2020年12月17日

ふるさと納税の年末駆け込みと時間選好の関係

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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(3) 時間割引率と現在バイアスの計測
本調査では、一般的に用いられる選択形式による、近い将来に関する質問(質問1)と遠い将来に関する質問(質問2)の2つの質問項目(表1,表2)で、時間割引率と現在バイアスの値を計測した9。それぞれの質問において、選択した回答がAからBに移る直前の選択肢の割引率をその質問が示す時間割引率(1月当たり)としている。
表1.時間割引率の計測のための質問1(近い将来)
表2.時間割引率の計測のための質問2(遠い将来)
そして、本稿の分析で用いる、時間割引率の値は、質問1と質問2から示される時間割引率の平均値とした。また、現在バイアスは、質問Aで示される近い将来の時間割引率の値から質問Bで示される遠い将来の時間割引率を引いた値とした10
 
9 本調査では実際に回答によるお金の受け渡しは行っておらず、想定のもとの回答である。
10 例えば、質問1では1~3でA、4~7でBを選び、質問2では、1~2でA、3~7でBを選んだ回答者の場合を考える。質問1から導かれる近い将来の時間割引率は選択肢がBに代わる直前の3のものを用いるので0.143。質問2から導かれる時間割引率は0.067である。よって分析に使われる時間割引率は(0.143+0.067)/2で、0.105となる。また、現在バイアスの値は、0.143-0.067で、0.076である。
2| 時間割引率とふるさと納税寄付の関係
それでは、前節に説明した方法で求めた回答者の時間割引率とふるさと納税の寄付時期の関係はどうなっているのか、ふるさと納税を行った時期ごとに時間割引率の平均値を示したのが図3である。この図から、12月にふるさと納税を行った人の時間割引率は、11月までにふるさと納税を行った人に比べて大きいことが分かる。そして所得判明以外の理由で12月にふるさと納税を行った人を抽出すると、時間割引率はさらに大きい傾向がみられることが分かる。
図3. ふるさと納税寄付実施時期別時間割引率
3| 現在バイアスとふるさと納税寄付の関係
では、現在バイアスについてはどうだろうか。ふるさと納税を行った時期別の現在バイアスの値の平均値の分布は図4の通りである。この図から、12月にふるさと納税を行った人の時間割引率は、11月までにふるさと納税を行った人と違いは見られないが、所得判明以外の理由で12月にふるさと納税を行った人を抽出すると、それらの人の現在バイアスは大きい傾向があることが分かる。
図4.ふるさと納税寄付実施時期別現在バイアス
4| 時間選好とふるさと納税駆け込み傾向の関係の重回帰分析による確認
さらに、時間選好(時間割引率と現在バイアス)とふるさと納税の実施時期の関係を確認するために行ったプロビットによる推定結果が表3である。推定には、ふるさと納税を行った人のみが用いられており、被説明変数は所得判明以外の理由で12月に寄付を行った場合に1、それ以外の場合に0をとるダミー変数である。列(1)は、コントロール変数が無いモデルで、列(2)には、性別、年齢、職業、年収がコントロール変数としてモデルに含まれている。列(1)の推定でも列(2)の推定でも現在バイアスと時間割引率の係数は正に有意であり、現在バイアスの傾向が強いほど、また、時間割引率が大きいほど、12月にふるさと納税を行う傾向があることが確認された。
表3. プロビットによる推定結果
5| 時間割引率や現在バイアスの傾向が大きいとふるさと納税は12月に
ふるさと納税は、1月から12月までどの時期に行っても、翌年支払う住民税から控除されるという点において、行う時期によるメリットに違いはないと考えられる。そのため、時間割引率が大きい人は、ふるさと納税を行う手間を、大きな時間割引率で捉え、すぐに行うよりも、将来年末に行う手間の方が小さく感じる影響を受けて、12月に実施する傾向があると考えられる。(12月以降に実施すれば、翌年受けられるメリットは無くなってしまうので、12月には実施する)。また、現在バイアスが高い個人においては、もっと早めにやろうと計画していたが、実際にその時になると、ふるさと納税を行う手間を非常に大きく感じることで、つい先延ばしになっていき、最終的に12月に実施するという可能性も考えられる。いずれにしても、本アンケート調査の結果は、個々人の時間割引率や、現在バイアスの程度が、ふるさと納税を行うタイミングに影響を与えている可能性を支持する結果であると考えられる。
 

5――おわりに

5――おわりに

年末が近づくにつれ、やらなければならないことが増えていき、もっと早くいろいろ終らせておけばよかったと思われている人もいるのではないだろうか。現在バイアスや時間割引率の大きさによる先延ばしは、まずは自分が自分の傾向を理解することで、対策が立てられるようになると言われている。年の瀬を機に、これまでのご自分の行動を、時間選好の視点で振り返ってみるのも面白いのではと思うが、いかがだろうか。
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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

(2020年12月17日「基礎研レポート」)

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