コラム
2021年04月01日

確定拠出年金をいつ受け取るか-一人時間差攻撃も選択肢に

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任   高岡 和佳子

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より長く活躍する社会

本日から、65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置を講ずる努力が義務化される。あくまでも努力義務ではあるが、高齢者がより長く働き続ける環境が整備されつつある。昨年5月に成立した「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」では、人々がこれまでよりも長く働くよう変化することを前提に、在職中の年金受給の在り方の見直しや、確定拠出年金の加入可能年齢も引き上げ等、様々な措置が講じられている。

ここでは、多岐に渡る措置のうち、年金の受給開始年齢の選択肢拡大に着目する。これまで60歳から70歳までの間であったが、来年4月からは、60歳から75歳までの間から年金の受給開始年齢を選択できる。

年金受給開始年齢の選択肢拡大のメリット

公的年金は年金の受給開始年齢が遅いほど受給額が増える仕組みになっており、65歳から受給を開始する場合の受給額を100とすると、70歳から受給を開始した場合の受給額は142、75歳から受給を開始した場合の受給額は184になる。

2年前話題になった老後資金2,000万円の根拠は、無職高齢夫婦世帯の平均実収入21万円(月額、以下同様)が平均実支出26万円に満たないという統計データであった。老後資金2,000万円の根拠と同条件の世帯が、70歳から公的年金を受給すれば実収入は約30万円(21万円×1.42)になる。少子高齢化や平均寿命の延び等で年金受給額の相対的低下が見込まれること、公的年金受給額が増えると税や社会保険料の負担も増えること、不測の事態への備えといった様々な要素を勘案するとあまり安心できないかもしれない。そもそも、根拠と同条件の世帯は良い方で、現役時代の働き方によってはベースの実収入21万円に満たない世帯も少なくない。

老後資金2,000万円の根拠と同条件の世帯が、75歳から受給すれば実収入は約39万円(21万円×1.84)になる。上述の様々な要素を勘案しても金銭的不安は相当軽減するだろう。また、夫婦ともに老齢基礎年金のみの世帯であっても、75歳から受給すれば実収入は約24万円(年額78万円÷12×1.84×2人分)となり、平均実支出26万円には及ばないが、月々の不足額は大幅に減る。より長く働き続けられるならば、2,000万円もの老後資金は不要になる。

長く働かない人や60歳で退職一時金を受け取る人にもメリットがある

高齢者がより長く働き続ける環境が整備されても、75歳まで働きたくない人もいる。厚生労働省「平成30 年高齢期における社会保障に関する意識調査」によると、59歳以下の全年齢階級において、生涯働き続けたいと考える人が1割弱いる。一方、65歳を超えて働くことを希望しない人が5割を超え、60歳を超えて働くことを希望しない人に限っても2割を超える(図表1)。より長く働き続けることを希望しない人は、年金の受給開始年齢の選択肢拡大にはあまりメリットを感じないかもしれいが、確定拠出年金の受取方法によってはメリットがある。というのも、公的年金だけでなく、確定拠出年金の受給開始年齢の選択肢も拡大するからだ。
【図表1】年齢階級別にみた就労希望年齢
確定拠出年金の受給開始年齢の選択肢拡大は、60歳で退職一時金を受け取る多くの人にもメリットがある。厚生労働省の令和2年「高年齢者の雇用状況」によると、65歳までの雇用確保措置のある企業は99.9%と高いが、定年制を廃止または定年を65歳以上にしている企業は25%に満たない(図表2)。そのうえ、65歳未満定年制企業の過半数は60歳定年制で、継続雇用制度のある企業の9割は一旦定年退職した従業員を再び雇用する「再雇用制度」のみを採用している1。このため、より長く働くことを希望する人であっても、半数近くが60歳時点で退職一時金を受け取ると考えられる。以降、どのようなメリットがあるのかを説明する。
【図表2】雇用確保措置実施状況
 
1 人事院「平成30年民間企業の勤務条件制度等調査結果の概要」参照

確定拠出年金の受取方法と税制上の取り扱い

受給開始年齢の選択肢拡大によるメリットを説明する前に、確定拠出年金の受取方法と税制上の取り扱いを簡単に説明する。確定拠出型年金の受取方法は原則年金受取だが、一般的に全額を一時金受取にすることや年金受取と一時金受取を併用することが可能である。

年金受取の場合は雑所得扱いとなり、公的年金等控除が適用される。その年に受け取った公的年金等の受取総額から公的年金等控除を控除した残額が「公的年金等に係る雑所得」となる。公的年金等以外の所得が1,000万円を超えない場合は、年金受取額が公的年金受給額との合算で110万円以下(65歳以上の場合、65歳未満の場合は60万円以下)なら、公的年金等控除が適用され「公的年金等に係る雑所得」はゼロになる(図表3)2。「公的年金等に係る雑所得」がプラスでも、それ以外の所得との合計(総所得)が、基礎控除(所得税48万円、住民税43万円)などの人的控除や社会保険料控除や医療費控除などの合計額以下に収まれば、年金受取に対する税金は発生しない。
【図表3】公的年金等の受取総額と公的年金等に係る雑所得の関係(公的年金等以外の所得が1,000万円以下の場合)
一時金受取の場合は「退職所得」扱いとなり退職所得控除が適用される。その年に受け取った退職金等の合計額から退職所得控除を控除した残額の二分の一が「退職所得」である。退職所得控除は勤続期間(確定拠出型年金の場合加入者期間、以下同様)に応じて増える。退職一時金に加えて、確定拠出型年金も一時金で受け取る場合、一般的に退職所得控除の基準となる勤続期間に重複期間が生じる。同じ年に二つ以上の退職金等を受け取る場合や、受取る年が異なっても「前年以前の一定期間内」に他の退職金等を受け取っている場合は、重複期間に応じて退職所得控除は調整(減額)される。
 
2 年金以外の所得が1000万円を超えている場合も公的年金等控除はあるが控除額が減少する

長く働かない人や60歳で退職一時金を受け取る人のメリットとは

「前年以前の一定期間内」は前年以前4年内が基本だが、確定拠出年金を一時金として受け取る場合に限り、前年以前14年内と所得税法施行令(以下、ルール)で定められている。確定拠出年金を一時金として受け取った5年後に会社から通常の退職一時金の受け取る場合、重複期間があっても退職所得控除が調整(減額)されないが、会社から退職一時金を受け取った5年後に確定拠出年金を一時金で受け取る場合は、重複期間に応じて退職所得控除が調整(減額)される。

現行は、確定拠出年金の受給開始年齢は60歳から70歳である。このため、65歳以降に会社から退職一時金を受け取る人は、60歳の受取開始が可能となり次第早い段階で確定拠出年金を一時金で受け取れば、4年超の期間が空くので、重複期間に応じて退職所得控除が調整されることはなく、それぞれ勤続期間に応じた退職所得控除が適用される(図表4の上)。厳密には、64歳で会社から退職一時金を受け取る人でも、64歳の早い時期に退職一時金を受け取らない限り、重複期間に応じた退職所得控除の調整(減額)を避けることが可能だ。

しかし、60歳で会社から退職一時金を受け取る人は、重複期間に応じた退職所得控除の調整(減額)を避ける手立てがない(図表4の中)。重複期間に応じた退職所得控除の調整(減額)を避けるためには、少なくとも56歳の誕生日を迎える1か月以上前に早期退職する必要がある(図表4の下)。
【図表4】現行(確定拠出年金の受給開始年齢は60歳~70歳)の場合
しかし、来年4月から確定拠出年金の受給開始年齢が60歳から75歳に拡大する。ルールが変更されない限り、60歳に会社から退職一時金を受け取る人でも、75歳で確定拠出年金を一時金として受け取ることで、重複期間に応じた退職所得控除の調整(減額)を回避できる(図表5)。

勤め先の退職給付制度変更に伴い従前の制度にかかる資産の移管を受けている場合や若いうちから確定拠出年金に加入している場合で、かつ同一企業に長期間勤務した場合、勤続期間の大部分が重複する。長く働かない人や60歳で退職一時金を受け取る人にとっても、年金受給開始年齢の選択肢拡大のメリットは相当大きいのではないだろうか。
【図表5】来年4月以降(確定拠出年金の受給開始年齢は60歳~75歳)の場合
 
 

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

(2021年04月01日「研究員の眼」)

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