2021年01月29日

2020年10-12月期の実質GDP~前期比2.1%(年率8.5%)を予測~

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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●10-12月期は年率8.5%を予測~2四半期連続のプラス成長

2020年10-12月期の実質GDPは、前期比2.1%(前期比年率8.5%)と2四半期連続のプラス成長になったと推計される1。世界的な経済活動の持ち直しを背景に輸出が前期比11.2%の高い伸びとなり、外需寄与度が前期比1.0%(前期比年率4.2%)と成長率を大きく押し上げた。経済活動の制約が緩和される中で民間消費が前期比1.5%と2四半期連続で増加し、コロナ禍で大きく落ち込んでいた設備投資が同2.5%と3四半期ぶりに増加したことなどから、国内民間需要も堅調に推移した。

実質GDP成長率への寄与度(前期比)は、国内需要が1.0%(うち民需1.0%、公需0.0%)、外需が1.0%と予測する。
 
名目GDPは前期比1.9%(前期比年率7.8%)と2四半期連続の増加となるが、実質の伸びは下回るだろう。GDPデフレーターは前期比▲0.2%(7-9月期:同0.2%)、前年比0.7%(7-9月期:同1.2%)と予測する。
 
なお、2/15に内閣府から2020年10-12月期のGDP速報が発表される際には、基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから、成長率が過去に遡って改定される。当研究所では、2020年7-9月期の実質GDP成長率は外需の下方修正を主因として、前期比年率22.9%から同22.7%へ下方修正されると予測している。

この結果、2020年(暦年)の実質GDP成長率は▲4.9%(2019年は0.3%)、名目GDP成長率は▲4.0%(2019年は0.9%)となることが見込まれる。

2020年10-12月期は、内外の経済活動の再開を受けて大幅なプラス成長となった7-9月期に続き高い成長となり、過去最大のマイナス成長となった4-6月期の落ち込みの8割強を取り戻したとみられる。ただし、日本経済は新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化する前に、消費税率引き上げの影響で落ち込んでいた。直近のピークである2019年7-9月期と比較すると、2020年10-12月期の実質GDPは▲3.8%、民間消費は▲5.8%低い水準にとどまっており、経済活動の正常化にはまだ距離がある。
最近の月次GDPの動 また、10-12月期は高成長となったものの、月次ベースでは新型コロナウイルス陽性者数の増加を受けた営業時間短縮要請などから年末にかけて持ち直しの動きが一服している。

当研究所が推計している月次GDPは2020年6月から前月比で増加を続けていたが、11月に前月比▲0.5%と6ヵ月ぶりに減少した後、12月は同▲2.0%と減少幅が拡大した。

12月の水準は10-12月期よりも▲1.5%低い水準にあり、2021年1-3月期は低い発射台からのスタートとなる。さらに、2021年1月に緊急事態宣言が再発令されたことから、対面型サービス消費を中心に経済活動が再び落ち込むことは避けられず、2021年1-3月期は3四半期ぶりのマイナス成長となることが予想される。
 
1 1/29までに公表された経済指標をもとに予測している。今後公表される経済指標の結果によって予測値を修正する可能性がある。
 

はじめに

●主な需要項目の動向

・民間消費~2四半期連続の増加も、年末にかけて弱い動き~
民間消費は前期比1.5%と2四半期連続の増加を予測する。民間消費は経済活動の制約が緩和される中でペントアップ需要や特別定額給付金の効果などから持ち直しの動きを続けてきたが、新型コロナウイルス陽性者数の増加を受けた営業時間短縮要請、外出自粛要請などから年末にかけて弱い動きとなった。
新車販売台数(含む軽乗用車)の推移/百貨店売上高の推移
外食産業売上高の推移/延べ宿泊者数の推移
足もとの消費動向を業界統計で確認すると、自動車販売台数は、来店客数の減少や部品の供給制約の影響で4、5月に急速に落ち込んだ後、足もとではコロナ前の水準まで持ち直しているが、消費税率引き上げ前の水準は下回っている。百貨店売上高は、緊急事態宣言解除後の営業再開を受けて夏場にかけて持ち直したが、インバウンド需要がほぼ消失した状態が続いていることもあり、その後は足踏み状態となっている。

外食産業売上高、延べ宿泊者数は、「Go To Eat」、「Go To トラベル」による後押しもあり、減少幅の縮小傾向が続いていたが、新型コロナウイルス陽性者数増加を受けた営業時間短縮要請や外出自粛要請を受けて年末にかけて再び落ち込んだ。「Go To トラベル」の一時停止、緊急事態宣言の再発令を受けて2021年入り後は落ち込み幅がさらに拡大することが見込まれる。
・住宅投資~2四半期ぶりの増加~
住宅投資は前期比0.4%と2四半期ぶりの増加を予測する。
新設住宅着工戸数の推移 新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は90万戸台の推移が続いていたが、消費税率が引き上げられた2019年10-12月期に80万戸台半ば、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化した2020年4-6月期に80万戸程度へと水準を大きく切り下げた後、7-9月期以降は一進一退の動きとなっている。

先行きについては、雇用所得環境の悪化が下押し要因となるため、住宅投資の低迷は長期化する可能性が高い。
・民間設備投資~3四半期ぶりの増加も、回復はまだ先~
民間設備投資は前期比2.5%と3四半期ぶりの増加を予測する。

設備投資の一致指標である投資財出荷指数(除く輸送機械)は2020年7-9月期の前期比▲3.2%の後、10-12月期は同8.8%と5四半期ぶりに増加した。また、機械投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は2020年7-9月期に前期比▲0.1%と5四半期連続で減少した後、10、11月の平均は7-9月期を14.5%上回っている。
設備投資関連指標の推移/設備投資計画(全規模・全産業)
日銀短観2020年12月調査では、2020年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が2020年9月調査から▲2.1%下方修正され、前年度比▲3.2%となった。

輸出、生産が持ち直していることや企業収益の悪化に歯止めがかかったことを受けて、GDP統計の設備投資は3四半期ぶりに増加するとみられるが、底打ちの判断は尚早だろう。2021年入り後は緊急事態宣言再発令の影響で経済活動が再び落ち込むことから、設備投資は再び弱い動きとなることが見込まれる。企業収益は持ち直しているものの依然として低水準にとどまっており、設備投資の好調を支えていた潤沢なキャッシュフローという前提は崩れている。また、需要の急激な落ち込みを経験したことで企業の投資抑制姿勢が一段と強まることが見込まれるため、設備投資が基調として回復に向かうには時間を要する可能性が高いだろう。
・公的固定資本形成~災害復旧、国土強靭化関連を中心に増加傾向が続く~
公的固定資本形成は前期比0.7%と3四半期連続の増加を予測する。
公共工事請負金額、出来高の推移 公的固定資本形成は、災害復旧や国土強靭化関連工事の進捗を反映し、増加傾向が続いている。

公共工事の先行指標である公共工事請負金額は2018年10-12月期から増加を続けてきたが、2020年10-12月期は前年比▲3.4%と9四半期ぶりに減少した。一方、公共工事の進捗を反映する公共工事出来高(建設総合統計)は、2019年4-6月期から2020年7-9月期まで6四半期連続で増加し、10、11月の平均も前年比6.1%(7-9月期:同6.2%)と高めの伸びが続いている。
・外需~輸出の伸びが加速し、成長率を大きく押し上げ~
外需寄与度は前期比1.0%(前期比年率4.2%)と2四半期連続のプラスを予測する。海外経済の持ち直しを背景に財貨・サービスの輸出が前期比11.2%の高い伸びとなる一方、国内需要の回復ペースの鈍さを反映し輸入が前期比4.9%と7-9月期の大幅減少の後としては低い伸びにとどまったことから、7-9月期に続き外需が成長率を大きく押し上げた。

2020年10-12月期の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前期比8.2%(7-9月期:同40.6%)、EU向けが前期比12.5%(7-9月期:同5.6%)、アジア向けが前期比7.6%(7-9月期:同5.1%)、うち中国向けが前期比4.5%(7-9月期:同9.0%)、全体では前期比11.1%(7-9月期:同13.8%)となった。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 10-12月期を通してみれば、いずれの国・地域向けも好調を維持したが、月次ベースでは、年末にかけて米国向け、EU向けが弱い動きとなった。新型コロナウイルスの感染拡大を受けたロックダウンや経済活動制限の影響が出始めている可能性がある。2020年春に比べれば制限は緩やかであるため、輸出が急激に落ち込む可能性は低いと考えられるが、先行きの回復ペースの鈍化は避けられないだろう。

 
日本・月次GDP 予測結果
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2021年01月29日「Weekly エコノミスト・レター」)

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