- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 年金 >
- 企業年金 >
- DC拠出限度額の見直しで重要性が高まる企業の取り組み
DC拠出限度額の見直しで重要性が高まる企業の取り組み

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 梅内 俊樹
このレポートの関連カテゴリ
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1――DC制度の拠出限度額見直しの趣旨
2――DB加入者のDC拠出限度額の見直し
現行では、企業型DCのみを実施している場合の拠出限度額は月額5.5万円であるのに対して、DBを併せて実施している場合は月額2.75万円と、企業型DCのみを実施する場合の半額となっている。これは、DBに加入している者と加入していない者との間で不公平が生じないよう、企業型DCのみを実施する場合の拠出限度額(月額5.5万円)から、DBに事業主が拠出する掛金相当額(月額2.75万円)を控除する必要があるとの考え方に基づいている。しかし、DBの掛金相当額を月額2.75万円に一律評価する取扱いは、現状における確定給付企業年金の掛金額の実態からかけ離れており、企業型DCのみに加入する者とDBにも加入する者との間の不公平のみならず、DB加入者間の不公平も生じさせる状況となっている。
こうした課題に対応するため、DBを併せて実施する場合の企業型DCの拠出限度額については、「DBごとの掛金相当額を月額5.5万円から控除した額」とし、DBの掛金相当額を一律評価する取扱いを改めることが示された(図表1)。現在、確定給付企業年金の一人当たりの掛金額が月額2.75万円を超えるのは1割に満たず、大半は月額2.75万円を下回っている。このため、拠出限度額の見直しにより、DBを併用する多くの企業で、企業型DCの拠出限度額が拡大することになる。その反面、DBの掛金相当額が月額2.75万円を超える場合には、見直しにより拠出限度額が引き下げられ、月額5.5万円を超える場合にはDC制度への拠出が不可となるが、こうした事象に対しては、現行の制度下で承認を受けた既存規約に基づく従前の掛金拠出の継続を許容する経過措置が設けられる見通しである。ただし、企業型DC規約の掛金、または、DB規約の給付設計の見直しを実施した場合には、新ルールが適用されることになる。
DBを併せて実施する場合の企業型DCの拠出限度額の設定で、DBの掛金相当額を一律に評価する現状を改め、DBごとに個別に評価することに合わせて、iDeCoの拠出限度額についても見直される。2020年5月に成立した年金制度改正法により、2022年10月以降、DB加入者のiDeCoの拠出限度額は、「月額1.2万円以内、かつ、企業型DCの事業主掛金額との合計が月額2.75万円以内」となる。この限度額が、「月額2万円以内、かつ、企業型DCの事業主掛金額、DBの掛金相当額との合計が月額5.5万円以内」に見直され、企業型DCのみに加入する場合の拠出限度額に統一される(図表2)。これにより、企業型DCやDBに加入する者のiDeCoの拠出限度額の公平も図られることになる。
DBの掛金相当額が2.75万円を超える場合には、見直しにより、iDeCoへの拠出限度額が引き下げられるケースも生じ得る。しかし、企業型DCのような経過措置は講じられない見通しである。なお、iDeCoの拠出限度額については、自助努力に対する支援の公平や企業年金がある者とない者の公平、企業年金の普及等の観点から、継続的な検討が求められる。
3――重要性が高まる企業の取り組み
しかし、DC制度が広く有効活用されなければ、一人ひとりの老後資金の蓄積は進まない。生命保険文化センターの令和元年度「生活保障に関する調査」によれば、在職中のライフイベントや退職後の生活などの中長期の生活設計を立てている人は18歳から60歳代までの調査対象者の37%に留まっている。ゆとりある老後生活を確保するためには計画的に資産形成を進めることが重要であることを踏まえると、自助努力を開始するきっかけを身近な場で得られるようにするべきであり、その意味では、企業の取り組みの重要性は極めて高いと言える。
企業型DCを実施する企業であれば、投資教育の一環で、iDeCoの併用により厚みのある資産形成を実現することの重要性について教育することが考えられる。企業型DCを実施していない企業であっても、従業員の自助努力を支援する福利厚生の一環で、早期に資産形成を始めることの重要性やiDeCoの有用性などについて、ライフプランセミナーの実施などを通じて啓発することが求められる。
iDeCoを福利厚生の対象外とせずに、iDeCoの有効活用も含めた資産形成を後押しする取り組みが企業には求められる。企業年金とiDeCoが効果的に組み合わされて、老後に備える資産の蓄積が広く進められることを期待したい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年12月25日「基礎研レター」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1849
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
梅内 俊樹のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/03 | 資産配分の見直しで検討したいプライベートアセット | 梅内 俊樹 | ニッセイ年金ストラテジー |
2025/02/28 | 日本版サステナビリティ開示基準を巡る議論について-開示基準開発の経過と有価証券報告書への適用の方向性 | 梅内 俊樹 | 基礎研レター |
2024/09/06 | 持続的な発展に向けて-SDGsの先を見据えた継続的な取組が必要か? | 梅内 俊樹 | 基礎研マンスリー |
2024/09/05 | 持続的な発展に向けて-SDGsの先を見据えた継続的な取組が必要か? | 梅内 俊樹 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年05月09日
下落時の分配金の是非~2025年4月の投信動向~ -
2025年05月09日
グローバル株式市場動向(2025年4月)-トランプ関税への各国の対応が注目される -
2025年05月09日
英国金融政策(5月MPC公表)-トランプ関税が利下げを後押し -
2025年05月09日
官民連携「EVカーシェア」の現状-GXと地方創生の交差点で進むモビリティ変革の芽 -
2025年05月09日
ESGからサステナビリティへ~ESGは目的達成のための手段である~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【DC拠出限度額の見直しで重要性が高まる企業の取り組み】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
DC拠出限度額の見直しで重要性が高まる企業の取り組みのレポート Topへ