2021年01月08日

ユーロ圏消費者物価(12月)-エネルギー価格に上昇の兆し

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:4か月連続の前年同期比マイナス圏

1月7日、欧州委員会統計局(Eurostat)は12月のユーロ圏のHICP(Harmonized Indices of Consumer Prices:EU基準の消費者物価指数)速報値を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【総合指数】
前年同月比は▲0.3%、市場予想1(▲0.3%)と同じで前月(▲0.3%)から横ばい(図表1)
前月比は+0.3%、予想(+0.3%)と同じで、前月(▲0.3%)から加速

【総合指数からエネルギーと飲食料を除いた指数2
前年同月比は+0.2%、予想(+0.2%)と同じで、前月(同+0.2%)から横ばい(図表2)
前月比は+0.4%、前月(▲0.5%)から減速

(図表1)ユーロ圏のHICP上昇率/(図表2)ユーロ圏のHICP上昇率
 
1 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。
2 日本の消費者物価指数のコアコアCPI、米国の消費者物価指数のコアCPIに相当するもの。ただし、ユーロ圏の指数はアルコール飲料も除いており、日本のコアコアCPIや米国のコアCPIとは若干定義が異なる。

2.結果の詳細:エネルギー価格がやや持ち直し

12月のHICP上昇率(前年同月比)は、全体で▲0.3%、「コア部分(=エネルギーと飲食料を除く総合)」で+0.2%となり、いずれも9月から4か月連続で横ばいとなった。

以下、詳細を「コア部分」「エネルギー」「飲食料(アルコール含む)」の3つに分けて見ていく。

まず、コア部分の「エネルギーと飲食料を除く総合」(前年同月比+0.2%)の内訳を見ると、「エネルギーを除く財3」は9月▲0.3%→10月▲0.1→11月▲0.3%→12月▲0.5%と足もとでマイナス幅を拡大させている。一方、「サービス」は9月+0.5%→10月+0.4%→11月+0.6%→12月+0.7%となり、10月には減速が止まり、緩やかながらも伸び率が拡大している。ただし、サービスの1%を割る伸び率については、過去と比較してもかなり低い状況と言える(図表2)。

コア以外の部分では「エネルギー」が、9月▲8.2%→10月▲8.2%→11月▲8.3%→12月▲6.9%と12月にマイナス幅を大きく縮小させている。前月比で見ると12月は+1.6%の上昇となり、原油価格の持ち直しやユーロ高がエネルギー価格の上昇として顕在化しているものと見られる。そのため、エネルギーの前年同月比寄与度は、12月には▲0.71ポイントとなり、これまでよりもインフレ率の押し下げる効果がやや弱まっている(前掲図表1・2)。
(図表3)ユーロ圏の飲食料価格の上昇率と内訳 一方「飲食料(アルコール含む)」については、12月は前年同月比で+1.4%(11月+1.9%)となった。このうち加工食品が+1.2%(11月+1.2%)、未加工食品は+2.1%(11月+4.2%)となり、12月は未加工食品を中心に下落が目立った(図表3)。11月以降、ユーロ圏では新型コロナウイルスの感染急拡大(第2波)への対応として強めの外出制限を課している国が多く、12月中も制限は続いていたものの、上半期の行動制限時期にみられたような価格の上昇は観測されず、むしろ飲食料価格は下落している。
国別のHICP上昇率を見ると(図表4・5)、12月は前年同月比で未公表のオーストリアを除く18か国中7か国が減速し、11か国はやや加速(マイナス幅が縮小)した。フランスやリトアニアがマイナスに転じるほか、ギリシャのマイナス幅の拡大が目立つなど、デフレ圧力の強まっている国もあるが、全体としてみればデフレ圧力は緩和されている国が多かった。また、経済大国でウェイトが最も大きいドイツでは、コロナ禍で時限的に導入していたVAT引き下げが12月に終了している4ため、構造的な要因により21年1月のインフレ率はいったん上昇するだろう。
(図表4)ユーロ圏HICP上昇率(前年同月比)/(図表5)ユーロ圏HICP上昇率(前月比)
 
3 飲食料も除く。
4 ドイツではVAT引き下げを実施しており、インフレ率が押し下げられている。具体的には7月から税率で19%→16%(軽減税率は7%→5%)への引き下げを12月まで実施した。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年01月08日「経済・金融フラッシュ」)

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