2020年12月17日

米FOMC(20年12月)-予想通り、政策金利を据え置き、量的緩和政策のガイダンスを強化

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:予想通り、政策金利を据え置き、量的緩和政策のガイダンスを強化

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が12月15-16日(現地時間)に開催された。FRBは、市場の予想通り、政策金利を据え置いた。一方、今回発表された声明文では金融政策のガイダンス部分で量的緩和政策の継続期間として、前回までの「今後数ヵ月」から「雇用の最大化と物価安定に向けて一段と顕著な進展があるまで」との表現に変更し、量的緩和政策の長期化を示唆する方向にフォワードガイダンスを強化した。景気の現状判断や景気見通し部分の変更はなかった。

今回の金融政策方針は全会一致での決定となった。

一方、FOMC参加者の経済見通しは、前回(9月)から、成長率、失業率、インフレ率が上方修正(失業率は低下)された(後掲図表1)。

また、政策金利見通し(中央値)は、前回同様23年末まで実質ゼロ金利政策が継続することが示された。長期見通しの水準は据え置かれた(後掲図表2)。

2.金融政策の評価:現在の金融緩和策を長期間維持する方針を確認

政策金利に変更がなかったことは予想通り。また、前回のFOMC会合で量的緩和策に関するガイドライン強化が議論されたことが示されていたため、今回のガイダンス強化についても概ね予想通りと言えよう。ガイダンス強化の結果、雇用の最大化と物価安定目標の達成に今後数年単位で掛かるとみられることから、量的緩和政策が長期に亘って維持されることが確実となった。

一方、FOMC会合後に行われたパウエル議長の記者会見では、大部分のアメリカ人がワクチンを接種する時期として、来年3月の終わりから4-6月にかけてとの見通しが示された。また、この前提の下で、米景気は来年後半に景気回復が加速するとの楽観的な見通しが示された一方、足元の新型コロナ感染者数の増加を受けて今後4~5カ月間は非常に厳しいとの見方も示された。

このような景気認識を受けて追加緩和の可能性に関する質問が出たが、パウエル議長は現在の金融政策は非常に緩和的であるとしており、追加緩和には消極的な姿勢を示した。実際に、FRBは既に実質ゼロ金利、買い入れ上限無しの量的緩和政策を採用していることから、追加緩和余地は乏しいと言えよう。

当研究所は実質ゼロ金利政策が解除されるのは早くても24年以降、量的緩和政策は同23年以降と予想している。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを0-0.25%に維持することを決定(変更なし)。
  • FRBは引き続き、米国債の保有を少なくとも月800億ドル、エージェンシーの住宅ローン担保証券(MBS)の保有を月400億ドルそれぞれ増やし、委員会の目標である雇用の最大化と物価安定に向けて一段と顕著な進展があるまでそれを継続する(金額を明示したほか、量的緩和政策の継続期間について前回の「今後数ヵ月」”over coming months”から「委員会の目標である最大限の雇用と物価安定に向けて一段と顕著な進展があるまで」”until substantial further progress has been made toward the Committee’s maximum employment and price stability goals”と明確化
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • インフレ率がこの長期目標を持続的に下回っていることから、委員会は長期的にインフレ率が平均2%となり、長期的なインフレ期待が2%にしっかりと固定されるよう、当面2%をやや上回る水準のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • 委員会は、これらの結果が達成されるまで、緩和的な金融政策のスタンスを維持すると予想する(変更なし)
  • 委員会は、労働市場の状況が雇用の最大化との評価に一致し、インフレ率が2%に上昇して、しばらくの間2%をやや上回るとの見通しに沿うまで、この目標レンジを維持することが適切であると予想する(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
 
(景気判断)
  • 新型コロナの流行は米国と世界各地に甚大な人的、経済的困難を引き起こしている(変更なし)
  • 経済活動と雇用は急激な落ち込みの後、回復が続いているが、今年初めの水準をなお大きく下回っている(変更なし)
  • 需要の弱まりと先にみられた原油価格の下落は、消費者物価の上昇を抑制している(変更なし)。
  • ここ数カ月で全般的な金融環境は、経済および、家計や企業への信用の流れを支えるための政策措置を一部反映して引き続き緩和的だ(変更なし)
 
(景気見通し)
  • 経済の行方はウイルスの成り行きに大きく左右される(変更なし)
  • 現在進行中の公衆衛生の危機は、経済活動に大きな影響を与えるだろう(変更なし)
  • 短期的には雇用やインフレなど、中期的には経済見通しに大きなリスクをもたらす(変更なし)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • FRBは議会が示した金融政策目標である雇用の最大化と物価の安定を達成することに強くコミットしている。本日、金利に対する強いフォワードガイダンスを再確認するとともに、資産買い入れに関する追加のガイダンスを提供した。
    • 景気回復は一般に予想されていたよりも急速に進んでおり、FOMC参加者の今年の成長率見通しは9月から上方修正された。それでも全体的な経済活動はパンデミック以前の水準を大幅に下回っており、今後の道筋は非常に不確実なままである。
    • パンデミックを通して強調してきたように、経済の見通しは非常に不確実であり、その大部分はウイルスの経過による。最近のワクチンに関するニュースは非常にポジティブだ。
    • 経済が本格的に回復するのは、幅広い活動を再開しても安全だと人々が確信するまでは難しい。
    • 我々は雇用と物価(平均的に2%)の目標が達成されるまで、緩和的な金融政策のスタンスを維持するつもりだ。
    • FF金利のフォワードガイダンスと組み合わせることで、強化されたバランスシートガイダンスは、景気回復が進む中で、金融政策のスタンスが極めて緩和的なものに維持することを保証する。
    • 経済活動と雇用が年初の水準に戻るのにはしばらく時間がかかり、それを達成するためには金融政策と財政政策の両方からの継続的な支援が必要になる可能性がある。
 
  • 主な質疑応答
    • (失業率、インフレ率の足元の水準とFOMC参加者の見通しは、「雇用の最大化と物価安定に向けた一段と顕著な進展」を構成するか)現時点では、そのテストを特定の数値に関連付けることはしない。金利と資産購入の両方に関するガイダンスは、雇用の最大化と物価安定目標が達成されるまで金融政策を緩和し続けるということであり、それは強力なメッセージだ。
    • (当面の経済状況は非常に困難と予想しているのに、資産購入について償還期限を長期化しないのは何故か)我々は現在の金融政策によって経済に多大な支援を提供できており、現在の政策スタンスは適切であると引き続き考えている。金融環境は極めて緩和的だ。
    • (足元で小売売上高は低迷し、失業率、雇用の伸びが鈍化している中でFRBが追加で出来ることはあるか)我々にできることは他にもある。資産購入プログラムを拡大することもできるし、償還期限を長期化することもできる。多くの選択肢がある。ただし、短期的に人々が必要としているのは、長く変動するラグを伴い時間の経過とともに需要を刺激する低金利だけではない。
    • (資産買入れのガイダンス強化は追加緩和ではない。どうして追加緩和しないのか)経済で金利に敏感な部分は非常に機能している。機能していないのは新型コロナへの曝露で苦しんでいる部分だ。今こそ本当に必要なのは財政政策だろう。

5.FOMC参加者の見通し

FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の17名 )の経済見通しは(図表1)の通り。前回(9月)見通しとの比較では、成長率が20年で▲3.7%から▲2.4%に上方修正されるなど、22年分までが上方修正された。失業率も20年が7.6%から6.7%に上方修正(失業率は低下)されたほか、23年分まで上方修正された。物価は21年と22年分が上方修正された。
(図表1)FOMC参加者の経済見通し(12月会合)
(図表2)政策金利見通し(年末時点) 政策金利の見通し(中央値)は、前回に続き20年から23年まで現在の実質ゼロ金利政策(0%~0.25%)の継続が見込まれている(図表2)。

さらに、ドット・チャートをみると、予測者17名のうち20年と21年は全員が政策金利の据え置きを予想しているほか、22年が16人、23年でも12人が据え置きを予想しており、FOMC参加者の多数が実質ゼロ金利政策の長期化を支持していることが分かる。

最後に、長期見通しは2.5%で前回から変更がなかった。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年12月17日「経済・金融フラッシュ」)

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