コラム
2020年02月27日

中国不動産の基本(3)住宅小区

社会研究部 研究員 胡 笳

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中国の土地は一般的に入札・競売を経て、不動産関係開発業者と地方政府が土地使用権契約を締結することによって市場に供給される。北京市の土地使用権入札公告を確認すると、ほとんどの対象土地は東京ドームより広く、中には東京ドーム数個分のケースもある。そのため、不動産業者によって大規模な開発が進められることが多い。こうして統一感のある建物が数棟建設され、「住宅小区」と呼ばれる住宅地の区画ができる。

共有施設

集合住宅が建ち並ぶということから、日本の団地をイメージするかもしれないが、住宅小区は基本的に塀やフェンスなどで囲まれ、徹底的な出入り管理がされている独立した区画である。

住宅小区の敷地内には景観デザインが施されて、小規模な公園や子ども向けの遊具広場、大人向けの屋外フィットネス機器などが設置されるのが一般的である。その他、スーパーマーケット、レストラン、郵便物取り扱い拠点なども整備されている。高級住宅小区の場合には、保育園やプール、テニスコートなどが整備されているところもある。極端に言えば、外に出なくても生活に支障がないほど、住宅小区の利便性は高い。

管理体制

住宅小区はある程度の規模があることから、管理会社の人員数人が敷地内の専用スペースに常駐するのが一般的である。日常の清掃、景観の維持はもちろん、管理人1が住宅小区の入口に24時間体制で勤務し、人や車両の出入りも徹底的に管理されている。歩行者の場合、オフィスビルの入館証のような管理システムが採用され、住宅小区の入口のリーダにキーをかざすとドア解錠される2。車の場合、ナンバー認識カメラが導入され、登録されたナンバープレートが検知されるとゲートバーが上がり、住宅小区に入場することができる。こうした徹底的な出入り管理の実施は、防犯上で居住者に安心感を与え、防疫上の観点からも役に立つ。
 
1 中国語では「保安」と呼ばれている。
2 友人宅を訪問する場合、管理人にその旨伝えば、不審者でないと判断されれば入れてもらえる。身分証明書の記載や居住者に電話で確認するケースもある。

防疫上の対応及び防災上の課題

周知のように中国では2019年12月末に新型コロナウイルスの流行が始まり、現在も感染者数が増加している。感染者のうち8割以上が湖北省に集中し、湖北省以外の新たに確認された感染者数は2月3日から16日間連続減少している3
図表住宅小区別の感染者数確認画面(例) 日本でも報道されたように、中央政府は毎日省(日本の都道府県に相当する)別の感染者数を公表しているが、実は「住宅小区」別の感染者数が公表されており、オンラインで検索・確認できる。これは全国の住宅小区単位での調査を通じて、ほとんどの世帯の状況が確認されているからである。このため、感染者及び感染の恐れがある人の早期発見、早期隔離が実行でき、湖北省以外の地域への感染拡大の防止に役立ったと考えられる。一般市民にしても、住宅小区単位の情報公開により自分の感染リスクが予測され、安心して日常生活や仕事への復帰につなげられる4。もちろん、2月17日から、中国は工場等の全面操業再開に踏み切ったため、人口移動が盛んになり、まだまだ油断できない状況にある。

一方、住宅小区はあまりにも厳重に警備されていることから、防災面では問題がある。例えば、緊急事態発生時に、消防車や救急車などが現場に到着するまでの所要時間が長くなるケースが多くみられる。この問題を解消するため、数年前からマンション管理制度の改正や関連法整備も検討されているが、未だに立法の目途が立っていない。2016年、国務院が「都市計画建設管理のさらなる強化に関する意見」(关于进一步加强城市规划建设管理工作的若干意见)を発表し、「閉鎖的な住宅小区を原則的に建設しない、既存の住宅小区を徐々に開放し、敷地内の道路を公共化する」とされているが、「物権法」(2007)第六章第七十三条では、国道など公共道路以外、「建築区域内の道路は、所有者が共有する」とされている。この矛盾点をどのように解消するかはまだ不明である。

同様に現在中国で人気のネット通販や出前サービスの利便性も損なわれている。一部の住宅小区は配達員の出入りを禁止しており、本来便利と効率化を目的として生まれたサービスが、皮肉にも住宅小区では不便なことになる。住宅小区は、居住者に快適な日常生活を提供する一方、まだ解決すべき課題を抱えている。

次回からは、不動産に関連する税金について報告する。
 
3 2020年2月19日まで公表された統計データによる。
4 その他、感染者の公共施設、公共交通機関の利用情報・行動歴なども公表されている。
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社会研究部   研究員

胡 笳 (こ か)

研究・専門分野
中国REIT、中国不動産全般

経歴
  • 【職歴】
     2018年 早稲田大学 アジア太平洋研究科 博士(学術)
     2018年 ニッセイ基礎研究所 入社
    【資格】
     環境プランナー、国際環境リーダー

    【加入団体等】
     日本NPO学会、Nonprofit Management & Leadership(米)

(2020年02月27日「研究員の眼」)

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【中国不動産の基本(3)住宅小区】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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