2020年12月07日

米雇用統計(20年11月)-雇用者数は前月比+24.5万人、前月から伸びは大幅に鈍化、市場予想(+46.0万人)も下回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は市場予想を下回る一方、失業率は市場予想に一致

12月4日、米国労働省(BLS)は11月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+24.5万人の増加1(前月改定値:+61.0万人)と、+63.8万人から下方修正された前月から雇用の伸びが大幅に鈍化したほか、市場予想の+46.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も大幅に下回った(後掲図表2参照)。

失業率は6.7%(前月:6.9%、市場予想:6.7%)と前月から▲0.2%ポイント低下し、市場予想に一致した(後継図表6参照)。労働参加率2は61.5%(前月:61.7%、市場予想:61.7%)と前月から▲0.2%ポイント低下し、前月並みを見込んでいた市場予想を下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用回復のモメンタムは大幅に低下

11月の非農業部門雇用者数は前月から伸びが大幅に鈍化した結果、3月~4月の2ヵ月間で喪失した2,216万人に対して5月~11月の7ヵ月間の増加幅が+1,232万人に留まり、依然として983万人が喪失された状況となっている。今後、11月の雇用増加ペースで雇用拡大が続く場合に雇用者数が新型コロナ流行前(20年2月)の水準に戻すのに40ヵ月と3年超の期間を要する。

失業率は前月から低下したものの、労働参加率の低下にみられるように職探しを諦めて労働市場から退場した人の増加に伴うものであり、必ずしも労働需給の改善を意味しない。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.3%(前月:+0.1%、市場予想:+0.1%)と前月、市場予想を上回った。また、前年同月比は+4.4%(前月改定値:+4.4%、市場予想:+4.2%)と、こちらは+4.5%から下方修正された前月に一致、市場予想は上回った(図表1)。前年同月比は依然として新型コロナ流行前の3%台前半の水準を大幅に上回っているものの、低賃金の娯楽・宿泊業や小売業の雇用が新型コロナで大幅に減少した影響を受けているため、賃金動向の実態を把握するのが難しくなっている。

このようにみると、11月は時間当たり賃金こそ前月から加速がみられたものの、雇用者数の大幅な伸び鈍化や労働参加率の低下など労働市場の回復モメンタムが前月からさらに低下したことを示す結果と言えよう。米国内では新型コロナ感染再拡大がみられており、一部の州で自宅待機命令が発出されているほか、気温の低下に伴いレストランの屋外営業に影響がでるとみられることから、追加経済対策の早急な実施などがない場合には、来月以降も雇用回復のモメンタムは一層低下しよう。

3.事業所調査の詳細:軒並み雇用の伸びが鈍化、政府関連、小売り業で雇用が減少

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+28.9万人(前月:+77.0万人)と7ヵ月連続の増加となったものの、前月から大幅に伸びが鈍化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、運輸・倉庫こそ前月比+14.5万人(前月:+6.2万人)と前月から伸びが加速したものの、娯楽・宿泊が前月比+3.1万人(前月:+27.0万人)、専門・ビジネスサービスが+6.0万人(前月:+23.1万人)、医療・社会扶助サービスが+6.0万人(前月:+9.1万人)と前月から伸びが鈍化した。さらに、小売業では▲3.5万人(前月:+9.5万人)と減少に転じた。

財生産部門は前月比+5.5万人(前月:+10.7万人)と前月から伸びが鈍化した。製造業が+2.7万人(前月:+3.3万人)と前月から小幅に伸びが鈍化したほか、建設業も+2.7万人(前月:+7.2万人)と伸びが鈍化した。

一方、政府部門は前月比▲9.9万人(前月:▲26.7万人)と前月から減少幅は縮小したものの、3ヵ月連続で減少となった。内訳をみると、州・地方政府が▲1.3万人(前月:▲12.5万人)となったほか、国政調査に伴う臨時雇用が▲9.3万人減少したことから連邦政府が▲8.6万人(前月:▲14.2万人)と大幅な減少となって全体を押し下げた。
前月(10月)と前々月(9月)の雇用増加数(改定値)は前月が+61.0万人(改定前:+63.8万人)と▲2.8万人下方修正された一方、前々月が+71.1万人(改定前:+67.2万人)と、こちらは+3.9万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+1.1万人の上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って12月2日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+30.7万人(前月改定値:+40.4万人、市場予想:+44.0万人)と+36.5万人から上方修正された前月、市場予想を下回った。11月のADP統計は前月から雇用の伸びが鈍化した雇用統計と整合的な動きとなった。
 
11月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が29.58ドル(前月:29.49ドル)となり、前月から+9セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.8時間(前月:34.8時間)とこちらは前月から横ばいとなった。この結果、週当たり賃金は1,029.38ドル(前月:1,026.25ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働力人口が減少

家計調査のうち、11月の労働力人口は前月対比で▲40.0万人(前月:+72.4万人)と前月から減少に転じた。内訳を見ると、失業者数が▲32.6万人(前月:▲151.9万人)と減少幅は縮小したものの前月に続いて減少したほか、就業者数も▲7.4万人(前月:+224.3万人)と減少に転じた。一方、非労働力人口は+56.0万人(前月:▲54.1万人)とこちらは前月から増加に転じた。

これらの結果、労働参加率は61.5%と前月から低下した(図表5)。また、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率も11月は80.9%(前月:81.2%)と前月から▲0.3%ポイント低下した。男女の内訳は、男性が87.4%(前月:87.9%)と▲0.5%ポイント、女性も74.5%(前月:74.6%)と▲0.1%ポイント前月から低下した。

このため、失業率は前月比▲0.2ポイント低下したものの、労働力人口の減少による影響が大きく、労働需給の改善を示していない(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
11月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は394.1万人(前月:355.6万人)と前月から+38.5万人の増加となった。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも36.9%(前月:32.5%)と前月から+4.4%ポイント増加し、13年12月(37.1%)以来の水準となった(図表7)。平均失業期間は23.2週(前月:21.2週)と前月から+2.0週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(208.3万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(666.0万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、11月が12.0%(前月:12.1%)と前月から▲0.1%ポイント低下した(図表8)。また、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+5.3%ポイント(前月:+5.2%ポイント)と前月から+0.1%ポイン拡大小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年12月07日「経済・金融フラッシュ」)

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