2020年10月08日

新型コロナによるデジタル化がもたらしたオフィス市場の不確実性-テクノロジーはオフィスに創造的破壊と進化のいずれをもたらすか?

基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.283]

金融研究部 准主任研究員   佐久間 誠

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1―新型コロナがオフィス市場にもたらしたデジタル化による不確実性

新型コロナウイルスのパンデミックは、世界がいかに不確実性に満ちているかを改めて示した。大きな不確実性が顕在化した後には、ニューノーマルが訪れる。新型コロナが長期的な構造変化をもたらすとされ、アフターコロナの世界が盛んに議論されるのはそのためだ。

米マイクロソフトのサティア・ナデラCEOが「2年分のデジタル変革が2カ月で起きた」と述べたように、新型コロナが触媒となり、社会全体でデジタルシフトが加速した。テレワークも一気に普及が進んだ。そして、テレワークの拡大により、オフィスがいらなくなるとする「オフィス不要論」が、一部ではニューノーマルとして予想されている。

米国や英国の商業施設では、すでにテクノロジーによる創造的破壊が顕在化している。eコマースの拡大により多くの商業施設が閉鎖に追い込まれ、Amazon Effectと呼ばれている。テレワークの拡大により、オフィス市場にデジタル化による創造的破壊が顕在化する不確実性が高まっている。

ネットスケープ社を創業したマーク・アンドリーセン氏が2011年に“Why Software is Eating The World( ソフトウェアが世界を飲み込む理由)”と題したコラムで、次の10年で既存企業とテクノロジーを活用した新勢力の戦いが熾烈になると予想した。現在の、オフィスvs.テレワークの構図は、日本の不動産市場の本丸であるオフィスセクターにおいても、同様の戦いが始まることを思わせる。

2―テレワーク拡大により代わる仕事のポータル

今後、テレワークが定着していくことについては、概ね意見が一致している。しかし、テレワーク拡大によるオフィス需要へのインパクトの大きさは、依然不透明である。企業が、現在の「7割経済」ではなく、長期的な競争をオフィスなしで勝ち抜けるかの検証はこれからだ。

それはさておき、テレワークは、オフィスの「仕事のポータル」としての役割を脅かす可能性を秘めている。ポータルとは大きな建物の玄関を意味し、インターネットブラウザを立ち上げたときに最初に表示するサイトをポータルサイトと呼ぶ。これまでオフィスワーカーは、まずオフィスに行くことを当然のこととしてきた(図表1)。オフィスで、パソコンで作業し、電話で取引先と連絡し、会議室で同僚と議論などしていた。一方、テレワークでは、まず向かうのがノートパソコンやタブレット、スマホのため、仕事のポータルはクラウドサービスなどのデジタル・プラットフォームが担うことになる。オフィスは、自宅やフレキシブルオフィスなどのサードプレイスと同様に、場所の選択肢の一つにすぎなくなる。

仕事のポータルの交代がオフィス市場に与える影響を現時点で推し量るのは困難である。可能性としては、オフィス賃料の下方圧力の増大や、住宅など他のセクターとの賃料格差の収束、リスクプレミアムの拡大などが考えられるが、今後注意深く見極める必要がある。
[図表1]Before vs Afterコロナにおける仕事のポータル

3―オフィスのスマート化がもたらす不動産業のサービス化

長期的な視野に立てば、デジタル化はオフィスにとって脅威だけでなくチャンスにもなり得る。不動産とテクノロジーは、互いに需要を高めあう補完関係にもなり得るからだ。オフィスというフィジカル空間にデジタル空間を取り込むことで仕事のプラットフォームとしての更なる進化を遂げ、また不動産会社が自らの役割をプラットフォーマーして再定義するきっかけになる可能性がある。

デジタル化の歴史を紐解くと、これまでデジタル技術の進歩は、デジタル空間の範囲やインターフェース(接点)を次々と変化させてきた。その変化に伴い、新しいプラットフォームが誕生し、IT業界の勢力図を塗り替えてきた[図表2]。
[図表2]デジタル技術の進歩とプラットフォーマーの誕生
現在、我々とデジタル空間をつなぐインターフェースはパソコンやスマホ、タブレットなどである。しかし、AIやIoT、5Gなどの技術進歩により、オフィスや街がスマート化することが可能になれば、インターフェースが手元のデジタル機器から不動産に代わる。手ぶらでも常時デジタル空間と繋がることが可能になり、フィジカル空間とデジタル空間を結びつける新たなプラットフォームが生まれることになる。

デジタル変革によりスマート化することで、オフィスは「(1)モニタリング、( 2)制
御、( 3)最適化、( 4)自律性」(Porter and Heppelmann, 2014)の機能を得ること
になる[図表3]。
[図表3]スマート化の進展により追加されるオフィスの機能
オフィスの利用状況のモニタリングが可能になれば、現在は自社所有もしくは賃貸が一般的なオフィスを、利用量に基づいた従量制とすることができる。また、オフィスにおける生産性を測定し、収益拡大やコスト削減に向けて最適化できるようになれば、成果に応じて賃料を支払うことも可能だ。つまり、オフィスのオペレーショナル・アセット化が進む。

そうなれば、従来の賃貸借契約ではなく、コワーキングスペースなどで見られる利用契約とするケースが増える。また、「1人あたり面積」ではなく「利用量あたり料金」、そして「利用価値に対した対価」と、オフィスを捉える尺度が変化する可能性もある。

デジタル化の進行によりオフィスのサービス化が進み、オフィスはその利用を目的としたハードではなく、顧客に価値を届けるソフトになる。米ジェネラル・エレクトリックは、航空機エンジンのデジタル化によって、それまでのエンジンの売り切りと保守・管理によるハードを中心としたビジネスモデルから、最適なフライトパターンを提案するなどソリューションを提供することで対価を得るようなサービスを中心としたビジネスモデルに転換した。こうしたビジネスモデルのサービス化が不動産業においても起き得るのではないだろうか。

先にデジタル化の波が押し寄せた金融業では、米中のITプラットフォーマーが台頭しており、日本の不動産業界にもITプラットフォーマーが乗り込んでくる懸念は強い。その前に、日本の不動産会社はデジタル化を進め、自らの役割をプラットフォーマーして再定義し、デジタル化による脅威に対抗する必要がある。

しかし、米シェアオフィス大手WeWorkや印ホテルチェーン大手OYOが、現在岐路に立たされているように、不動産業でデジタル化を進めることは容易ではない。不動産はコピーペーストすることができず、規模を拡大するのに、コストも時間もかかる。不動産もデジタル化の波から逃れることはできないが、デジタル化の範囲や速度については慎重に見定める必要がある。また、この不動産の難しさにこそ、既存の不動産会社の勝機があると考える。

いずれにせよ、「フィジカル空間」である不動産と「デジタル空間」は、需要を食い合う代替関係にも、互いに需要を高めあう補完関係にもなり得る。今後もデジタル化という長期トレンドが続くことについては疑う余地がなく、いかにデジタル化の脅威もしくはチャンスと付き合っていくかは、不動産業の根幹を揺るがしかねない課題である。

参考文献
Porter, Michael E, and Heppelmann,James E(2014)”How Smart, onnected Products Are Transforming Competition”, HBR,November 2014, (邦訳4「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略), 有賀裕子訳, ダイヤモンド社『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』, 2015年4月号)
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金融研究部   准主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

(2020年10月08日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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