2021年03月09日

米国経済の見通し-経済の正常化、追加経済対策の効果で21年は37年ぶりの高成長へ

経済研究部 主任研究員   窪谷 浩

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1.経済概況・見通し

(経済概況)10‐12月期の成長率は個人消費の鈍化などもあり、前期から大幅に低下
米国の10-12月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、改定値が前期比年率+4.1%(前期:+33.4%)と前期に大幅な伸びとなった反動もあり、大幅に低下した(図表1、図表6)。

需要項目別では、民間設備投資が前期比年率+14.0%(前期:+22.9%)、住宅投資が+35.8%(前期:+63.0%)となり、前期からは鈍化したものの2桁の伸びを維持した一方、個人消費は+2.4%(前期:+41.0%)と前期から大幅に伸びが鈍化した。また、在庫投資の成長率寄与度も+1.1%ポイント(前期:+6.6%ポイント)と前期に続き成長率を押し上げたものの、押上げ幅は縮小した。

さらに、経済対策の政策効果の剥落に伴い政府支出が前期比年率▲1.1%(前期:▲4.8%)となったほか、堅調な輸入の伸びを背景に外需の成長率寄与度も▲1.6%ポイント(前期:▲3.2%ポイント)と、いずれも前期からマイナス幅は縮小したものの、2期連続のマイナスとなった。

一方、21年に入り個人消費には回復の兆しがみられる。米国内における新型コロナの1日の新規感染者数(7日移動平均)は1月上旬の25万人弱から足元は6万人台後半まで低下しており、感染者数の伸びは大幅に鈍化した(図表2)。また、昨年末にはカリフォルニア州など9州で飲食業や小売業など多くの経済活動が制限されたほか、10州で一部の経済活動が制限されていた。しかしながら、新規感染者数の減少に伴い多くの州で経済活動の制限は緩和されており、足元では8州で一部の経済活動が制限されるに留まっている。このため、経済活動制限による消費への影響は軽減されている。

さらに、12月27日に成立した追加経済対策(CRRSA法)には家計向けの直接給付(1人当たり600ドル)や失業保険の追加給付(週当たり300ドル)が盛り込まれており、後述するように21年1月の可処分所得が大幅に増加するなど個人消費には追い風となっている。実際に、21年1月の個人消費は前月比+2.4%と4ヵ月ぶりに増加に転じた。また、2月に入ってもクレジット・デビッドカードの支払い額は新型コロナ流行前(20年1月)を1割程度上回る水準に上昇するなど好調を維持しており、個人消費は足元で顕著な回復がみられている(図表3)。
(図表2)米国の感染者数および死亡者数/(図表3)クレジット・デビッドカード支払い額(個人消費支出)
一方、CRRSA法に基づく9,000億ドル規模(名目GDP比4%)の経済対策に加えて、新たに1.9兆ドル(同9%)規模の追加経済対策の実施が予定されており、景気過熱から米国のインフレリスクが意識されている1。実際に金融市場が織り込む米国の期待インフレ率(ブレークイーブンインフレ率、BEI)は足元で今後10年間の平均インフレ率予想が+2.2%と14年以来、今後5年平均が+2.4%と13年以来の水準となった(図表4)。また、期待インフレ率の上昇を背景に長期債を中心に金利が上昇しており、米国債のイールドスプレッド(10年金利-2年金利)は1.4%ポイントと15年以来の水準まで拡大するなどスティープ化が進んでいる。

さらに、期待インフレ率や長期金利の上昇が株式市場に悪影響を及ぼすとの懸念が強まっている。実際に代表的な株価指数であるS&P500指数は2月12月に付けた3,934.83ポイントをピークに3月4日には3,800台割れとなるなど頭が重くなっている(図表5)。株式市場は昨年の春先以降、FRBによる潤沢な資金供給に伴い流動性相場で上昇してきたが、インフレリスクが顕在化することでFRBが早期に金融引き締め政策に転換し、流動性相場が終了するとの懸念が株価軟調の背景にあるようだ。今後も長期金利の上昇に伴う株式市場への影響については注視する必要があるだろう。
(図表4)BEIおよび米国債イールドスプレッド(10年-2年)/(図表5)S&P500株価指数およびVIX指数
 
1 詳しくはWeeklyエコノミスト・レター(2021年2月22日)「注目される米国のインフレリスク-当面はインフレ高進がコンセンサスも、持続的なインフレ加速の可能性で分かれる評価」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=67011?site=nliを参照下さい
(経済見通し)成長率は21年が前年比+5.7%、21年は+3.8%を予想
米国経済見通しは、引き続き新型コロナの感染動向や感染・経済対策の動向に大きく左右されるため非常に不透明である。今回の経済見通し策定に当たって、新型コロナワクチン接種の進捗に伴い、新型コロナ感染者数の減少、重症化リスクの後退から年後半以降はソーシャルディスタンシングが解消されるなど経済正常化の動きが加速することを前提にした。

また、経済対策については1.9兆ドル規模の大型経済対策が実施された後、景気過熱と財政悪化懸念から新たな大型の追加経済対策は実施されないことを前提とした。

これらの前提の下、当研究所はソーシャルディスタンシングの解消に伴い新型コロナで大幅に落ち込んだ外食・宿泊、旅行などの対面型サービス消費が本格回復するなどの経済正常化の動きに加え、追加経済対策が景気を押し上げることで、実質GDP成長率は21年に前年比+5.7%と20年の▲3.5%からプラスに転じ、84年(同+7.2%)以来37年ぶりの高成長になると予想する。この結果、実質GDPは21年4-6月期には新型コロナ流行前(19年10-12月期)の水準に回復するとみられる。また、22年も経済正常化の動きが続く中、追加経済対策で積み上がった貯蓄が消費に向かうなど個人消費の好調は続き、成長率は+3.8%と堅調な伸びとなろう。

物価は経済正常化の動きに加えて、追加経済対策が需給ギャップをインフレギャップに転換させることなどから、インフレの上昇が見込まれる。当研究所は消費者物価の総合指数は21年に前年比+2.3%と20年の+1.2%から大幅に上昇した後、22年は+2.1%に小幅低下すると予想する。

金融政策はFOMC参加者の成長率やインフレ率の見通しが上方修正される可能性が高い。この結果、当研究所は量的緩和の買い入れペースの縮小が22年前半に開始された後、政策金利の引き上げは24年前半に開始されると予想する。今年は成長加速からインフレ率がFRBの目標水準を超える局面があるとみられるものの、FRBは暫くの間インフレ率が物価目標を上回ることを許容する方針を示しており、今年や来年に政策金利の引き上げを実施する可能性は低いとみられる。

長期金利は景気回復やインフレ率の上昇を背景に上昇基調は持続が続こう。当研究所は長期金利が21年末に1.7%、22年末に2.0%に上昇すると予想する。一方、長期金利の上昇が急激で金融市場や実体経済への影響が懸念される場合には、FRBが長期金利の上昇を抑制するための対策を実施しよう。
(図表6)米国経済の見通し
上記見通しに対するリスクは、新型コロナとインフレ高進、米国内政治が挙げられる。足元ではワクチン接種が進捗しているものの、変異株に対する有効性が否定されることや、新型コロナの強毒化などにより、重傷者数の増加が続けば、ソーシャルディスタンシングの動きが長期化するため、経済正常化の動きは先送りとなろう。

また、景気過熱に伴いインフレ率が持続的で加速的なインフレ高進となる場合にはFRBによる金融政策の正常化の動きが早まり、早期に政策金利が引き上げられることでインフレは抑制されるものの、経済には下振れ要因となろう。

一方、国内政治では大型の経済対策が実施された後もバイデン政権が大型インフラ投資など拡張的な財政政策が追加で決定される場合には経済には短期的に上振れ要因となろう。もっとも、中長期的にはインフレ率上昇や債務残高の増加に伴う長期金利の上昇から経済の下振れ要因となろう。
 

2.実体経済の動向

2.実体経済の動向

(労働市場、個人消費)労働市場の回復は加速へ、個人消費も堅調推移
雇用者数は20年3月から4月にかけて大幅に減少した後、5月以降は増加基調が持続している(図表7)。もっとも、4月までの2ヵ月間で雇用者数が▲2,236万人減少したのに対して、2月までの10ヵ月間の雇用増加数の累計は+1,287万人に留まり、依然として▲948万人が喪失された状況となっている。また、2月の雇用増加ペースが続く場合に雇用者数が新型コロナ流行前(20年2月)の水準に戻すのに25ヵ月の期間を要するなど回復ペースは非常に緩慢である。

失業率も2月は6.2%と20年4月の14.8%からは大幅な低下となっているものの、依然として新型コロナ流行前(20年2月)の3.5%を大幅に上回っており、回復は道半ばとなっている。

もっとも、今後はソーシャルディスタンシングの解消に伴う経済の正常化が進む中で高成長となるため、労働市場の回復ペースは加速が見込まれる。当研究所は失業率が21年10-12月期に5.0%に低下した後、22年10-12月期には3.9%まで低下すると予想する(図表6)。

また、消費者センチメントは代表的な指標であるコンファレンスボード、ミシガン大学指数ともに足元では新型コロナ流行前(20年2月)の水準を大幅に下回っているほか、労働市場の回復が緩慢なことから両指数ともに秋口につけたピークから頭打ちとなっている(図表8)。今後、労働市場の回復加速に伴い消費者センチメントも回復が明確となろう。
(図表7)米国の雇用動向(非農業部門雇用増と失業率)/(図表8)消費者センチメント
(図表9)可処分所得(経済対策内訳)と貯蓄率 一方、経済対策の効果で21年1月の可処分所得は前月比+11.4%の大幅な増加となった(図表9)。また、貯蓄率も21年1月が20.5%と新型コロナ流行前の7%台を大幅に上回っており、所得対比で消費余力を大幅に残す状況となっている。

さらに、1.9兆ドル規模の追加経済対策でも直接給付や失業保険の追加給付が実施されるため、貯蓄率はさらに上昇が見込まれる。今後は、ソーシャルディスタンシング解消に伴い新型コロナで落ち込んだ対面型サービスのペントアップディマンドに加え、十分な消費余力を背景に個人消費は堅調な伸びとなろう。
(設備投資)回復基調が持続
GDPにおける設備投資は20年10-12月期に2桁のプラス成長となったが、設備投資の先行指標であるコア資本財受注(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は21年1月が+17.6%と2桁の伸びを維持しており、21年1-3月期も堅調な伸びが期待できる状況となっている(図表10)。

また、設備投資の好調を裏付けるように製造業の景況感は非常に堅調である。ISM製造業景況指数は20年4月に41.7と好不況の境となる50を大幅に下回ったものの、その後は回復基調が持続し、21年2月は60.8と18年2月(60.8)以来の水準をつけた(図表11)。とくに、受注残高は64.0と04年4月(66.5)以来の水準となるなど非常に好調であることを示している。

これに対して、ISM非製造業指数では20年4月に41.6をつけた後、21年1月に58.7と19年2月(58.8)以来の水準に回復したものの、2月には55.3と新型コロナ流行前の20年2月(56.7)を下回るなど、回復がもたついている。もっとも、2月は新型コロナの影響だけでなく、寒波の影響で商業活動が妨げられたことも前月から低下した要因のようだ。景況指数のうち受注残高は55.2と6ヵ月ぶりの高水準となっており、減速が一時的である可能性を示している。

一方、製造業、非製造業ともに支払い価格指数の上昇が顕著となっている。製造業が86.0と08年7月(90.4)以来、非製造業が71.8と08年9月(71.9)以来の水準に上昇しており、小売価格への転嫁に伴う、インフレの影響が注目される。
(図表10)米国製造業の耐久財受注・出荷と設備投資/(図表11)ISM製造業・非製造業指数
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

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