コラム
2020年11月13日

20年を迎えた介護保険の再考(17)医療、年金との比較-費用抑制は国民との約束違反?

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任   三原 岳

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1――はじめに~医療、年金との比較~

加齢による要介護リスクをカバーするための社会保険制度として、介護保険制度が発足して4月で20年を迎えました。介護保険の論点や課題を考える連続コラムの第14~16回では、介護保険制度を多角的に考察するため、「地方分権の試金石」と呼ばれた制度創設時の経緯などにさかのぼりつつ、「小さな政府論」の影響を受けた点を取り上げました。

第17~第18回では、関連する諸制度との相違点や共通点に着目することで、介護保険制度を多面的に考察したいと思います。このうち、第17回では医療、年金との共通点や違いを考えることで、▽医療に比べれば財政をコントロールしやすい点、▽年金と同様、保険料の納付から給付に至るまでの期間が長期に渡る分、給付範囲の縮小という選択肢を取りにくい点――などを論じます。

2――子育てを含めて社会保障4経費として称されるが…

(筆者注:国は)高齢化への対応はもちろん、私たちの子ども・孫の世代や現役世代へのサポートを充実させ、全世代対応型の社会保障に転換を図ることとしています。そこで、社会保障に要する費用の主な財源となる消費税の充当先を現在の高齢者向けの3経費から子育てを含む社会保障4経費に広げることとしています――。民主党政権期から続いた社会保障・税一体改革を説明する厚生労働省のウエブサイトには、こんな説明が出ています1

ここで注目して頂きたいのは「高齢者向けの3経費」「子育てを含む社会保障4経費」という部分です。まず前者に関しては、消費税収のうち、国が受け取る部分については、1999年度予算から高齢者向け年金・医療・福祉に充当することが予算総則で定められていました。実際、社会保障制度改革を語る際、「年金、医療、介護」といった形で3つを一括りする表現を多く耳にします。

その後、こうした状況では給付が高齢者に偏るとして、2014年4月から段階的に引き上げられた消費税が子育て分野にも充てられることとなりました。これが「子育てを含む社会保障4経費」という部分です。

しかし、費用の負担構造や給付の内容などを見ると、3経費あるいは4経費については、違いが多くあります。ここでは主に「医療と介護」「年金と介護」の順で共通点や違いを論じて行きます。
 
1 厚生労働省ウエブサイト「社会保障改革」。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/kaikaku.html

3――医療と介護の比較

1|三角形になる共通点
まず、医療と介護の共通点を見ます。医療と介護を巡る関係者の構図は図1に集約できます。具体的には、サービスを受ける患者・利用者を含めた国民、医師や医療機関、介護事業所などの提供者、費用を支払う保険者(保険制度の運営者)の三角形が出来上がる点です。
図1:医療・介護制度を巡る関係者の構図
もう少し詳しく説明すると、国民は医療・介護サービスを利用する患者、利用者の立場だけでなく、税や保険料を納付する費用負担者、国や自治体の代表を選ぶ主権者としての側面も持っており、それぞれの立場は時に対立します。

例えば、患者や利用者の視点に立つと、「サービスは充実して欲しい」と考えがちです。

しかし、費用負担者の視点で考えると、負担は少ない方が良いため、サービスの充実に伴って税や保険料の負担が増えてしまうと、費用負担者の利益は損なわれます。

一方、費用抑制に力点を置き過ぎると、医師や介護職を確保できなくなったり、サービスへのアクセスが悪化したりして、医療・介護サービスを使う立場である患者、利用者の利益は充たされなくなります。つまり、サービスへのアクセスと費用抑制のバランスを取りつつ、関係図の中でサービスの水準や負担についてバランスを取る必要があるわけです。

一方、年金の場合、現金のやりくりにとどまるため、保険者である国と国民(被保険者、受給者)という2つの関係性だけで完結します。このため、年金と違って医療・介護の場合、サービスへのアクセス、サービスの質、従事者の確保など別の要因を加味する必要があります。

さらに、サービス提供者に支払われる報酬の水準や分配を巡り、業界団体(政治学の言葉で言うと、利益集団、圧力団体)や地方自治体などとの調整も欠かせないため、単に現金の帳尻だけ見れば良いわけではありません。ここに医療・介護制度の難しさ、それと同時に政策形成過程をウオッチする意味があると考えています。
2|給付される物の違い
しかし、厳密に言うと、医療と介護では給付される物が異なります。医療は現物給付、つまり医療機関で医療サービスを「療養の給付」として受け取る仕組みであるのに対し、介護は「介護サービス費の給付」、つまり被保険者に対して費用を給付する構造となっている違いがあります。これは介護保険制度を創設する際、第16回で述べた準市場の概念、つまり市場原理を部分的に採用したことが影響しています。

具体的には、利用者がサービス提供者と契約する市場取引を前提としつつ、民間企業の参画を促すなどの方法で介護保険サービスを制度化したため、サービス自体を現物給付するのではなく、サービス費を支給する形が最も適合的と判断されたとのことです2

ただ、実際の制度運用では、サービス提供者が保険者から代理で費用を受け取る「代理受領方式」が採用されており、被保険者に対して費用がダイレクトに給付されることは想定されていません。このため、医療と同様、実質的に現物給付になっています。
 
2 堤修三(2010)『介護保険の意味論』中央法規出版pp41-42。
図2:医療費伸びの要因分解 3|費用面の違い
さらに、費用面で医療と介護は大きく異なります。まず、医療費が増えている理由を見ると、図2の通り、高齢化の影響だけでなく、医療の高度化、つまり新薬開発など医療技術の発展が影響しやすい構造となっており、この現象は医療経済学で言う「医師需要誘発仮説」で説明できます。

具体的には、通常のサービスと異なり、医療サービスの場合、医師―患者の間で情報格差が大きいため、医師は供給制約の上限ギリギリまで必要な医療行為を実施しがちです。その結果として、新薬の開発など医療技術が発展すると、提供される医療の内容が高度になる分、医療費も増えやすくなる構造になっています(新薬が保険収載されないと保険給付の対象にならないため、新薬開発イコール医療費増加とはなりませんが)。

これに対し、介護は医療よりも労働集約であり、技術発展の影響が少ないと考えられます。さらに、利用者―介護職の間で情報格差も小さいため、医療に比べると需要誘発が起きにくい面があります。

このほか、費用の上限設定を巡る違いもあります。医療の場合、サービスの内容や上限などについて、事前に制限される場面はほとんどありません。一方、介護に関しては、第2回で指摘した通り、要介護度別に定められた区分支給限度基準額で上限が設定されています。こうした構造を踏まえると、医療と比べると、介護保険は一定程度、費用をコントロールしやすい構造を有していると言えます。
4|生活保護受給者の違い
意外と知られていないのが生活保護受給者の取り扱いを巡る違いです。医療保険の場合、生活保護受給者は国民健康保険の対象から外れ、医療サービスを使った場合、その自己負担は「医療扶助」として公費(税金)で支給されます。つまり、生活保護を受けると、国民全員を公的医療保険の網でカバーする「国民皆保険」の網から外れるのです。

これを表す統計として、厚生労働省が毎年公表している『国民健康保険事業年報』の「保険者別データ」という表があります。ここでは保険者ごとに被保険者が増減した人数と理由を示しており、被被保険者の数が減った要因の一つとして「生保開始」という項目が示されています。つまり、この項目では生活保護の受給が始まると、受給者が国民健康保険の被保険者資格を失うことを意味しています3。さらに、逆に被保険者が増えた要因として、「生保廃止」という項目も設定されており、これは生活保護の受給が廃止された結果、国民健康保険の加入者になった人数を意味しています。

要は「生保廃止」は生活保護から国民皆保険の網に加わった人の数字、「生保開始」は国民皆保険の網から外れた人の数を表しているわけです。

一方、介護保険では65歳以上の生活保護受給者も被保険者とし、保険料は生活扶助、サービスの自己負担は介護扶助から支給される仕組みとなっています。つまり、生活保護を受けても介護保険に留まる仕組みになっており、これは生活保護受給者を一個の独立した市民として扱うという趣旨が込められています4。要するに、生活保護受給に関する心理的な負い目、社会学で言う「スティグマ」(烙印)を感じさせないような工夫が講じられているわけです(ただし、40~64歳で生活保護を受けている人は医療保険と同じ扱いになります)。

こうした医療と介護の違いに関して、実は最近、興味深い資料が公表されました。財務省が今年10月の財政制度等審議会(財務相の諮問機関)で、生活保護受給者を国民健康保険などに加入させる制度改正を求めたのです5。確かに財務省の関心は生活保護予算の抑制にあり、「生活保護受給者の国民健康保険加入→都道府県、市町村による生活保護予算(医療扶助)への影響力強化→費用抑制」という経路を期待しているので、スティグマの問題を中心的に取り上げた文言ではありません。

それでも資料では「国民皆保険の考え方とも整合的となる」と付記しており、生活保護受給者が国民健康保険の網から外れることによるスティグマを指摘しているとも言えます。言い換えると、こうしたスティグマの問題に配慮したため、介護保険は制度創設時から医療保険と異なる対応を取っているわけです。
 
3 生活保護を受けた後、3カ月間経過しない世帯に属する者は被保険者の資格を失わず、国民健康保険と生活保護の併給が認められていたが、1963年度に廃止された。
4 堤前掲書pp90-91。
5 2020年10月8日財財政性等審議会財政制度分科会資料を参照。

4――年金と介護の比較

1|長期的な役割を内在している共通点
次に、年金と介護の比較を試みます。既に述べた通り、年金は国民(被保険者、受給者)と保険者である国との間の相互関係で完結するのに対し、介護は図1のように三角形になる違いがあります。

一方、共通点もあります、それは保険料を支払い始めた後、給付を受け取るまでのタイムラグが長い点です。例えば、年金の場合、「保険料を40年間納めたら、こういう計算式で支払う」という形で給付の権利性が保障されています。これを被保険者である国民の立場から見ると、「~の保険料を払えば、~の給付を受けられる」という期待感に基づき、保険料を支払っていることになります。

実際、国が「人口減少と高齢者人口の増加で給付が膨らんだため、給付をカットします」と言った場合、「聞いていないよ!」と思う国民は少なくないはずです。言わば長期に渡って支払われた保険料に対し、給付が権利として担保されているため、思い切って給付をカットしにくいわけです(それでも給付を実質的にカットする「マクロ経済スライド」が導入されましたが)。

この点については、介護保険でも同じです。社会保険方式と言っても、「保険」である以上、保険料の支払いは権利性を帯びた反対給付が前提になります。

少し具体的に説明します。最新の「介護保険事業状況報告(年報)」を見ると、2018年度現在で65歳以上の第1号被保険者は約3,525万人。これに対し、要介護認定者(要支援認定を含む)は約658万人なので、単純計算すれば要介護認定率(要支援、要介護を含む。以下は同じ)は18.7%になります。この状況で40歳以上の国民は「65歳以上になったら18%ぐらいの人が要介護状態になるかもしれない」という想定の下、そのリスクを社会全体でシェアするため、保険料を支払っていることになります。増してや、どんな年齢でも病気・ケガの場合は給付を受けられる医療保険と異なり、介護保険制度の第2号被保険者(40~64歳)は「特定疾病」と呼ばれる病気を除くと、反対給付をほとんど期待できません。

このため、やや砕けた表現で言えば、40歳以上の国民は「まだまだ元気だけど、65歳以上になると。18%ぐらいの人が要介護状態になるかもしれないので、お互い様の精神を持つ必要がある」という想定の下、介護保険料を払っているわけです。これが介護保険法第1条で定めた「国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け……」という部分になります。

あるいは明示的に「18%程度の要介護認定率」という想定を持っていなかったとしても、もし自分が65歳以上になった時、要介護認定率が5%程度に下がっていることを知れば、「約束違反だ!40歳から払っていた保険料を返せ!」と言いたくなるに違いありません。これが給付縮減シナリオを取りにくい根本的な理由と考えられます。

確かに第15回で述べた通り、介護保険は3年周期の計画で帳尻を合わせるようになっており、原則として1年単位でやり繰りする医療保険と同じ短期的な保険制度なのですが、実は年金と同様、長期的な約束を内在していると言えます。
2|給付縮減のシナリオは難しい?
以上のような構造は現在、介護保険の窮状を生み出しています。介護保険20年の足取りを振り返る(下)で述べた通り、介護保険財政は逼迫している上、人手不足も大きな制約条件となっています。中でも、財源の場合は赤字国債の発行で何とかカネを工面できても、ヘルパーを確保できない事態など、担い手となる人材を確保できなくなると、介護保険の大前提が崩れます。こうした中、中長期的に見ると、軽度者向け給付を中心に、給付範囲の縮減というシナリオが避けられない状況になっていると思います(人手不足の問題は後日、取り上げるつもりです)。

しかし、仮に要介護認定率を大幅に引き下げた場合、制度創設時から保険料を支払っていた人にとっては、掛け捨てとなる割合が大きくなり、国民やメディア、野党からの反発が避けられません。そこで、政府は実質的に要介護認定率の引き下げと同じ効果を持つ迂回的な制度改正を進めています。

例えば、第13回で述べた介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)です。これは軽度な要支援者向け給付のうち、訪問介護と通所介護を切り離して介護予防事業と統合するとともに、報酬や基準を緩和することで、住民主体など多様なサービスの担い手を参入させる仕組みです。実際、厚生労働省は総合事業について、「支援する側、される側という、画一的ではなく、要支援者なども積極的に参加し、自ら活躍できるようなサービスも展開していくことが可能」と説明しており、地域の支え合いを形成して行く意義を盛んに強調しています6

しかし、要支援者にとっては、訪問介護と通所介護の予防給付サービスが使えなくなるため、要支援者向け給付の一部を削減した側面があります。言い換えると、要介護認定率の実質的な引き下げになります。
 
6 2014年10月16日第187回国会会議録参議院厚生労働委員会における厚生労働省の三浦公嗣老健局長による答弁。
3|総合事業の弾力化を巡る議論
実際、総合事業に関しては、注目すべき一幕がありました7。厚生労働省は2021年4月施行の省令改正で、軽度の要支援者に限定している総合事業の対象を拡大し、要介護者も使えるようにする「弾力化」を企図しました。この点について、厚生労働省は「要介護の認定を受けると、それまで使っていた総合事業のサービスが途端に使えなくなってしまう」という自治体の声に踏まえたと説明していたのですが、利用者やメディアから「要介護者の保険給付外しの突破口」といった批判を受けました。

最終的に、総合事業を利用していた要支援者が要介護に移行したケースについて、本人が希望すれば弾力的な運用が認められることになったのですが、こうした反発が出ること自体、総合事業が「迂回的に給付を抑制する側面」を持っている証左と言えます。

その一方、介護保険の窮状を踏まえると、給付抑制のシナリオ、あるいは給付対象の重点化は避けられない情勢です。たとえ「約束違反」と批判されても、国民に対してキチンと窮状を説明しつつ、給付縮減の選択肢、あるいは負担増の必要性を見せて行く必要があると思います。
 
7 総合事業の弾力化については、2020年10月30日、9月25日『シルバー新報』、10月24日『介護のニュースサイトJoint』配信記事、10月14日『東京新聞』配信記事、8月21日『社会保険旬報』を参照。

5――おわりに

今回は介護保険制度を多角的に考えるため、医療、年金との対比を試みました。その際には総合事業の弾力化を巡る論議とか、生活保護制度の受給者を被保険者として組み込んでいる違いなどを紹介しました。第18回は障害者総合支援法と介護保険の違いを比較することで、保険料の納付開始年齢を巡る論議に焦点を当てます。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

(2020年11月13日「研究員の眼」)

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