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コロナ禍における高齢者の免許返納と免許更新

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
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1――2020年の交通事故死は、全国的には減少。東京都は増加~いずれもコロナの影響とされる

月別の交通事故による死亡者数は年々減少傾向にある(図表1)。警察庁交通局の「道路の交通に関する統計」によると、2020年の死者数は2839人と、2019年の3,215人と比較して11.7%減少していた。2018年と比較して2019年は9.0%減少していたことから減少率は例年より高かった。月別にみると、春以降の減少が著しい。警察庁の「令和2年における交通事故の発生状況等について」によると、新型コロナウイルス感染拡大にともなう緊急事態宣言と休校や休業、自粛要請を受けた交通量の減少を背景に、4~5月には重傷者数が顕著に減少、5~6月には高速道路における死者数が減少したことを要因としてあげている。

全国的に交通事故や交通事故による死者数が減少する中、東京都では交通事故による死者数が増加した。新聞報道によれば、平日に都内で走行する車の1日の平均速度は1~3月は30~35Km/hだったのが、4~5月には35~40Km/hに上昇していたことから、コロナ禍で交通量が減ったことにより、速度超過がおきやすかったことと、二輪免許を取得する人が増加し(対前年7%増加)、公共交通機関の代わりに新たに二輪車を利用するようになった人の慣れない運転が事故につながった可能性があげられている2。
2 2021年1月24日日本経済新聞「首都の道路にコロナの影 交通事故死、53年ぶり国内最多」
続いて、年齢別免許保有者10万人当たり(原付以上、第一当事者)の年間死亡事故件数をみると、2018年と比べて全体では0.82人の減少にとどまったのに対し、75~79歳では2.06人、80~84歳では2.73人、85歳以上では4.90人減少しており、高齢ほど減少幅が大きい(図表3)。
高齢ドライバーによる事故が社会的に大きな問題となっていることから、運転を控える高齢者が増えたことや、新型コロナウイルスの感染によって重症化しやすい高齢者が特に外出そのものを控えた可能性が考えられる。このように、時系列でみると高齢者の事故は減少してはいるものの、他の年代と比べて多い。
2――2020年の高齢者の免許返納率は低下~コロナによる手続きのための外出控えや自家用車ニーズの高まりの可能性
都道府県別にみると、2020年における75歳以上の免許保有人口あたり返納率は、最高が東京都の7.63%、次いで神奈川県(6.48%)、大阪府(6.00%)、静岡県(5.90%)、埼玉県(5.85%)と大都市圏で高い。いずれも昨年までも他の都道府県と比べて返納率が高い傾向があり、日常生活を送るうえで、必要な施設等には公共交通機関や徒歩等で通えることが推測できる。
しかし、今年の返納率は、全都道府県で低下していた。低下幅がもっとも大きかったのは、大阪府の2.2ポイント、次いで兵庫県(1.9ポイント)、島根県・東京都(いずれも1.7ポイント)、滋賀県(1.6ポイント)だった。感染者数が多い都道府県が含まれており、感染によって重症化しやすい高齢者が手続きのための外出がしづらかっただけでなく、公共交通機関を利用する機会を減らすために、自家用車での移動ニーズが高まり免許を保有し続けている可能性がある。
3 2021年3月8日日本経済新聞「運転免許返納昨年55万件-4万件減、コロナ影響か」等。
3――高齢者の免許更新の厳格化が進むが、コロナ禍では免許更新自体が遅れている
免許の返納が難しい地域でも、高齢ドライバーの安全運転を確保すべく、現在、高齢ドライバーについては、71歳以上は3年、70歳は4年と、それ未満の5年と比べて免許の有効期限を短くして、免許更新時の運転適格性のチェックの頻度を高めている。また、免許更新時の検査や講習も厳格化されており、70歳以上では高齢者講習を受ける必要がある。2009年6月以降、免許更新時の年齢が75歳以上のドライバーに対しては、認知機能検査が義務付けられた。結果は、「認知症のおそれあり」「認知機能低下のおそれあり」「認知機能低下のおそれなし」の3つの分類で判定され、「認知症のおそれあり」と判定され、信号無視、通行禁止違反等といった認知機能が低下した場合に起こしやすい一定の違反行為をしていたドライバーについては、専門医の診断(臨時適性検査)を受けるか、かかりつけ医等の診断書を提出することとされた。これで認知症と診断されると、運転免許の取消し又は停止となる。
2017年3月以降、一定の違反行為をした場合に臨時認知機能検査を行い、直近に受けた検査の結果と比較して悪化している場合に臨時高齢者講習を受けることとされた。また、運転免許証の更新時の認知機能検査や臨時認知機能検査で「認知症のおそれあり」と判定された場合は、違反状況にかかわらず、医師の診断を要することとされ、臨時適性検査等の対象が拡大された。
さらに、高齢ドライバーの運転免許更新を厳格化し、自動ブレーキや踏み間違い時の加速抑制装置が搭載された安全運転サポート車(サポカー)に限定して運転できる「サポカー限定免許」の創設を盛り込んだ改正道路交通法が、2022年度にも施行される見込みだ。改正道路交通法では、一定の違反歴のある高齢ドライバーに対し、免許更新時に運転技能検査を義務づける。運転技能検査の対象外である高齢ドライバーについても、講習の中で運転技能を評価し、技能不足の場合は免許の返納や安全運転サポート車限定免許への変更を勧めることとしている。
では、新型コロナウイルスの免許更新への影響はどうだったのだろうか。

75歳以上が高齢者講習の前に受検する認知機能検査の受検者数は、2020年は188万人と、受検者数は減少していた(図表5)。要因としては、感染へのおそれ等から延長手続きをする人や、年内に予約がとれなかった人がいたことが推測できる。
4――実効性のある免許制度が望まれる
これまで高齢者に対しては、免許更新時に認知機能検査を実施していたが、加齢によって低下するのは認知機能だけでなく、視力や聴力といった知覚や運動機能も同様である4。道路交通法改正案では、運動技能検査も課せられるが、現在のところ、対象となるのは一定の違反歴がある高齢者だけだ。しかし、高齢ドライバーによる死亡事故例を見ると、8割以上は過去3年以内に違反行為をしていない5ので、運動機能低下による交通事故の抑制の実効化を期すのであれば、検査の対象者の範囲をより拡大することも検討する必要であるかもしれない。さらに、現在、専門医による臨時適性検査に代わって、かかりつけ医での診断書も認められているが、定期的な診察をしている患者でない場合等では、正確な病状を判定するのが難しい可能性がある6。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、重症化しやすいとされる高齢者の自動車による移動ニーズは高まったと推測できる。しかし、これまでも予約が取りにくいことで課題があった認知機能検査や高齢者講習は、密を避ける理由から、さらにペースが遅くなっており、免許更新が大幅に遅れている高齢者もいると思われる。
優良ドライバーに対しては、オンラインで講習を受ける仕組みが検討されているとのことだが、認知機能検査や高齢者講習は対面で行うことが望ましいとすれば、引き続き混雑することが予想される。高齢者の免許の期限は、70歳未満と比べて短くなっているが、新型コロナウイルスという異例の環境とは言え、免許更新のタイミングがあまり遅れては、期限を短く設定している意味がない。加齢によって視力や聴力といった知覚や運動機能も低下し、そういった低下は過去の違反歴や免許更新のタイミングとは関係なく起きうることから、日ごろの健康状態や加齢による衰えを指摘できるような体制や、新規技術の活用、および運転しなくても生活が守られる社会の構築が必要となるだろう。
4 飯田真也 他「高齢者の運転能力の判定」日本老年医学会雑誌 第55巻(2018年)2号
5 朝日新聞社説2009年3月9日「道交法の改正 高齢者への対策さらに」
6 正確な診断を下せるよう2017年3月、日本医師会から「かかりつけ医向け 認知症高齢者の運転免許更新に関する診断書作成の手き」が公表されているほか、研修等が行われており、自動車運転に危険が予想されるケースにおいては、運転の断念を説得し、さらに、運転免許証の更新に伴って診断書を求められた際には、適切に診断し、指導を行うとしている。
(2021年03月30日「基礎研レポート」)
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