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- なぜ韓国の高齢者貧困率は高いのですか?
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Q1.韓国の高齢化率は将来日本より高くなりますか?
Q2.韓国の高齢者の貧困率は本当に40%を超えていますか?
Q3.なぜ韓国の高齢者貧困率は高いのですか?
今後、年金が給付面において成熟すると、高齢者の経済的状況は現在よりは良くなると思われますが、大きな改善を期待することは難しい状況です。なぜならば韓国政府が年金の持続可能性を高めるために所得代替率を引き下げる政策を実施しているからです。導入当時70%であった所得代替率は、2028年までに40%までに引き下がることが決まっています。所得代替率は40年間保険料を納め続けた被保険者を基準に設計されているので、非正規労働者の増加など雇用形態の多様化が進んでいる現状を考慮すると、多くの被保険者の所得代替率は、実際には政府が発表した基準を大きく下回ることになります。
また、国民年金の支給開始年齢は60歳から65歳に段階的に引き上げられることが決まっており、実際の退職年齢との間に差が生じることになります。韓国政府は長い間60歳定年を奨励していたものの、多くの労働者は50代半ばから後半で会社から押し出されていました。ようやく2013年に「定年60歳延長法」が国会で成立し、2016年から段階的に(2017年からは全ての事業所に)60歳定年が適用されることになりましたが、今後国民年金の支給開始年齢が65歳になると、また、所得が減少する期間が発生することになります(年金を60歳から受け取る繰上げ受給制度があるので所得の空白期間は発生しません)。
従って、今後高齢者の貧困を解決するためには、まずは国民年金の支給開始年齢と定年を同じ年齢にし、所得が減少する期間をなくす必要があると考えられます。一方、公的年金制度の持続可能性を高めるための対策が求められます。2003年に100兆ウォンを超えた国民年金基金の積立金は、2019年には737兆ウォンまで増加しており、2041年には1778兆ウォンまで増加することが予想されています。しかしながら、その後は年金を受給する高齢者が増加することにより積立金は減り続け、2060年になる前に積立金は枯渇すると見通されています。
公的年金が給付面において成熟していない韓国では、多くの高齢者が自分の子どもや親戚からの仕送りなど私的な所得移転に依存して生活を維持してきました。しかしながら過去と比べて子どもの数が減り、長期間に渡る景気低迷により若年層の就職も厳しくなっており、子どもから私的な所得移転を期待することは段々難しくなっています。韓国統計庁のデータを参考にすると、高齢者一人を支える現役世代の数は、1960年の20.5人から、2017年には5.3人まで急速に低下してきており、さらに2060年には1.0人になることが予想されています。つまり、今後は公的年金などの公的な所得移転にも家族や親戚からの私的な所得移転にも頼ることが難しく、自分の老後は自らが準備する必要性が高まっています。しかしながら、2015年の調査では、回答者の53.1%が老後の生活のために何も準備していないと答えています。韓国の高齢者の老後が心配されるところです。
1 老齢年金の受給率:65歳以上人口の中で少しでも老齢年金を受給している人の割合、保険料ではなく一般会計を財源とする基礎年金のみの受給者、障害年金や遺族年金の受給者を除外して計算。
※ その他ジェロントロジー関連のレポートはこちらからご確認下さい。
https://www.nli-research.co.jp/report_category/tag_category_id=15?site=nli
(2020年10月30日「ジェロントロジーレポート」)
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生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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