2021年04月06日

巨大プラットフォーム企業と競争法(2)-Facebookをめぐる競争法上の課題

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任   松澤 登

デジタルトランスフォーメーション(DX) IT・ベンチャービジネス などの記事に関心のあるあなたへ

btn-mag-b.png
基礎研 Report Head Lineではそんなあなたにおすすめのメルマガ配信中!
各種レポート配信をメールでお知らせするので読み逃しを防ぎます!

ご登録はこちら

twitter Facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

文字サイズ

1――はじめに

巨大プラットフォーム企業と競争法シリーズの2回目はFacebookについてである。Facebookは巨大なソーシアル・ネットワーキング・サービス(SNS)であり、米国カリフォルニア州に存在するFacebook.incが運営している。

SNSは日常用語としても一般化しているように思えるが、正確に定義することは実は若干難しい。後述の米国連邦取引委員会(Federal Trade Committee)の2020年訴訟の訴状によると、(1)友人や家族といった個人のつながりをマッピング(地図化)したソーシャルグラフ(イメージとして図表1)上に構築されるものであること、(2)多くのユーザーが一対一あるいは一対多数の関係で対話し、経験を共有する機能を含むもの、および(3)ユーザーが他のユーザーを見つけて接続することが可能であり、個人的な接続を拡張することができるものとする。
【図表1】ソーシャルグラフのイメージ
このような定義に当てはまるものとしては、Facebookのほかには、たとえばツイッターがある。ツイッターは匿名性が高い一方で、Facebookは実名が原則である。

SNS類似のサービスとしてはモバイルメッセージ・サービス(MMS)がある。MMSは主に個人間あるいは小規模な集団の中で文字による対話に利用されるもので、スマートフォンの電話番号に紐づけられているもの(SMS、いわゆるショートメール)と、特有のアカウント記号・番号を付与して行うもの(Lineや次項で説明するWhatsAppなど)がある。MMSは、一般的には他の利用者を探すことはできず、ソーシャルグラフに依存していないとされる。ただし、現在はMMSでも各種機能が拡張されてきており、SNSとMMSの一部機能は重複している。

Facebookは2004年のハーバード大学在学中にマーク・ザッカーバーグ氏が中心となって設立されたサービスである。当初はハーバード大学などの学生を対象としたSNSを提供していたが、最終的には13歳以上であれば、だれでも会員になれることとなった。

Facebookは2012年5月に新規株式公開により上場を果たした。上場直後の株価はさえなかったが、その後上昇を続け、現在では時価総額約7700億ドルの超巨大企業となっている(トヨタが2500億ドル程度)。

Facebookはまた、合併を繰り返して事業を拡大してきた。2012年の上場直前に10億ドルでInstagramの買収が発表された。また2014年に190億ドルでWhatsAppを買収し、さらに2014年に20億ドルでOculusを買収した。これらの企業・サービスの概要については次項で解説を行う。
 

2――Facebookのビジネスモデル

2――Facebookのビジネスモデル

1|ユーザー向けサービス
Facebookは巨大SNS企業であるが、その収入の95%以上はソーシャル広告(後述)収入によるものである。Facebookの事業概要を開示書類等に基づき示したものが、図表2の通りである。まず、ユーザー向けサービス(図表2で右側)を解説する。
【図表2】Facebookの事業概要
第一に創業以来のサービスであるFacebookである。上記1で説明したSNSであるが、当初はPCによる文字情報の共有をするものとして開発された。現在ではスマートフォン等でも利用でき、また画像や動画も投稿できる。

次のInstagramもSNSの一種であるが、スマートフォンをベースにして開発されたことから、モバイル性がFacebookよりも強化されたものとなっており、また文字情報よりも写真やビデオ共有を中心としたサービスである。

三つ目のMessengerであるが、Facebookアカウントに紐づけられたメッセージアプリ(上述のMMSの一種)で、オンラインで他の会員とメッセージのやり取りができる。グループでのやり取りや無料通話もできる。

四つ目のWhatsAppは、Messenger同様のメッセージアプリである。これもMMSで、日本では普及していないものの、欧州などでは一般的なアプリである。Messengerとサービスが被るが、これは後述の米国での2020年訴訟によれば、FacebookオリジナルのMessengerではWhatsAppに十分対抗できないと判断した結果、買収したとされている事業である。

最後が、Oculusであるが、仮想現実(バーチャルリアリティ(VR))の製品およびサービスを提供するものである。ハードウエア、ソフトウエアの開発・提供サービスで、VRを通じて世界中の人々がつながることを目的とするとされている。
2|Facebookのソーシャル広告サービス
Facebookの企業向けサービスは、ソーシャル広告サービス(運用型広告サービスともいう)である(図表2の左側)。中心サービスであるFacebookについていえば、ユーザーがログインすると最初に表示されるのがニュースフィードである。ニュースフィードには、自分の投稿や友達の投稿、フォローしているアカウントの投稿、およびニュースなどが表示される。このニュースフィードに企業広告(ソーシャル広告)が掲載され、広告料をFacebookが収益化する(図表3)。
【図表3】ニュースフィード
Facebookのアカウント登録にあたってユーザーは、自分の氏名、性別、生年、都道府県、興味のあるカテゴリーを登録する。これらの情報や、友達とのつながり、趣味といった各種情報がFacebookに蓄積されている。

Facebookのソーシャル広告は、これら各種情報に基づいて、広告主がターゲットとしたいFacebookユーザーのニュースフィードに広告を掲載するというサービスである。ソーシャル広告はFacebookの保有する豊富な個人データに基づいて掲載されるものであり、他のニュースサイトなどにおいて、属性に基づかないで行われる一般向けのディスプレイ広告とは異なる。

またGoogleなどの検索連動型広告では、検索された文字列に連動して広告が掲載されるため、直後に購買が行われるであろうタイミングでの広告掲載となる。ソーシャル広告では購買行動よりももっと前段階の、商品・サービスに興味がありそうなユーザーに広く広告を掲載するものであり、検索連動型広告とも異なる。

また、自分の友達やフォローしている人の投稿と同じニュースフィードに掲載されるため、画面の両端や上下に表示される広告よりもユーザーに届きやすい。
3|Facebookのその他の企業向けサービス
広告主が最も知りたいことは、ソーシャル広告を出すとして、広告の効果がどの程度あったかという点である。この点、FacebookはFacebookピクセルというサービスを提供している。FacebookピクセルはFacebook上でピクセル機能を設定したうえで、自社のECサイトにコードを埋め込む。そうするとFacebookのユーザーがFacebook上の自社広告から自社サイトへ移動したことや、特定のイベント(自社サイト上で商品を購入した、問い合わせをした)をFacebookが収集・記録し、広告主はそれを確認することができる(図表4)。このことにより広告の効果を測定することが可能となり、また再度購入を訴求するために類似の広告をユーザーのニュースフィードに掲載することも可能となる。
【図表4】Facebookピクセル
別のサービスであるFacebook Analyticsは、自社サイトを訪れたユーザーのFacebook内、PC、スマートフォンといった多様な媒体での行動(他のサイトでいいね!を押した情報も含まれる)やユーザーの性別や年齢、サイト訪問者数、サイト訪問時間などの各種のデータが統合された情報をみることができる無償のサービスである(なお、このサービスは日本において2021年6月末をもって利用できなくなるとのことである)。

さらにFacebookログインという機能がある。第三者のサイトにFacebookのIDでログインすると、Facebookの登録情報が連動され、第三者サイトでは最小限の情報を入力するだけで利用できるサービスである。
 

3――欧州(ドイツ)による対応

3――欧州(ドイツ)による対応

1|ドイツ連邦カルテル庁による差し止め命令
ドイツ連邦カルテル庁は2019年2月6日の決定においてFacebookが、ドイツ競争法第19条第1項に違反すると判断し、違法行為の差し止めを命じた1

事案であるが、まずFacebookを利用するにあたって、利用規約に同意する必要がある。この利用規約には個人情報の収集・利用についてのデータポリシーが規定され、Facebook、InstagramおよびWhatsAppに加えて、インターネットやスマートフォンに存在するデータを収集する旨の包括的な記載があった。

上述の通り、Facebookの提供するビジネスツールを利用する第三者のサイトにおいては、そのサイトでの利用・閲覧履歴がFacebookに収集される。ここでいうビジネスツールとは上述したFacebookピクセル、Facebook Analytics、Facebookログイン等である。これらのツールを利用するサイトを訪問したことや、いいね!ボタンを押したことなどが情報としてFacebookに収集・統合される。

ドイツ連邦カルテル庁は、Facebookが個人データを利用するにあたってユーザーには選択肢がなく、Facebookサービスを全く利用しないか、同意して利用するかどうかの選択肢しかない。したがって利用規約への同意をチェックすることだけではユーザーの自発的同意があったとは言えない。さらにFacebookが第三者サイトから無制限の個人データの収集・統合を行っていることをユーザーは認識していない。

ドイツ連邦カルテル庁はFacebookがSNSサービス供給市場において支配的な地位にあるとする。そして、上記のようなFacebookの個人データ取り扱いは、自発的同意を得ていない以上、EUにおける個人情報の保護法である一般データ保護規則(GDPR)に違反するものである。市場において支配的な地位を有するFacebookがGDPRに違反して個人データを収集・統合することは、不適切な契約条件によってユーザーに損害を与える搾取型の支配的地位の濫用に該当するとした。

連邦カルテル庁は、Facebookに対して、Facebook、Instagram、WhatsApp以外の第三者サイトの個人データを利用する場合には自発的な同意がある場合のみ可能とし、そして、この同意が得られないからという理由でFacebookのサービスから除外されてはならないとした。
2|ドイツ最高裁判所による暫定的認定
この決定に対して、Facebookは提訴し、デュッセルドルフ高裁はドイツ連邦カルテル庁の決定には疑念があるとして、命令の差し止めを行った。この差し止めに関する最高裁の判決が2020年6月23日にドイツ連邦カルテル庁から公表されている2

それによるとFacebookの利用規約の運用が支配的地位にあることには疑いがなく、また、Facebookが利用規約を利用して支配的地位を乱用していることにも疑いはないとした。ただし、ドイツ連邦カルテル庁の決定とは異なり、GDPR違反かどうかは決定要因ではないとした。

むしろ、利用規約がFacebookの個人ユーザーから選択肢を奪うことが支配的地位の濫用であるとする。具体的には、Facebookが同サイト以外の無制限なアクセスによってより個人に合致したサービスを望むかどうか、あるいはFacebookのサイトにおいて自身が共有するデータに基づく属人化のレベルに同意するかどうかの選択肢を奪うことが問題であるとする。

最高裁は、Facebookが支配的なネットワークの運営者として、SNS市場の既存の競争を維持する特別な責任を負うとする。Facebookはユーザーの自己決定権に影響を与えるとともに、サービスの供給者を切り替える選択肢がないことは競争法に関連して、ユーザーからの搾取につながるとする。

ドイツ連邦カルテル庁の調査によると、より個人データの収集利用が少ないSNSを利用したいというユーザーが多く、そのようなユーザーの選択肢を奪っていると最高裁は判示した。
twitter Facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

アクセスランキング

レポート紹介

【巨大プラットフォーム企業と競争法(2)-Facebookをめぐる競争法上の課題】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

巨大プラットフォーム企業と競争法(2)-Facebookをめぐる競争法上の課題のレポート Topへ