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- 中国経済の見通し-財政金融で持ち直した後は消費主導へ
1. 中国経済の概況
国内総生産(GDP)の内訳を見ると、宿泊飲食業や卸小売業は新型コロナ禍が人々に与えた恐怖心や対策として導入された厳格な行動制限で落ち込み、20年通期ではそれぞれ前年比13.1%減、同1.3%減のマイナス成長となった。但し、四半期毎に見ると、卸小売業は1-3月期に前年比17.8%減まで落ち込んだあと4-6月期以降はプラス成長に転じ、宿泊飲食業も1-3月期に前年比35.3%減、4-6月期に同18.0%減、7-9月期に同5.1%減となったあと、10-12月期には同2.7%増とプラス成長に転じた。一方、新型コロナ禍が追い風となった産業もある。テレワークやオンライン教育・医療などで盛り上がった情報通信・ソフトウェア・ITは、新型コロナ禍の1-3月期にも前年比13.2%増と高成長を維持し、20年通期では16.9%増と二桁成長となった。なお、GDPの3割近くを占める製造業を確認しておくと、20年1-3月期には前年比10.2%減と大きく落ち込んだものの、4-6月期には同4.4%増、7-9月期には同6.1%増、10-12月期には同7.3%増と順調に回復してきている。いち早く生産体制を立て直し、輸出を伸ばしたことが背景にある。
他方、消費者物価に関しては、アフリカ豚熱(ASF)の影響で20年1月には前年比5.4%まで上昇率を高めたものの、新型コロナ禍による需要減を背景に交通通信、居住、衣類などが下落し、アフリカ豚熱の収束とともに食品も下落したため、足元ではゼロ近辺で推移している(図表-2)。
1 新型コロナウイルス感染症の経緯に関しては、「中国におけるコロナ禍との闘いを振り返って~今後の政策運営にどう影響するのか?」(ニッセイ基礎研レポート 2020-10-30)にで、より詳細に分析している
2. 景気指標の動向
新型コロナ禍と闘った20年、個人消費の代表指標となる小売売上高は前年水準を3.9%下回ることとなった。厳格な行動制限が実施された1-2月期に前年比20.5%減まで落ち込んだあと、3月中旬に新規感染が収束に向かうと次第にマイナス幅を縮めていったが、雇用・所得に対する不安は根強く、小売売上高が前年水準を回復したのは8月のことだった。9月以降は前年水準を上回るのが常態化したものの1桁台前半の伸びに留まり、結局20年通期では前年比3.9%減となった(図表-3)。内訳が公表される一定規模以上の小売統計を見ると、飲食が前年比14.0%減、衣類等が同6.6%減、家具類が同7.0%減、家電類が同3.8%減、自動車が同1.8%減と前年割れに落ち込んだ一方、化粧品は同9.5%増、日用品類は同7.5%増と前年を上回る売上高となった。なお、新型コロナ禍に伴う“巣ごもり”が追い風となったネット販売(商品)は前年比14.8%増と好調で、小売売上高に占める比率は25%に達した。
また、今後の消費動向を占う上で重要な指標を確認しておくと、全国住民一人当たり可処分所得は1-3月期に実質で前年比1.3%減まで落ち込んだものの、4-6月期には同1.3%増(推定2)、7-9月期には同4.4%増(推定)、10-12月期には同6.6%増(推定)と期を追う毎に伸びを高めている。また、調査失業率(31大都市)は5月に5.9%まで上昇したものの、12月には5.1%まで低下し、新型コロナ前の水準(19年12月の5.2%)を下回ってきている。そして、消費者信頼感指数(中国国家統計局)も6月に112.6まで落ち込んで底打ちし、12月には122.1まで回復してきた。
2 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
他方、個人消費・投資と並ぶ第3の柱である輸出(ドルベース)は前年比3.6%増とプラスを維持した。世界で初めに新型コロナ感染が広がった中国では、春節(旧正月)で帰郷していた農民工(出稼ぎ労働者)が職場に復帰できず、生産体制が麻痺した。そして、世界では中国からの輸入に頼っていたマスクなどの防疫品が姿を消すとともに、中国で生産していた工業部品が供給不足となったため世界のサプライチェーンが機能不全に陥った。しかし、新型コロナ禍が収束に向かった3月に状況が一変した。中国では新型コロナ禍で故郷に留まっていた農民工が職場に復帰し生産体制が正常化した一方、パンデミック(世界的大流行)に襲われた世界では、防疫品(医療機器やマスクなど)や巣ごもり関連品(PCや家電など)の需要が増えた。そして、中国からの輸入に頼ることとなった。こうして思わぬ追い風が吹いた輸出は、1-3月期には前年比13.6%減に落ち込んだものの、4-6月期には前年並みに回復し、年後半には加速して、投資に次いで早く持ち直すこととなった(図表-5)。但し、欧米先進国でワクチン接種が進み新型コロナ禍が収束に向かえば、こうした追い風も止むことになるだろう。
その他の指標として、まず鉄道輸送量を確認しておこう。新型コロナ禍に見舞われた20年の推移を見ると(図表-6)、モノの動きを示す鉄道貨物に大きな落ち込みはなかったものの、ヒトの動きを示す鉄道旅客は2月に大幅減になった後も前年割れが続いている。ここもとの中国経済の回復はヒトが動かずモノを動かすことで達成した景気回復だったとの見方ができるだろう。
最後にCOVID-19の新規確認症例を確認しておくと(図表-7)、21年に入り河北省、遼寧省、吉林省などでクラスター(感染者集団)が発生したため、1月20日には新規確認症例が無症状も含めると257人に達した。しかし、中国政府が防疫管理を強化したため感染は収束に向かっている。但し、春節で帰省した農民工が故郷で感染を広げる恐れは残り、職場復帰した後に都市で感染が広がる恐れも排除できないため、3月5日に開幕する全国人民代表大会までは厳格な防疫管理が続くだろう。
3. 財政金融政策
新型コロナ禍に見舞われた20年、中国政府は「積極的な財政政策はさらに積極的かつ効果的なものにする必要がある」として財政運営に取り組んだ。
具体的には、[1]財政赤字の対GDP 比率を3.6%以上として財政赤字を前年度より1兆元増やし、新型コロナ禍に対する疫病防御、経済への悪影響を緩和するための基本民生保障、減税・費用引き下げ、賃料軽減などに充てる、[2]財政赤字に算入されない感染症対策特別国債を1 兆元発行し、地方公共衛生などのインフラ建設と疾病対策関連支出に充てる、[3]地方特別債を19年より1.6兆元増やして3.75兆元とし、主に「両新一重(新型インフラ建設、新型都市化建設、交通・水利などの大型建設工事)」に充てることとなり、20年の財政出動は前年比でおよそ3.6兆元増やす計画となった。そして、防疫体制の整備や個人・企業の経済的ダメージを和らげる上では多大な貢献があった。但し、政府債務が拡大してしまったため、財政の裁量余地は低下した。
21年の財政運営に関しては、全国財政工作会議で「積極的財政政策は質・効率を高め、さらに持続可能にしなければならない」としており、劉昆財政部長もインタビューに答えて「今後の新たなリスク・試練に対応するために政策余地を残しておかなければならない」と述べていることから、新型コロナ感染や景気動向を見極めつつも、「持続可能」な財政運営に舵を切っていくものと見られる。
20年の金融政策に関しては「穏健な金融政策はより柔軟かつ適度なものにする必要がある」として運営に取り組むこととなった。具体的には、「通貨供給量(M2)・社会融資総量の伸び率が前年度の水準を明らかに上回るよう促す」とするとともに、前述の“疫情融資”を21年3月末まで延長した。そして、20年に銀行に返済を猶予させた元利金額は7.3兆元(日本円換算で約116兆円)に達し、経済をV字回復させる上では多大な貢献があった。但し、ここ数年で進めてきた債務圧縮(デレバレッジ)は頓挫し、非金融企業債務が再び拡大してしまった(図表-8)。
3 中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)は、2020年に銀行が処理した不良債権は3.02兆元に達し過去最大だったと発表している
4 「銀行業金融機関の不動産融資集中度の管理制度に関する通知」を指す。施行は21年1月1日。
4. 今後の見通し
その後の21年4-6月期以降は再び回復軌道に戻るだろう。中国では近々一般向けワクチン接種が始まり、北京市などでは5月中にも接種が完了する見込みだからだ。但し、新型コロナ対策で拡大した財政赤字を縮小し、新型コロナ対策で緩んだ金融規律を引き締める段階に入ってくるため、経済成長率は実質で前年同期比5%台に留まるだろう。投資に関しては、昨年は財政出動の支援を受けたインフラ投資と“疫情融資”を背景とした不動産開発投資の増加で経済成長に多大な寄与となったが、今後は新型インフラ建設と消費拡大を背景とした投資に主役が交代することになるだろう。また、輸出に関しては、昨年は新型コロナ禍が思わぬ追い風となったが、今後は世界的にワクチン接種が進むとともに追い風が止まってくると見込んでおり期待できない。一方、消費に関しては、足元の所得環境、雇用環境、消費者心理の改善に加えて、内需振興策5にも期待できるため、今後の経済成長の牽引役になると見込んでいる(図表-10)。
5 中国政府(国務院常務会議)は20年11月18日、(1)自動車購入の安定と拡大を図る、(2)家電・家具・内装消費を促進する、(3)飲食消費を促進する、(4)県域・郷鎮消費の拡大によって農村消費を牽引する、の4つを柱とした内需振興策を手配している。これを受けて21年1月5日には、商務部、国家発展改革委員会、工業情報部など12部門の連名で、(1)農村部での自動車普及キャンペーン(汽車下郷)、(2)交通渋滞や大気汚染への対策として制限しているナンバープレートの発給増、(3)環境性能の高い家電や環境に配慮した家具への買い替えへの補助金支給などを記載した政策パッケージを発表している。
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三尾 幸吉郎
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(2021年02月26日「Weekly エコノミスト・レター」)
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