2021年03月15日

関西のスタートアップ・エコシステム構築への期待 

中村 洋介

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1――はじめに

近年、関西でスタートアップ・エコシステムを構築しようという機運が高まっており、行政や経済界等がスタートアップ支援に動きつつある。関西ならではのスタートアップ・エコシステムを構築することができるか、注目が集まる。本稿では、近年の関西におけるスタートアップ支援の注目すべき動向を整理するとともに、今後の課題について考察したい。
 

2――関西で高まる機運

2――関西で高まる機運

スタートアップ・エコシステムとは、スタートアップが次々と生まれ育ち、淘汰されながら成長を遂げていくというサイクルが自律的、連続的に行われるような環境を指す。こうした環境は、豊かな自然の生態系(エコシステム)に例えられる。代表例は、米国のシリコンバレーだ。先端技術、その社会実装によるイノベーションが国力を左右する中、その担い手として、スタートアップへの期待は高まっている。各国、各都市がこうしたエコシステムを作り、強化しようと取り組んでいる。

地域の大学から起業家、事業シーズが輩出され、設立されたスタートアップに対し、ベンチャー・キャピタル等の投資家が資金を供給し、経営支援を行う。淘汰を経て成長したスタートアップが、新規上場やM&Aに至り、実績と利益を手にした起業家の中から、次の起業に挑戦したり、エンジェル投資家として後進の支援を行うものが出てくる。仮に事業が失敗しても、その経験や人材等は、別の新たな事業に活かされていく。こうした循環が、優秀な人材や投資資金を呼び込みに繋がり、その広がり、厚みが増していく、というのが理想の形だ。

近年、関西でこうした循環、環境を作り上げていこうという機運が高まっている。地方自治体が支援を強化しているほか、関西経済同友会が「関西ベンチャーフレンドリー宣言」を行い、賛同企業として60以上の企業(及び団体)が名を連ねる1等、経済界も前向きな動きを見せている。

本章では、こうした機運の高まりを示す動きとして、(1)スタートアップ・エコシステム拠点都市の認定、(2)スタートアップ支援事業「J-Startup KANSAI」、(3)海外投資家の活動、の3点を紹介したい。
 
1 2021年3月10日現在で66の企業、団体が賛同している。宣言の内容や賛同企業の一覧等、詳細については関西経済同友会ウェブサイトを参照されたい。https://www.kansaidoyukai.or.jp/wp-content/uploads/2021/03/e31e261be266640dd033d717f30e9ade-1.pdf
1スタートアップ・エコシステム拠点都市の認定
2020年7月、国が進めるスタートアップ・エコシステムの拠点形成戦略2の一環で、大阪・京都・神戸が一体となって、政府が集中的に支援する「グローバル拠点都市」の1つに選定された(図表1)。政府による拠点都市形成計画の公募に対し、京阪神それぞれが形成した自治体、経済団体、大学、民間組織等からなるコンソーシアム3が連携し、連名で「大阪・京都・ひょうご神戸コンソーシアム」として応募し、選定を目指していた。

大阪・京都・神戸のコンソーシアムが提出した計画では、ライフサイエンス分野における強みや、大阪・関西万博等の大きなプロジェクトの機会等を、最大限に活かしていくことが企図されている。
(図表1)選定された拠点都市の一覧
例えば、ライフサイエンス分野については、iPS細胞の研究で有名な京都大学や、免疫研究等に強い大阪大学といったこの分野に秀でた大学があり、研究機関やスタートアップ等が集積する拠点(クラスター)形成に向けた取り組みも進められてきた(図表2)。地域の大学による研究成果をベースとするライフサイエンス領域のスタートアップが生まれ育ち、上場に至るという成果も見られている(図表3)。バイオ医薬品や再生医療等、ライフサイエンスは今後も高い成長が見込まれる分野であり、関西のポテンシャルを活かして、地域の産業振興、雇用創出等に繋げていくことが期待されている。
(図表2)関西の主なライフサイエンス分野の拠点/(図表3)関西発の主なライフサイエンス分野のスタートアップ
また、現在進行している大きなプロジェクトも絶好のチャンスとなる。2025年には大阪・関西万博の開催を控える。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」だ。未来社会をテーマに掲げた万博で、新たな技術が積極的に導入され、実証実験の場も提供されれば、スタートアップのビジネスチャンスが広がる可能性がある。また、大阪府・市ではIoTやAI、ビッグデータ等の先端技術を活用したスマートシティの実現を掲げている。大阪市のうめきた(2期)、夢洲地区を対象区域として、国が公募している「スーパーシティ型国家戦略特区」の認定を目指している。こうした取り組みが実現すれば、スタートアップにとってはチャンスになろう。

大阪・京都・神戸のコンソーシアムの計画では、スタートアップの設立数を倍増させる等の意欲的な目標を掲げた(図表4)。拠点都市の認定を機に、機運を高めていくことが期待される。
(図表4)大阪・京都・ひょうご神戸コンソーシアムが掲げた数値目標
 
2 内閣府・文部科学省・経済産業省「Beyond Limits. Unlock Our Potential. ~世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略~」https://www8.cao.go.jp/cstp/openinnovation/ecosystem/beyondlimits_jp.pdf
3 大阪スタートアップ・エコシステムコンソーシアム、京都スタートアップ・エコシステム推進協議会、ひょうご神戸スタートアップ・エコシステムコンソーシアムの3団体
2J-Startup KANSAI
2020年10月には、近畿経済産業局が関西の有望なスタートアップを支援する事業である「J-Startup KANSAI」(図表5)を立ち上げ、その支援対象として31社(大阪府11社、京都府13社、兵庫県7社)のスタートアップを選定し、公表した4
(図表5)J-Startup KANSAIの概要
選定は、関西のスタートアップに精通する起業家、ベンチャーキャピタリスト等からの推薦をもとに行われた。この「J-Startup KANSAI」は、経済産業省が2018年に立ち上げたスタートアップ育成支援事業である「J-Startup5」の地域展開版だ。選定された企業に対して、公的機関と民間企業が連携し、集中支援を実施することで、関西発のロールモデルを創出するとともに、関西のスタートアップ・エコシステムを強化していくことを目指す。
 
4 選定された企業については、J-Startup KANSAIの特設サイトを参照されたい。https://next-innovation.go.jp/j-startup-kansai/startup/
5 事業の詳細については、J-Startupの特設サイトを参照されたい。https://www.j-startup.go.jp/about/
3有力な海外投資家の活動
2020年9月7日から8週間、米国の投資家500 Startupsと神戸市が共同で、スタートアップ支援プログラムである「500 KOBE ACCELERATOR」を開催した(図表6)。500 Startupsは米国を拠点とする著名なベンチャー・キャピタル、アクセラレーター6で、主に起業して間もないスタートアップへの投資や支援プログラムを手掛けており、これまで世界各国の2,400以上のスタートアップを支援してきた。東南アジア発ユニコーン7として知られるGrab(配車サービス、料理宅配サービス)も彼らの支援先だ。
(図表6)2020年に開催された「500 KOBE ACCELERATOR」の概要
2016年4月に500 Startupsと神戸市がパートナーシップ協定を締結して以来、これが5回目の開催である。プログラムでは、公募から選考されたスタートアップに対し、500 Startupsの経験豊富な担当者による個別指導のほか、マーケティングやマネタイズ手法、資金調達等に関するレクチャー等が行われる。プログラム終了後には、投資家や事業会社、報道関係者等を招いて、デモディ(成果発表会)が実施される。 2020年の「500 KOBE ACCELERATOR」では、新型コロナウイルスの感染拡大によって浮かび上がった社会課題の解決を目指すスタートアップが対象とされ、応募から選ばれた17チームのスタートアップが参加した(国内6チーム、海外11チーム)8。2020年のプログラムは例年と異なり、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でオンラインでの実施を余儀なくされたが、237ものスタートアップが応募し、うち162は海外からの応募となる等、注目の高さがうかがえる。

また、米国の投資家Plug and Playの日本法人(Plug and Play Japan)は、2019年7月に京都市とスタートアップ・エコシステム形成に関する連携協定を締結するとともに、京都市内に新しい拠点を開設した。また、2020年7月には、大阪市内にも拠点を新設している。

Plug and Playも米国を拠点とする著名なベンチャー・キャピタル、アクセラレーターであり、DropboxやPayPal(ともに米国)等への投資で成功したことが知られている。全世界に30以上の拠点を展開しており、2017年7月に国内初となる拠点を東京に開設していた。

足もとでは、2020年の12月から3か月間にわたって、京都ではものづくりやライフサイエンスといった「ハードテック/ヘルス」をテーマとした支援プログラムが、大阪では「スマートシティ」をテーマにした支援プログラムが実施されている。

著名な海外投資家による支援活動を通じて、国内外の起業家を呼び込み、関西発の有力スタートアップを数多く生み出すことが出来るか、今後の動向が注目される。
 
6 一般的に、創業間もないスタートアップを選抜して集め、活動資金(出資)やオフィススペースを提供したり、個別指導やネットワーキング等、一定期間の独自支援プログラムを実施することで、スタートアップの成長を実現し、投資収益の獲得を図る投資家のことを指す。支援プログラム等を通じてスタートアップの成長を加速させる(accelerate)ことから、アクセラレーターと呼ばれる。
7 一般的に、企業評価額が10億ドル(1ドル107円換算で1,070億円)、設立10年以内で未上場のスタートアップを指す。
8 選抜されたスタートアップの詳細については、500 KOBE ACCELERATORの特設サイトを参照されたい。http://jp.500kobe.com/
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中村 洋介

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【関西のスタートアップ・エコシステム構築への期待 】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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