2021年01月12日

米雇用統計(20年12月)-雇用者数(前月比)は8ヵ月ぶりに減少。新型コロナの感染拡大で労働市場の回復に暗雲

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は予想外に減少、失業率は市場予想を下回る

1月8日、米国労働省(BLS)は12月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で▲14.0万人の減少1(前月改定値:+33.6万人)と、+24.5万人から大幅に上方修正された前月から減少に転じたほか、市場予想の+5.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も大幅に下回った(後掲図表2参照)。

失業率は6.7%(前月:6.7%、市場予想:6.8%)と前月から横ばいとなり、上昇を見込んだ市場予想は下回った(後継図表6参照)。労働参加率2は61.5%(前月:61.5%、市場予想:61.5%)と前月、市場予想に一致した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用者数は新型コロナの感染拡大に伴い8ヵ月ぶりに減少

12月の非農業部門雇用者数は後述するように娯楽・宿泊が前月比▲49.8万人と大幅な減少に転じたこともあって、20年4月以降8ヵ月ぶりの雇用減少となった。娯楽・宿泊の減少は新型コロナの感染者数の急増と感染対策としてレストランなでの外食制限を実施する州が増加したことによるとみられる。11月時点では雇用の水準が新型コロナ流行前(20年2月)に回復するのに30ヵ月程度要するとみられていたが、12月に雇用減少に転じたことで回復時期がさらに先延ばしとなる可能性が高まった。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.8%(前月:+0.3%、市場予想:+0.2%)と前月から大幅に伸びが加速したほか、市場予想も大幅に上回った。また、前年同月比は+5.1%(前月:+4.4%、市場予想:+4.5%)と、こちらも前月、市場予想を大幅に上回った(図表1)。時間当たり賃金は前月比、前年同月比ともに前月から大幅に伸びが加速したが、これは低賃金の娯楽・宿泊の雇用が新型コロナで大幅に減少した影響であり、賃金環境の改善を意味しない。

このようにみると、12月は新型コロナの感染再拡大に伴って、5月以降に継続していた労働市場の回復が足踏みとなったことを示す結果であった。また、21年に入っても新型コロナ感染の勢いは衰えておらず、経済活動を制限する州も増加しているため、1月も雇用回復する可能性は低いだろう。

3.事業所調査の詳細:娯楽・宿泊が大幅に減少

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比▲18.8万人(前月:+35.0万人)と8ヵ月ぶりに減少に転じた(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、小売業が前月比+12.1万人(前月:▲2.1万人)と前月から増加に転じたほか、専門・ビジネスサービスが+16.1万人(前月:+8.8万人)と伸びが加速した。

一方、運輸・倉庫が+4.7万人(前月:+12.8万人)、医療・社会扶助サービスが+3.2万人(前月:+4.9万人)と前月から伸びが鈍化したほか、娯楽・宿泊が▲49.8万人(前月:+7.5万人)と大幅な減少に転じて雇用全体を押し下げた。

財生産部門は前月 比+9.3万人(前月:+6.7万人)とこちらは前月から伸びが加速した。製造業が+3.8万人(前月:+3.5万人)と前月並みの伸びを維持したほか、建設業が+5.1万人(前月:+2.9万人)と伸びが加速した。

一方、政府部門は前月比▲4.5万人(前月:▲8.1万人)と4ヵ月連続で減少となった。内訳をみると、連邦政府が+0.6万人(前月:▲8.6万人)と増加に転じたものの、州・地方政府が▲5.1万人(前月:+0.5万人)と減少に転じ全体を押し下げた。
前月(11月)と前々月(10月)の雇用増加数(改定値)は前月が+33.6万人(改定前:+24.5万人)と+9.1万人上方修正されたほか、前々月は+65.4万人(改定前:+61.0万人)と、こちらも+4.4万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+13.5万人の上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って1月6日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比▲12.3万人(前月改定値:+30.4万人、市場予想:+7.5万人)と+30.7万人から小幅下方修正された前月から減少に転じたほか、小幅な増加を見込んでいた市場予想も下回った。この結果、ADP統計は雇用が減少に転じた雇用統計と整合的な動きとなった。
 
12月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が29.81ドル(前月:29.58ドル)となり、前月から+23セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.7時間(前月:34.8時間)とこちらは前月から▲0.1時間減少した。この結果、週当たり賃金は1,034.41ドル(前月:1,029.38ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働力人口は小幅増加も労働参加率は横這い

家計調査のうち、12月の労働力人口は前月対比で+3.1万人(前月:▲18.2万人)と前月から僅かながら増加に転じた。内訳を見ると、就業者数が+2.1万人(前月:+14.0万人)と前月から伸びは鈍化したものの増加したほか、失業者数が+0.8万人(前月:▲32.1万人)と増加に転じた。一方、非労働力人口は+11.5万人(前月:+34.1万人)と前月から鈍化も増加を維持した。

これらの結果、労働参加率は61.5%と前月から横ばいとなった(図表5)。一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は12月が81.0%(前月:80.9%)と前月から+0.1%ポイント上昇した。男女の内訳は、男性が87.3%(前月:87.4%)と▲0.1%ポイント低下したものの、女性が74.8%(前月:74.5%)と+0.3%ポイント上昇して全体を押し上げた。

一方、失業率は6.7%と8ヵ月ぶりに前月比横ばいとなった(図表6)。同じく横ばいとなった労働参加率と併せて12月の家計調査は回復が一服したと言えよう。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
12月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は395.6万人(前月:392.9万人)と前月から+2.7万人の増加となった。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも37.1%(前月:36.8%)と前月から+0.3%ポイント増加した(図表7)。平均失業期間は23.4週(前月:23.0週)と前月から+0.4週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(218.6万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(617.0万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、12月が11.7%(前月:12.0%)と前月から▲0.3%ポイント低下した(図表8)。また、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+5.0%ポイント(前月:+5.3%ポイント)と前月から▲0.3%ポイント縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年01月12日「経済・金融フラッシュ」)

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