2021年03月15日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関する意見をECに提出(10)-助言内容(保険保証制度等)-

中村 亮一

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3―EIOPAの意見書からの助言―レビューの他のトピック

1|レビューの他のトピック
ソルベンシーII指令に含まれる暫定規定の継続的な適切性のレビューは、変更の提案をもたらさなかった。

ソルベンシーII指令のフィット・アンド・プロパー要件に関して、EIOPAは、取締役会メンバーの適切性の継続的な監督における監督当局の役割を明確にし、適格株主が適切でない場合に有効な権限を持つべきであると提案している。監督者が共通の見解に到達できない場合に支援するための共同評価及びEIOPAの権限の使用の可能性を提供することにより、複雑な国境を越えたケースにおける妥当性評価の効率と強度を高めるために、さらなる助言が提供される。

14.レビューの他のトピック
14.1.その他の移行措置
14.1 EIOPAは、ソルベンシーII指令の第308b(15)条の移行規定を、加盟国が2022年12月31日までに使用しなくなるため、移行措置はもはや意味がないことを考慮して、変更しないように勧告している。

14.2移行措置を変更せずに維持しても、ソルベンシーII指令とIORPII指令の間の定量的要件の相違は解決されない。EIOPAは、現時点では、調和のとれたソルベンシールールをIORPに導入すべきではないと勧告している。 部門間の一貫性を強化し、規制裁定取引の防止と平等な競争条件の促進に貢献するために、EIOPAは、IORPsのリスク評価と透明性のための共通のフレームワークでIORP II指令を強化するという意見を繰り返す。

14.2.フィット・アンド・プロパー要件
AMSBメンバー又は他の重要な機能を持つ人の継続的な評価に関連して

14.3 EIOPAは、ソルベンシーII指令を次のように修正することを提案している。

・第30条の第2項
「第1項に基づく財務監督には、保険及び再保険会社の事業全体に関して、コミュニティレベルで採択された規定に基づいて、母国加盟国で定められた規則又は慣行に従った、ガバナンスシステム、ソルベンシー状態、技術的準備金の設定、資産及び適格自己資本の検証が含まれるものとする。」

・第36条のパラグラフ2(a)
「第IV章のセクション2に記載されている、フィット・アンド・プロパー要件、及びリスクとソルベンシーの自己評価を含むガバナンスシステム」

・第42条第3項
「保険及び再保険会社は、第1項及び第2項で言及されている人物のいずれかが、第1項で言及されている要件を満たさなくなった場合、又はその理由で交代した場合、監督当局に通知するものとする。」

・第42条に新しい段落を追加する。
「会社を効果的に運営するか、又は他の重要な機能を有する者が第1項に定められた要件を満たさない場合、監督当局はそのような者をその地位から解任する権限を有するものとする。」

適格株主の継続的な評価に関連して
14.4 EIOPAは、ソルベンシーII指令を次のように修正することを提案している。

・第19条の第3項を修正する。
「監督当局は、保険及び再保険会社、その適格株主、及び保険及び再保険会社が条件(..)へのコンプライアンスを監視するために必要な情報を提供するために密接な関係にあるその他の自然人又は法人を要求するものとする。」-

・第24条の第1項第2文を修正する。
「これらの当局は、(…。)の場合、承認を拒否するか、第62条に従って撤回するものとする。」

・第25条のタイトルと最初の文を修正する。
承認の拒否又は撤回
承認を拒否又は撤回する決定は、完全な理由を述べ、関係する会社に通知されるものとする。

・第62条の最初の文のパラグラフ1を次のように修正する。
「(…。)第57条で言及されている者が行使する影響力が、保険又は再保険会社の健全かつ慎重な管理に反する可能性がある場合、母国加盟国(…。)の監督当局が保持され、求められ、又は強化される(…)。 そのような措置は、例えば(…)又は認可の撤回から構成される可能性がある。」

14.5この意見に従った場合、CRDの第22条から第27条は、一貫性を保つために修正される可能性がある。

14.6 EIOPAは、ソルベンシーII指令を次のように修正することを提案している。

・第26条の第3項に次の2つのパラグラフを追加する。
 「複数の監督当局に相談する必要がある場合、承認が求められている又は最初に承認された母国加盟国の監督当局から関係する監督当局によって共同評価が要求される場合がある。母国の加盟国の監督当局は、最終決定を下す際に共同評価の結論を検討するものとする。」

・第26条の第3項に次のパラグラフを追加する。
「第1項で言及されている監督当局は、この問題をEIOPAに照会することができる。EIOPAはまた、規則(EU)No 1094/2010によって付与された権限に従って、客観的な理由に基づいて独自のイニシアチブで行動する場合がある。

規則(EU)No 1094/2010の第16条に従い、EIOPAは関係する監督当局に勧告を発行する場合がある。関係する監督当局が2ヶ月以内にその勧告に従わない場合、関係する他の監督当局の懸念に対処するために取った、又は取る予定の措置を含む理由を記載しなければならない。

EIOPAはこれらのステップを評価し、それらが十分かつ適切であるかどうかを判断するものとする。それらが適切であるとみなされない場合、EIOPAはそれらの理由及び提案されたステップとともにその勧告を公表するものとする。」

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAの意見書の中の助言内容のうち、「保険保証制度」及び「その他のトピック」について報告してきた。

EIOPAは、再建及び破綻処理の枠組みに基づいて、全ての国が最低限の調和された基準を満たす「保険保証制度(IGS)」を有することが必要であると考えている。この制度により、保険会社が支払不能になった場合に、補償金を支払ったり、保険契約の継続を保証することにより、保険契約差を保護することが求められる。この制度は、保険会社の事前拠出によって資金提供され、不足が発生した場合には保険会社が資金を補填すべき、としている。ただし、本格的な制度導入までの移行期間も設定している。EIOPAの会長は、ソルベンシーIIは破綻ゼロの制度ではないことから、会社の破綻時に消費者を保護する制度が必要であり、銀行や投資ファンドが有しているのと同様の基準を持つべきであると述べている。

これらの提案に対しては、欧州の保険業界団体のInsurance Europe からは、(1)現在実施されているIGSは欧州全体で大きく異なっているが、一般的には現地の状況や法律でうまく機能しており、IGSの要件と法的構造は、引き続き加盟国によって決定されるべき、(2)ソルベンシーIIが適切に調整及び適用されていることを確認し、監督当局や破綻処理当局間の協力と調整に焦点を当てるべき、との意見が述べられてきている。
 

5―シリーズのまとめ

5―シリーズのまとめ

これまでのこのシリーズの10回のレポートで、ソルベンシーIIのレビューに関するEIOPAの意見書の中からの助言内容を紹介してきた。これらに対しては、以前の保険年金フォーカス「ソルベンシーIIの2020 年レビューを巡る動向-欧州委員会の市中協議文書とそれへの保険業界団体等の反応-」(2020.12.2)において報告したように、引き続き保険業界団体等から、各種の意見が表明されてきている。特に、Insurance Europeは、2021年2月25日に、「ソルベンシーIIの適切なレビューの必要性を強く支持するものの、過度の保守性や負担やコストの追加を生み出すことになる変更に対しては反対する」という、これまでのスタンスを繰り返したペーパーである「Solvency II review – Dos and Don’ts(ソルベンシーIIレビュー-すべきこととすべきでないこと」を公表している2

昨今の長期間にわたる低金利環境の継続や不安定な金融市場、さらにはCOVID-19の感染拡大等の環境下で、これらの関係者のスタンスの差異等を踏まえて、まずは、欧州委員会が第3四半期に想定されている改定内容の決定までに、どのような判断を行っていくのかが注目されていくことになる。

さらに、その後、欧州委員会の提案は、検討のために欧州議会や欧州理事会に渡されて、議論が行われていくことになる。

このようなプロセスを経て、実際に変更が実施されるまでには、数年かかることになる。

ソルベンシーIIのレビューは、国際的なソルベンシー規制や日本における新たなソルベンシー規制の検討の上においても、大変参考になる極めて重要な意味合いを有しているものであることから、今後の動向については、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2021年03月15日「保険・年金フォーカス」)

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