2020年10月12日

GoToトラベル・イートの利用意向

第2回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~政府の消費喚起策「GoToキャンペーン」、7月からトラベル、9月からイートが順次開始

新型コロナウイルスの感染拡大で需要が低迷した観光や外食などの需要喚起策として、政府が利用額の一部を負担する「GоTоキャンペーン事業」が開始された。GoTo事業は、(1)旅行が対象の「GoToトラベル」、(2)飲食が対象の「GoToイート」、(3)イベントが対象の「GoToイベント」、(4)地域の商店街での買い物が対象の「GoTo商店街」の4本の柱から成る。7月下旬からトラベルが、9月からイートが開始されており、10月中旬からはイベントや商店街での事業者の募集が始まる。

本稿では、9月末に、20~69歳の男女約2千名を対象に、ニッセイ基礎研究所が実施した「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査1」を用いて、GoToトラベルとイートの利用状況を確認する。
 
1 調査時期は2020年9月25~28日、調査対象は全国に住む20~69歳の男女、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用、有効回答2,066。

2――GoToトラベル・イートの利用状況

2――GoToトラベル・イートの利用状況~9月末の時点ではトラベルは15.2%、イートは1.4%

9月末の時点では、「利用した/予約済み」の割合は、GoToトラベルは15.2%、イートは1.4%にとどまる(図表1)。

これに「具体的に検討中」をあわせた『利用積極層』は、トラベルは21.3%、イートは9.4%であり、さらに「今後、検討予定」をあわせた『利用意向あり』層は、トラベルは47.2%、イートは50.8%を占める。つまり、どちらも現時点では、利用積極層は少数派だが、約半数の消費者には利用意向がある。
図表1 9月末のGoToトラベル・イートの利用状況(単一回答)

3――GoToトラベル・イートを利用していない理由

3――GoToトラベル・イートを利用していない理由~「感染がおさまっていない」、イートは「分かりにくい」も

GoToトラベルとイートを「利用した/予約済み」以外の回答者に対して、利用していない理由をたずねたところ、どちらも「国内の感染がまだおさまっていないため」(トラベル:42.8%、イート:31.1%)が最も多く、特にトラベルでは2位以下と大差をつけている(図表2)。
図表2 GoToトラベル・イートを利用していない理由(複数回答)GoToトラベル:n=1,752 GoToイート
トラベルでは、次いで「旅行・外食をする予定がないため」(25.8%)、「感染して健康状態が悪化する不安から、外出を控えているため」(25.1%)と続く。なお、当初、東京は、感染状況から、GoToトラベルの対象地域から除外されており、10月から対象となったが、「東京に住んでおり、対象者ではなかったため」(7.4%)や「行きたい先が東京であり、対象地域ではなかったため」(4.4%)は1割未満にとどまる。

つまり、9月末の時点では、GoToトラベルを利用していない理由は、感染の収束が見えずに不安があるために、そもそも旅行を計画していない、といった様子がうかがえる。

一方、イートを利用していない理由で2番目に多いのは「キャンペーンの内容が分かりにくいため」(23.5%)であり、「旅行・外食をする予定がないため」(21.8%)と続く。なお、「キャンペーンの内容が分かりにくいため」では、イートはトラベルの選択割合を大きく上回る(+9.5%pt)。つまり、イートでは「キャンペーンの分かりにくさ」も課題のようだ。

これは、キャンペーンの仕組みというよりも、内容の周知状況によるものだろう。なお、トラベルもイートも「キャンペーン自体を知らなかったため」は5%未満であり、どちらもキャンペーン自体の認知度は高い。

イートと比べてトラベルは、GoTo事業の中で最も早く始まったため、注目度が高かっただけでなく、開始した7月下旬は全国的に感染が再拡大した時期だ。事業開始に対する賛否も相まって、メディア等で取り上げられる機会も多く、消費者が事業の具体的な仕組みを知る機会も多かっただろう。一方で、イートは、トラベルと比べればメディア等で取り上げられる機会が少ない可能性がある。

なお、どちらも所管官庁(トラベルは国土交通省-観光庁、イートは農林水産省)、あるいは事業の運営委託先の専用サイトにて、対象事業者を検索でき、給付の仕組みも解説されている。

トラベルでは支払い時に旅行代金総額から最大35%に給付金が充てられ、自己負担は65%(上限1人1泊当たり2万円)となる。さらに、10月以降は、旅行代金の15%相当額の地域共通クーポンが配布され、土産物代や現地の飲食代などに使うことができる。

イートでは、各地の商工会や旅行代理店などが発行するプレミアム付き食事券を購入すると、購入金額に25%分が上乗せされた食事券を得ることができる(1回の購入当たり最大2万円分まで)。また、対象のオンライン飲食店予約サイト(農林水産省のHPに掲載)が取り扱う飲食店を利用時に、昼食代は最大500円分、夕食代は最大1,000円分のポイントが付与され、次回以降の飲食に利用することができる。
 

4――利用消極層はどうなれば利用するか

4――利用消極層はどうなれば利用するか~感染状況の改善、今より落ち着けばイートは4割が利用

現在の利用状況(図表1)で「今後、検討予定」と「利用(予約)するつもりはない」をあわせた『利用消極層』は、トラベルは78.7%、イートは90.6%である。
図表3 GoToトラベル・イートをどうなれば利用するか(単一回答)GoToトラベル:n=1,626 GoToイート この利用消極層に対して、今後、どのような状況になれば利用するかをたずねたところ、トラベルでは、「国内の感染状況が収束したら」(22.2%)や「国内の感染状況が落ち着いたら」(21.5%)、「居住地域の感染状況が今より落ち着いたら」(9.3%)をあわせた『感染状況の改善』が過半数(53.0%)を占める(図表3)。ただし、30.8%は、感染状況が収束せずとも、今より「落ち着いたら」利用意向がある。

イートでも『感染状況の改善』が過半数(59.7%)を占めるが、今より「落ち着いたら」利用意向がある層は40.0%であり、トラベルを大きく上回る(+9.2%pt)。飲食は、身近な場所で、短時間で楽しむことができるため、旅行と比べればコロナ禍でも利用しやすいということだろう。

一方で、感染状況等によらず「利用したいと思わない」という事業自体への関心が無い層は、トラベルでは利用消極層の31.0%、イートは26.7%を占める。
 

5――超消極層の特徴~

5――超消極層の特徴~世帯年収400万円未満が多いほか、何事にも反応の薄い層が多い

この「利用したいと思わない」と回答した『超消極層』の特徴を捉えるために、「GoToトラベルやイートをどうなれば利用するか」と、調査で得られた様々な属性との関係を見たところ、超消極層では低所得層のほか、何事にも反応の薄い態度を取る層が多い様子が見られた。

超消極層では、全体より世帯年収400万円未満が多い(図表4)。つまり、超消極層では、旅行や外食を楽しむ経済的余裕がないために「利用したいと思わない」という消費者が多いのだろう。一方で、「落ち着いたら利用したい」では、世帯年収800万円前後のやや高所得層が多い傾向がある。

また、調査ではコロナ禍の今後の見通しや生活不安についての複数の設問があるのだが、超消極層では、多くの設問で「どちらともいえない」や「該当しない」という反応の薄い態度を示す選択割合が高い傾向があった(図表略)。なお、必ずしも低所得層でこれらの回答が多いわけではない。

感染不安についても同様であり、超消極層では「どちらともいえない」が多い(図表5)。また、「不安ではない」も多いため、超消極層では、必ずしも感染不安がGoToトラベルやイート利用の障壁となっているわけではない。
図表4 「GoToトラベル・イートをどうなれば利用するか」と感染不安の強さの関係
図表5 「GoToトラベル・イートをどうなれば利用するか」と感染不安の強さの関係
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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