2021年01月20日

2020年中国REIT市場の現状と今後の見通し~公募REITが始動、民間資本や個人投資家に期待~

社会研究部 研究員 胡 笳

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3|セクター別の動向
類REITのサブセクターは、安定的な賃料収入が得られる商業セクターが占める割合が45%と大きく、オフィス(16%)、賃貸住宅(12%)、インフラ(9%)、産業園区・物流センター(8%)、ホテル(8%)、コミュニティビジネス8(2%)などが続く。2019年末の構成率と比べさほど変わらない。
図表6 中国類REITのセクター別発行済み総額構成比(2020年末)
セクター別の平均確定分配率をみると、商業、オフィス、コミュニティビジネスの平均確定分配率が5.4%で比較的高く、インフラ、産業園区・物流などインフラ公募REITの対象になるセクターの平均確定分配率が4.5%と低い。
図表7 中国類REITのセクター別発行総額と平均確定分配率(2020年末)
 
8 コミュニティビジネスとは、約1.5km圏内をサービス範囲とし、周辺居住者の日常生活の需要を満たすローカルビジネスのこと。
 

3――インフラ公募REIT創設の動向

3――インフラ公募REIT創設の動向

2020年4月30日、中国証監会、国家発改委は「インフラセクターにおける不動産投資信託基金(REITs)パイロットプロジェクトの実施に関する通知」を発表してすぐ、「公開募集インフラ証券投資基金ガイドライン(試行)」(以下「ガイドライン」)の意見公募を始めた。8月、「ガイドライン」の確定版を正式に発表し、9月に上海証券取引所と深圳証券取引所が関連する実務内容を確立した。9月末、国家発改委にて、インフラ公募REITパイロットプロジェクトの申請手続きの受付を始めた。

2020年11月末、2020复旦不動産金融セミナー(上海)が開催され、上海証券取引所の関係者の話によると、初回のインフラ公募REITパイロットプロジェクトは約50件の申請があった。審査の結果、約30件が適正と判断された。12月に、うち5件が次のステップに進み、上場を前提に中国証監会にて再審査されている9。2021年1月現在、インフラ公募REITは上場目前となっている。
図表8 中国インフラ公募REIT関連政策一覧(2021年1月末)
そもそも、なぜいまの時点でインフラ公募REITが創設されたのかというと、これは中国の「内需拡大」という国策に一致しているからである。近年、中国の地方政府は財政赤字が拡大続けており、土地依存という従来の方針を余儀なく修正された。また2020年は、新型コロナ対策となる特例減税措置が全国で実施され、地方政府の収入がさらに減少する見込みである。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大により、世界同時に大きなダメージを受け、外部環境が悪化し続けている。そうしたなか、地方政府は新たな財源開拓措置による資金供給の一環として、インフラ公募REITを通じた民間資本の吸収に期待している。
 
9 財聯社記事「全国近50个项目参与申报 首批公募REITs落地在即」、2020年11月30日、https://m.cls.cn/detail/630004、中国基金報記事「公募REITs渐行渐近 5个项目接近“撞线”」、2020年12月22日、https://www.chnfund.com/article/AR2020122217004132643414。閲覧日:2021 年1月18日。
 

4――中国REIT市場の今後の見通し

4――中国REIT市場の今後の見通し

2020年に入り足元では中国類REITの発行規模は減速する傾向にあるものの、商業、オフィス、賃貸住宅などの需要は堅調に推移している。こうした状況下において、新型コロナ対策として、革新性のある類REIT商品が生まれたことは特筆すべきである。

中国湖北省・武漢市では、2020年1月に新型コロナウイルスの感染拡大の影響で約2ヶ月間封鎖され、経済活動も一時停滞していた。武漢の経済再生は中国の最も重要な任務の1つになり、全国から注目されている。その一環として、2020年12月11日、新型コロナ対策型類REIT「申万宏源―電建南国疫後重振(コロナ後の経済再生を意味する)資産支持専項計画」が正式に創設された。オリジネーターである武漢・南国置業コーポレーションは中央企業10が出資している不動産開発事業者である。この類REITの発行総額は18.1億元(約290億円)、投資期間は5年間、優先級A証券の平均確定分配率は4.8%である。対象不動産の泛悦滙・曇華林は商業、オフィスを中心とした総合型施設である。施設内に伝統文化、芸術、グルメなどのすべてを揃えた地元では人気のスポットである。募集された資金は、店舗の家賃減免、中小事業者や個人事業主への支援策(補助金など)に使用するという。失業防止の一翼を担うとともに、武漢の経済再生、活気の取り戻しに期待されている。

同時に、新型コロナ感染拡大の影響により、日本や諸外国と同様に、物流倉庫に注目が集まっている。中国では数年前から食料品のネット通販が普及しており、新型コロナウイルスの影響で利用者がさらに急増している。特に生鮮食品や冷凍食品に欠かせない高品質なコールドチェーンサービスが好調である。

一方、インフラ公募REITは法制度の不整備、情報公開、安定的な運営維持などまだ多くの課題を抱えているが、インフラなどの長期的な国家プロジェクトに参入でき、安定した収入を得られるのが個人投資家にとっては大きな魅力である。
 
2020年後半から、中国では新型コロナ感染拡大が収束し、経済活動も正常に向かい、個人消費が盛り上がり、人々の日常生活が戻りつつある。2021年、中国類REIT市場では、商業、オフィスなどといったセクターにおいて引き続き成長が見込まれている。

インフラ公募REITは中国の春節(旧正月)の時期である2021年2月前後に上場する見込みである。S&Pグローバルによると、初回のパイロットプロジェクトの発行規模は約50~100億ドル(約5,000億~1兆円)になるが、10年後の累計発行総額は300~735億ドル(約3.1~7.6兆円)に達する見通しだという11

経済発展の方針を示す第14次5カ年計画においては、不動産投資信託基金(REITs)を推進すると明言されている海南省に注目が集まっている。海南省は2020年6月に自由貿易港を建設すると発表し、関税・所得税など優遇措置の実施だけでなく、証券投資など金融分野における外資参入規制も緩和されているため、海外の投資家にも新たなビジネスチャンスが生まれる可能性がある。
 
10 中央企業とは、国務院が直接管理し、公共性のある製品やサービスを提供する企業(軍事、石油、タバコ、鉄道、放送など)、および中国銀行保険監督管理委員会、中国証券監督管理委員会が直接管理する企業(中国の五大銀行、国家開発銀行など)のこと。一方、国有企業とは、国が所有権あるいは支配権を持つ企業のこと。
11 S&P グローバル(2020)「China's Infrastructure REIT Market: From Slow Start To Big Bang?」より。
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社会研究部   研究員

胡 笳 (こ か)

研究・専門分野
土地・住宅、中国不動産全般

(2021年01月20日「基礎研レポート」)

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