2020年12月08日

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■要旨
 
  1. 「社会的価値の創出(=社会課題を解決すること)」と「組織スラック(=経営資源の余裕部分)への投資」は、アフターコロナを見据えた企業経営における「原理原則」になる、と考えたい。この原理原則の実践が、SDGsやESG経営の推進にもつながると考えられる。
     
  2. 企業の社会的責任や存在意義は、あらゆる事業活動を通じて社会的価値を創出することにこそあり、結果としてそれと引き換えに経済的リターンを獲得できると考えるべきであり、経済的リターンありきではなく、社会的ミッションを起点とする発想が求められる。このような「社会的ミッション起点の真のCSR 経営」は、多様なステークホルダーとの高い志の共有があってこそ実践できる。
     
  3. 米国の優れたハイテク企業が社会的ミッション起点のCSR経営を実践している一方、日本の大企業の多くは短期的な収益にとらわれがちな経営の短期志向に陥ってしまっているとみられる。ただし、コロナ禍の中で医療関連製品の増産要請に応えて、志の高い異業種企業が新規参入した動きが日本でも散見された。コロナ禍という緊急事態における支援活動にとどまらず、平時でも社会的ニーズに応えた志の高い企業行動が、日本企業の間で今後定着することを期待したい。特に中長期の社会的ミッションとして、気候変動対策に積極的に取り組むことが求められる。
     
  4. パンデミックや災害に備えたBCP対策を強化するためには、企業は短期的な効率性を犠牲にしてでも、「組織スラックを備えた経営」を実践することが求められる。組織スラックは平時ではムダに見えても、緊急事態に備えた中長期の投資と捉える視点を、企業と株主は共有すべきだ。
     
  5. 製造拠点でのBCP対策は、パンデミックと地域的に発生する自然災害とでは異なる点が多いとみられる。災害に対するBCPとしてはサプライチェーンの分散化が有効に機能する一方、パンデミックが世界の広範な地域で同時発生した場合は、そのような施策が機能しない可能性が高く、取り得る対策は棚卸資産を積み増すことくらいかもしれない。
     
  6. コロナ禍の中で多くの企業で導入された在宅勤務は、BCP対策であって働き方改革とは次元が異なる。働き方改革に向けた働く環境の多様化とBCP対策の強化を進めるには、イノベーション創出の場や企業文化の象徴としてのメインオフィスを中核に据えつつも、働く場の分散化・二重化が欠かせない。メインオフィスと在宅勤務だけでなく、ワーケーションを含めたサテライトオフィスやコワーキングスペースなどの選択肢も取り入れるべきだ。


■目次

1―はじめに
2―アフターコロナを見据えた企業経営のニューノーマルの原理原則
  1|原理原則(1):社会的価値の創出
  2|原理原則(2):組織スラックを備えた経営の実践
3―おわりに~コロナ禍を契機にショートターミズムとの決別を
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、オフィス戦略、AI・IOT・自動運転、スマートシティ、CSR・ESG経営

経歴
  • 【職歴】
     1985年 株式会社野村総合研究所入社
     1995年 野村アセットマネジメント株式会社出向
     1998年 ニッセイ基礎研究所入社 産業調査部
     2001年 社会研究部門
     2013年7月より現職
     ・明治大学経営学部 特別招聘教授(2014年度~2016年度)
     
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・(財)産業研究所・企業経営研究会委員(2007年)
     ・麗澤大学企業倫理研究センター・企業不動産研究会委員(2007年)
     ・国土交通省・合理的なCRE戦略の推進に関する研究会(CRE研究会) ワーキンググループ委員(2007年)
     ・公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会CREマネジメント研究部会委員(2013年~)

    【受賞】
     ・日経金融新聞(現・日経ヴェリタス)及びInstitutional Investor誌 アナリストランキング 素材産業部門 第1位
      (1994年発表)
     ・第1回 日本ファシリティマネジメント大賞 奨励賞受賞(単行本『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』)

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