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持続可能な保険-SDGsに関連して、保険をどのように提供すべきか?
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
1――はじめに
昨年12月、アメリカのアクチュアリー会(SOA)は、傘下のアクチュアリーに向けて、「持続可能な保険-変化する世界と国の展望」と題するペーパー(以下、単に「ペーパー」と呼称)を公表した2。そのなかで、保険とESGの関係や、これからの保険に求められるものについて、述べられている。
本稿では、その内容を参考にしつつ、持続可能な保険のあり方について、みていくこととしたい。
1 ESGは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字をとったもの。
2 “Sustainable Insurance: A Changing International and National Landscape”(Society of Actuaries, Dec. 2020)
(アドレスhttps://www.soa.org/globalassets/assets/files/resources/research-report/2021/changing-international-landscape.pdf)
2――ESGと保険業の関係
ESGは、事業の持続可能性を測定するための3つの要素といえる。一般に、企業は、経営や資産アロケーションにより、経済的利益の最大化を図る。その際、企業を取り巻く環境や社会が負担するコストや、企業統治のために企業自身が負担する非経済的なコスト3にも留意する必要がある、という思想がESGの根底にあるものと考えられる。
1900年代後半には、ESGの端緒となる考え方がいくつも現れた4。これらの考え方は、企業が社会や環境の問題に大きな影響力を持っているとの認識が高まったことから生まれた。ただ、当時は、従来からの会計や経営の実務執行の場面では、ESGに対する認識は不十分であったといわれている。2000年代に入ってから、ESGへの取り組みは、持続可能な企業を目指すうえで好ましい考え方であるとして、徐々に浸透してきた5。
3 ペーパーに例示はないが、企業内の諸制度運営に必要な時間や人材にかかる費用などが含まれるものとみられる。
4 たとえば、企業活動を環境、社会、経済の3つの側面から評価する「トリプルボトムライン」という考え方や、「企業の社会的責任(CSR)」(Corporate Social Responsibility)といった言葉など。
5 ESGが世界で注目を集めるようになった契機の1つとして、2006年に、国連のアナン事務総長(当時)がPRI(責任投資原則)を提唱したことがあげられる。これは、ESGの推進を「投資家の取るべき行動」として定義したもの。
6 たとえば、“Sustainable Business Risk Framework”(スイス再保険, 2016年)、 “ESG Integration Framework”(アリアンツ, 2018年)など。
ESGへの取り組みにおいては、非政府組織(NGO)が主導して進められるケースがよくみられる。セリーズ(CERES)は、そのうちの1つで、地球温暖化などの環境問題に取り組む企業のネットワークを構築した、アメリカのNGOである7。
セリーズにとって、保険は、特に取り組みの発端となった部門である。彼らは、アメリカの保険業界を「気候変動問題について、ほとんど発言していない」「気候変動リスクへのエクスポージャーを減らすための事業や投資の計画、実務の見直しが遅れている」と評している。そして、特に、全米保険監督官協会(NAIC)に対しては、毎年の気候変動リスクの調査結果に対処して保険会社を監督するよう要請している。
セリーズは、保険業界は4つの分野への関与を強める必要がある、としている。4つの分野とは、(1)過去ではなく未来への計画、(2)気候変動リスク・エクスポージャーの開示、(3)炭素資産リスクへのエクスポージャーの評価と管理、(4)世界的な低炭素経済への移行から生じる機会を捉えるための、投資ポートフォリオの再編成、である。
7 名称は、Coalition for Environmentally Responsible EconomieS(環境に責任を持つ経済のための連合)に由来する。1989年にアメリカのアラスカ州南岸で起きたエクソン・バルディーズ号の原油流出事故をきっかけとして、より良い事業方法を模索する投資家や環境保護活動家のグループによって設立された。なお、Ceresは、豊穣と農耕をつかさどるローマの神の名前でもある。
3――持続可能な開発目標と保険業の関係
8 Sustainable Development Goalsの略。
2015年9月25日、国連総会は決議70/1の一部として、持続可能な開発のためのアジェンダを制定した。これが、いわゆる17のSDGsである。これらのSDGsは、2030年までに達成できることを目指している。
17のSDGsは、貧困削減、平等と人権の促進、世界経済の成長、環境保護、気候変動への対応など、相互に関連する性質を有しており、達成のためには、各国間のグローバル・パートナーシップが必要とされている。
たとえば、年金などの社会保険は、貧困削減の努力を支援する(1)。作物保険は、食料生産のための安定した農業基盤の確保に役立つ(2)。医療保険は健康と幸福の決定因子である(3)。保険の手頃な価格と利用可能性は、経済成長に必要なリスクテイクと技術革新をより広く促進する(8、9)。
また保険の引き受けが、建築基準、耐震構造、洪水マップ等の策定を通じて、高リスク環境で確実に持続可能な開発を実行することに役立つ(9、11等)ケースもある。さらに、保険料とその割り引きが、リスク回避行動の勧奨に寄与することもある。こうしてみると、保険業と無関係なSDGを探すほうが難しいといえるかもしれない。
9 “Business Reporting on the SDGs: An Analysis of Goals and Targets” (GRI 他, 2015年)
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
公式SNSアカウント
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