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- オルタナティブデータで見る不動産市場(2020年11月)-正常化へ向けて改善の動きが見られる宿泊・消費動向
2020年11月05日
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1――はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大以降、オルタナティブデータへの関心が高まっている1。オルタナティブデータとは、経済統計や財務情報などこれまで伝統的に活用されてきたデータ以外の非伝統的なデータの総称である。オルタナティブデータによって、頻度の高いデータや粒度の細かいデータをタイムリーに取得できるため、「速報性・リアルタイム性の高い分析」や「これまで定量化されてこなかった定性的な情報を活用した分析」などが可能になる(図表 1)。特に、コロナ禍によって不確実性が高い現在の不動産市場においては、これまでの伝統的なデータとあわせて、オルタナティブデータの活用が期待される2。そこで本稿では、オルタナティブデータをもとに不動産市場の現状を確認したい。
1 辻中仁士 (2020) 「COVID-19でにわかに注目を集めるオルタナティブデータ ~オルタナティブデータで捉える経済(1)」『経済セミナー』、2020年9月号、pp.52-57、日本評論社
2 これまでの筆者によるオルタナティブデータを活用した不動産市場の分析は、以下のレポート参照。
- 佐久間誠 (2020)「オルタナティブデータで見るオフィス出社率の国別比較-日本は低い感染リスクを考慮してもオフィス出社率が高い」、不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2020年9月30日
- 佐久間誠 (2020)「オルタナティブデータで見る新型コロナウイルスと人の移動-各都道府県の新型コロナ感染リスクと流動人口の比較」、基礎研レポート、ニッセイ基礎研究所、2020年9月23日
- 佐久間誠 (2020)「オルタナティブデータから見たコロナ禍における宿泊業の現状-不動産市場分析におけるオルタナティブデータの応用可能性(1)」、不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2020年9月15日
2――Go To トラベルの恩恵もあり、回復の兆しを見せる宿泊動向
まず、内閣府が提供するV-RESAS3における観光予報プラットフォーム推進協議会のデータをもとに、宿泊者数の推移を宿泊者属性別に確認する(図表 2)。宿泊者数は、緊急事態宣言が発令された後の4月第2週には「全体」で前年同期比▲94%となり、全ての宿泊属性が同様の水準まで落ち込んだ。その後、5月25日に緊急事態宣言が全国で解除されると、少人数の旅行から順に改善に向かった。Go Toトラベルが開始された後の7月4連休は「夫婦・カップル」が、8月のお盆シーズンは「一人」が、そして9月の4連休には「家族」が大きく改善し、現在は宿泊需要の回復が幅広いセグメントに広まっている。
また、V-RESASにおけるヤフー・データソリューションのデータをもとに、検索サイトにおける「旅行・観光」に関する検索トレンド(検索数)を確認すると、10月以降に東京都をGo To トラベルキャンペーンの対象に加える方針が報じられた9月中旬から旅行に対する関心が急速に改善し、10月第3週は前年同期比+38%となった。
また、V-RESASにおけるヤフー・データソリューションのデータをもとに、検索サイトにおける「旅行・観光」に関する検索トレンド(検索数)を確認すると、10月以降に東京都をGo To トラベルキャンペーンの対象に加える方針が報じられた9月中旬から旅行に対する関心が急速に改善し、10月第3週は前年同期比+38%となった。
また、宿泊者数上位10都道府県5について、「県外からの宿泊者数」を見ると、2020年9月は、減少率が小さい順に、静岡県(前年同月比+8%)>神奈川県(同▲25%)>京都府(同▲27%)>愛知県(同▲43%)>福岡県(同▲56%)>北海道(同▲58%)>千葉県(同▲63%)>大阪府(同▲68%)>沖縄県(同▲72%)>東京都(同▲85%)、となった(図表 4)。静岡県における宿泊需要の回復は県外からの宿泊者が、神奈川県における回復は県内の宿泊者が、牽引したことがわかる。東京都がGo To トラベルに追加される10月以降は、特に東京都に近接した都道府県で、県外からの宿泊者数の回復が期待できそうだ。
3 V-RESASは、2020年6月に内閣府地方創生推進室と内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局が、コロナ禍の地域経済への影響を迅速かつ詳細に可視化するため、リリースしたオルタナティブデータのプラットフォーム。
4 宿泊旅行統計における2019年の宿泊者数の上位10都道府県
5 宿泊旅行統計における2019年の宿泊者数の上位10都道府県
3――コロナ禍における業態間の強弱に反動が見られ始めた消費動向
まず、同様にオルタナティブデータを活用した経済産業省が発表するMETI POS小売販売額指標をもとに、モノ消費の動向を主要テナント業態別に確認する(図表 5左図)。生活必需品を取り扱う「スーパー」は、買いだめ需要もあり、コロナ禍においても売上が堅調に推移している。また、「ドラッグストア」は都心店舗におけるインバウンド需要の消失もあり、一時的に売上が前年同期比マイナスに転じる時期もあったが、概ね前年から横ばいと、底堅く推移している。「コンビニ」は、在宅勤務の拡大により都心のオフィスエリアを中心に売上が減少したが、8月のお盆明け以降はオフィス回帰が徐々に進んだこともあり、改善傾向を見せている。「家電量販店」や「ホームセンター」は、巣ごもり消費の恩恵を受け、売上が増加した。ただし、2020年9月以降の前年比データは、2019年10月の消費増税による駆け込み需要とその反動減の影響があるため、大きく上下している。そこで、METI POS小売販売額指標そのものの推移を見ると、「家電量販店」と「ホームセンター」の売上の勢いが減衰していることが、最近の傾向として読み取れる(図表 5右図)。この背景には、特別定額給付金による押し上げ効果の剥落や在宅勤務に伴う需要が一巡したことが考えられる。このようにモノ消費では、「コンビニ」の売上が戻り始める一方、「家電量販店」と「ホームセンター」の売上が減少するなど、コロナ後の業態間の強弱に揺り戻しの動きが見られる。
(2020年11月05日「不動産投資レポート」)
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経歴
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
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