- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 不動産 >
- 不動産市場・不動産市況 >
- 新型コロナによるデジタル化がもたらしたオフィス市場の不確実性-テクノロジーはオフィスに創造的破壊と進化のいずれをもたらすか?
新型コロナによるデジタル化がもたらしたオフィス市場の不確実性-テクノロジーはオフィスに創造的破壊と進化のいずれをもたらすか?
基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.283]

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠
このレポートの関連カテゴリ
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1―新型コロナがオフィス市場にもたらしたデジタル化による不確実性
米マイクロソフトのサティア・ナデラCEOが「2年分のデジタル変革が2カ月で起きた」と述べたように、新型コロナが触媒となり、社会全体でデジタルシフトが加速した。テレワークも一気に普及が進んだ。そして、テレワークの拡大により、オフィスがいらなくなるとする「オフィス不要論」が、一部ではニューノーマルとして予想されている。
米国や英国の商業施設では、すでにテクノロジーによる創造的破壊が顕在化している。eコマースの拡大により多くの商業施設が閉鎖に追い込まれ、Amazon Effectと呼ばれている。テレワークの拡大により、オフィス市場にデジタル化による創造的破壊が顕在化する不確実性が高まっている。
ネットスケープ社を創業したマーク・アンドリーセン氏が2011年に“Why Software is Eating The World( ソフトウェアが世界を飲み込む理由)”と題したコラムで、次の10年で既存企業とテクノロジーを活用した新勢力の戦いが熾烈になると予想した。現在の、オフィスvs.テレワークの構図は、日本の不動産市場の本丸であるオフィスセクターにおいても、同様の戦いが始まることを思わせる。
2―テレワーク拡大により代わる仕事のポータル
それはさておき、テレワークは、オフィスの「仕事のポータル」としての役割を脅かす可能性を秘めている。ポータルとは大きな建物の玄関を意味し、インターネットブラウザを立ち上げたときに最初に表示するサイトをポータルサイトと呼ぶ。これまでオフィスワーカーは、まずオフィスに行くことを当然のこととしてきた(図表1)。オフィスで、パソコンで作業し、電話で取引先と連絡し、会議室で同僚と議論などしていた。一方、テレワークでは、まず向かうのがノートパソコンやタブレット、スマホのため、仕事のポータルはクラウドサービスなどのデジタル・プラットフォームが担うことになる。オフィスは、自宅やフレキシブルオフィスなどのサードプレイスと同様に、場所の選択肢の一つにすぎなくなる。
仕事のポータルの交代がオフィス市場に与える影響を現時点で推し量るのは困難である。可能性としては、オフィス賃料の下方圧力の増大や、住宅など他のセクターとの賃料格差の収束、リスクプレミアムの拡大などが考えられるが、今後注意深く見極める必要がある。
3―オフィスのスマート化がもたらす不動産業のサービス化
そうなれば、従来の賃貸借契約ではなく、コワーキングスペースなどで見られる利用契約とするケースが増える。また、「1人あたり面積」ではなく「利用量あたり料金」、そして「利用価値に対した対価」と、オフィスを捉える尺度が変化する可能性もある。
デジタル化の進行によりオフィスのサービス化が進み、オフィスはその利用を目的としたハードではなく、顧客に価値を届けるソフトになる。米ジェネラル・エレクトリックは、航空機エンジンのデジタル化によって、それまでのエンジンの売り切りと保守・管理によるハードを中心としたビジネスモデルから、最適なフライトパターンを提案するなどソリューションを提供することで対価を得るようなサービスを中心としたビジネスモデルに転換した。こうしたビジネスモデルのサービス化が不動産業においても起き得るのではないだろうか。
先にデジタル化の波が押し寄せた金融業では、米中のITプラットフォーマーが台頭しており、日本の不動産業界にもITプラットフォーマーが乗り込んでくる懸念は強い。その前に、日本の不動産会社はデジタル化を進め、自らの役割をプラットフォーマーして再定義し、デジタル化による脅威に対抗する必要がある。
しかし、米シェアオフィス大手WeWorkや印ホテルチェーン大手OYOが、現在岐路に立たされているように、不動産業でデジタル化を進めることは容易ではない。不動産はコピーペーストすることができず、規模を拡大するのに、コストも時間もかかる。不動産もデジタル化の波から逃れることはできないが、デジタル化の範囲や速度については慎重に見定める必要がある。また、この不動産の難しさにこそ、既存の不動産会社の勝機があると考える。
いずれにせよ、「フィジカル空間」である不動産と「デジタル空間」は、需要を食い合う代替関係にも、互いに需要を高めあう補完関係にもなり得る。今後もデジタル化という長期トレンドが続くことについては疑う余地がなく、いかにデジタル化の脅威もしくはチャンスと付き合っていくかは、不動産業の根幹を揺るがしかねない課題である。
参考文献
Porter, Michael E, and Heppelmann,James E(2014)”How Smart, onnected Products Are Transforming Competition”, HBR,November 2014, (邦訳4「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略), 有賀裕子訳, ダイヤモンド社『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』, 2015年4月号)
(2020年10月08日「基礎研マンスリー」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1778
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
佐久間 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/07 | ホテル市況は一段と明るさを増す。東京オフィス市場は回復基調強まる-不動産クォータリー・レビュー2024年第4四半期 | 佐久間 誠 | 基礎研マンスリー |
2025/02/26 | 成約事例で見る東京都心部のオフィス市場動向(2024年下期)-「オフィス拡張移転DI」の動向 | 佐久間 誠 | 不動産投資レポート |
2025/02/14 | Japan Real Estate Market Quarterly Review-Fourth Quarter 2024 | 佐久間 誠 | 不動産投資レポート |
2025/02/12 | ホテル市況は一段と明るさを増す。東京オフィス市場は回復基調強まる-不動産クォータリー・レビュー2024年第4四半期 | 佐久間 誠 | 不動産投資レポート |
新着記事
-
2025年03月21日
東南アジア経済の見通し~景気は堅調維持、米通商政策が下振れリスクに -
2025年03月21日
勤務間インターバル制度は日本に定着するのか?~労働時間の適正化と「働きたい人が働ける環境」のバランスを考える~ -
2025年03月21日
医療DXの現状 -
2025年03月21日
英国雇用関連統計(25年2月)-給与(中央値)伸び率は5.0%まで低下 -
2025年03月21日
宇宙天気現象に関するリスク-太陽フレアなどのピークに入っている今日この頃
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【新型コロナによるデジタル化がもたらしたオフィス市場の不確実性-テクノロジーはオフィスに創造的破壊と進化のいずれをもたらすか?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
新型コロナによるデジタル化がもたらしたオフィス市場の不確実性-テクノロジーはオフィスに創造的破壊と進化のいずれをもたらすか?のレポート Topへ