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- 中国経済の健康診断ーGDP統計と併せて確認しておくと良い検査値
2020年02月07日
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健康に対する関心が年々高まっている。経済的に豊かになると、人の関心はお金から健康へとシフトしていくのかも知れない。それでは健康とはいったい何なのだろうか。世界保健機関(WTO)の定義によれば、「健康とは、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態であり、単に病気がないとか虚弱でないということではない」とされている。これを筆者が専門とする中国経済に当てはめてみれば、一人当たり国内総生産(GDP)が大きいとか小さいとか、経済成長のスピードが速いとか遅いとかいうことだけではなく、努力すればさまざまな機会が平等に与えられる社会になっているのかといった、精神的、社会的な枠組みも評価する必要があるということだろう。そこで、一人当たりGDPでは捉え切れない中国経済の健康状態を確認するため、国際連合開発計画(UNDP)が開発した指標を用いて分析してみたので、ご紹介したい。
UNDPの指標の中で最も有名なのは人間開発指数(Human DevelopmentIndex=以下ではHDIと称す)であろう。この指標は1990年にマブーブル・ハックが、人間が自らの意思に基づいて自分の選択と機会の幅を拡大させることを目的とする「人間開発」という概念を提唱したことに始まる。その度合いを測るために指数化したのがHDIであり、健康で長生きできるかを示す寿命インデックス(Life Expectancy Index)、教育を得る機会が十分かを示す教育インデックス(Education Index)、生活に必要な収入が得られるかを示す収入インデックス(Income Index)で構成される。収入インデックスは一人当たりGDPに近い概念でそれにほぼ連動する。この3つを幾何平均したのがHDIであり、通常0~1の間の値を取り、数が大きいほど開発度が高いことを示す。また、指数化しているため時系列分析や国際比較が可能という利点がある。中国についてHDI を構成する3つのインデックスの直近レベルを比較すると、寿命インデックス>収入インデックス>教育インデックスの順番となっており、過去10年の上昇幅を比較すると、収入インデックス>教育インデックス>寿命インデックスの順番となっている。また、経済成長の勢いが鈍化する中でも、3つのインデックスは揃って上昇傾向にある。但し、教育インデックスはここ数年やや停滞気味である。
また、中国経済の健康状態を見る上では、機会が平等に与えられるかも重要な視点となる。そこで、UNDPが開発した不平等係数(Coefficient of HumanInequality)を確認してみた。この係数は、健康で長生きできる機会が平等かを見る寿命不平等(Inequality in LifeExpectancy)、教育を十分に得る機会が平等かを見る教育不平等(Inequalityin Education)、生活に必要な収入を得られる機会が平等かを見る収入不平等(Inequality in Income)で構成されており、それぞれアトキンソン不平等尺度(Atkinson Inequality Index)を用いて評価した上で、3つを算術平均して求められる。なお、不平等係数は通常0~100の間の値を取り、数が大きいほど不平等であることを示している。現在と過去(2012年)を対比して見ると、中国の不平等係数は22.1%から15.6%へ大幅に改善しており、特に寿命と教育の不平等の低下が著しい。一方、収入不平等も29.5%から27.4%へ改善しているものの、依然として高水準である。但し、国際比較して見ると、米国の収入不平等は逆に24.1%から26.6%へ拡大しており、中国との差はほとんど無くなってしまった。
以上を元に、中国経済を筆者なりに健康診断すると、HDIを構成する寿命、教育、収入の3つの指標はどれも上昇傾向にあり、そのレベルも一人当たりGDPが同水準の国々と比べれば遜色ない。しかし、概ね0.9を超える先進国に比べると劣後しており、特に先進国の中でも高いレベルにある香港(HDI=0.939)との差は大きい。また、不平等係数を構成する寿命、教育、収入の3つの指標を見ても全て低下しており改善傾向だが、米国、ドイツ、日本など先進国に比べると劣後しており、特に教育の不平等は極めて大きい。一国二制度の下で、中国と共にある香港の不平等係数は12.6%とそれほど低くないものの、中国との差はまだ残る。このように、中国経済は成長の勢いこそ鈍化したものの、HDIや不平等係数を構成する指標は改善傾向にあり、健康状態は年々良くなっている。しかし、日本や欧米先進国のレベルになるには尚一層の努力が必要で、特に香港との格差は波乱の種となりかねない。一方、中国が改善のスピードを上げて、精神的な豊かさを増進する社会的枠組みが整ってくれば、香港と共に一国二制度を円滑に運営する上でも、支援材料になると思料する。
UNDPの指標の中で最も有名なのは人間開発指数(Human DevelopmentIndex=以下ではHDIと称す)であろう。この指標は1990年にマブーブル・ハックが、人間が自らの意思に基づいて自分の選択と機会の幅を拡大させることを目的とする「人間開発」という概念を提唱したことに始まる。その度合いを測るために指数化したのがHDIであり、健康で長生きできるかを示す寿命インデックス(Life Expectancy Index)、教育を得る機会が十分かを示す教育インデックス(Education Index)、生活に必要な収入が得られるかを示す収入インデックス(Income Index)で構成される。収入インデックスは一人当たりGDPに近い概念でそれにほぼ連動する。この3つを幾何平均したのがHDIであり、通常0~1の間の値を取り、数が大きいほど開発度が高いことを示す。また、指数化しているため時系列分析や国際比較が可能という利点がある。中国についてHDI を構成する3つのインデックスの直近レベルを比較すると、寿命インデックス>収入インデックス>教育インデックスの順番となっており、過去10年の上昇幅を比較すると、収入インデックス>教育インデックス>寿命インデックスの順番となっている。また、経済成長の勢いが鈍化する中でも、3つのインデックスは揃って上昇傾向にある。但し、教育インデックスはここ数年やや停滞気味である。
また、中国経済の健康状態を見る上では、機会が平等に与えられるかも重要な視点となる。そこで、UNDPが開発した不平等係数(Coefficient of HumanInequality)を確認してみた。この係数は、健康で長生きできる機会が平等かを見る寿命不平等(Inequality in LifeExpectancy)、教育を十分に得る機会が平等かを見る教育不平等(Inequalityin Education)、生活に必要な収入を得られる機会が平等かを見る収入不平等(Inequality in Income)で構成されており、それぞれアトキンソン不平等尺度(Atkinson Inequality Index)を用いて評価した上で、3つを算術平均して求められる。なお、不平等係数は通常0~100の間の値を取り、数が大きいほど不平等であることを示している。現在と過去(2012年)を対比して見ると、中国の不平等係数は22.1%から15.6%へ大幅に改善しており、特に寿命と教育の不平等の低下が著しい。一方、収入不平等も29.5%から27.4%へ改善しているものの、依然として高水準である。但し、国際比較して見ると、米国の収入不平等は逆に24.1%から26.6%へ拡大しており、中国との差はほとんど無くなってしまった。
以上を元に、中国経済を筆者なりに健康診断すると、HDIを構成する寿命、教育、収入の3つの指標はどれも上昇傾向にあり、そのレベルも一人当たりGDPが同水準の国々と比べれば遜色ない。しかし、概ね0.9を超える先進国に比べると劣後しており、特に先進国の中でも高いレベルにある香港(HDI=0.939)との差は大きい。また、不平等係数を構成する寿命、教育、収入の3つの指標を見ても全て低下しており改善傾向だが、米国、ドイツ、日本など先進国に比べると劣後しており、特に教育の不平等は極めて大きい。一国二制度の下で、中国と共にある香港の不平等係数は12.6%とそれほど低くないものの、中国との差はまだ残る。このように、中国経済は成長の勢いこそ鈍化したものの、HDIや不平等係数を構成する指標は改善傾向にあり、健康状態は年々良くなっている。しかし、日本や欧米先進国のレベルになるには尚一層の努力が必要で、特に香港との格差は波乱の種となりかねない。一方、中国が改善のスピードを上げて、精神的な豊かさを増進する社会的枠組みが整ってくれば、香港と共に一国二制度を円滑に運営する上でも、支援材料になると思料する。
(2020年02月07日「基礎研マンスリー」)
三尾 幸吉郎
三尾 幸吉郎のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2024/12/16 | 図表でみる世界のGDP-日本が置かれている現状と世界のトレンド | 三尾 幸吉郎 | 基礎研レター |
2024/07/30 | 図表でみる世界の人口ピラミッド | 三尾 幸吉郎 | 基礎研レター |
2024/04/05 | 不動産バブルの日中比較と中国経済の展望 | 三尾 幸吉郎 | 基礎研マンスリー |
2024/03/11 | Comparison of Real Estate Bubbles in China and Japan, and Prospects for the Chinese Economy | 三尾 幸吉郎 | 基礎研レポート |
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