020年にかけて上昇に転じているのに、図表1に示した通り、株価リスクは2006年~2010年、2011年~2015年、2016年~2020年と時が経過するにつれて継続的に低下している。つまり、株価リスクが低下しているからといって、先行き不透明感が払拭されて投資家の事業リスクに対する態度が改善されつつあるとは限らない可能性があるということだ。投資には美人投票といった側面があり、他の投資家の動向のも運用成果に影響を及ぼす。今回の結果は、株価リスクにだけ着目していると、他の投資家の態度の変化に気づくのが遅れ、思わぬリスクを抱える可能性があることを示唆している。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年04月07日「基礎研レポート」)

03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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