2020年10月07日

成年後見制度って何?

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任   松澤 登

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Q1.私の親は認知症と診断されました。取引先の金融機関からは成年後見制度の後見人などを選任してほしいと言われましたが、成年後見制度とは何ですか。

■意思決定能力が不十分な人を第三者が代理したり、取り消したりすることを可能とする制度です。
­­­­­­­ジェロントロジーを学ぼう「認知症の人の意思決定支援はどうする?」で述べた通り、認知症の人の意思決定においては、可能な限り本人の意思が尊重されるべきです。金融機関との取引においても、本人が意思決定をするために家族や周囲の人が必要な支援・配慮をすることがまずは求められます。また、金融機関としても、日常資金の引き出しや目的のはっきりしている引き出し・送金(施設入居のための送金で送金先がはっきりしているような場合)には柔軟に対応することが求められます。

しかし、このような支援・配慮、柔軟な取り扱いを行ってもなお、やはり何らかの法的な対応が必要となるケースもあります。現実に本人の利益に大きな支障が生じている場合や、本人がまったく意思が表示できない場合などです。

たとえば金融機関から多額の引き出しを繰り返したり、カードや通帳を頻繁に紛失したりするなどの行動がみられるような場合が挙げられます。また、金融機関によっては、家族などが本人の代理として窓口に来店したときに、家族に代理するよう頼んだかどうかを本人に電話で確認することがあります。その際に、本人が全く回答できないようなケースでは、取引ができない場合があります。これらの場合に、金融機関から成年後見人の選任を勧められることがあります。

民法では、精神上の障害(「障害」の表記は民法に従っています) により、判断能力がない、あるいは判断能力が不十分な人の保護のため、これらの人の意思表示を、第三者が代わって行ったり、本人が行った意思表示を取り消せるようにしたりしています。この制度が成年後見制度です。成年後見制度には、具体的には、後見、保佐、補助という三つの制度があります。それぞれの制度内容について、具体的にはQ2をご覧ください。

なお、本人が有効な法律行為を行うために、第三者が関与する必要のある人のことを制限行為能力者といいます。

Q2.成年後見制度には、後見、保佐、補助があるとのことですが、どのような違いがあるのでしょう。

■判断能力の違いにより適用される制度が違います。
民法は、判断能力の程度により三つの制度を用意しています。判断能力を欠く程度により、後見、保佐、補助のうち、どの制度が適用されるか定まります。

判断能力を常に欠く人のためには後見、判断能力を著しく不十分な人には保佐、判断能力が不十分な人には補助という制度が適用されます。判断能力を欠く程度により、後見、保佐、補助のうち、いずれかの制度が適用されます。詳細は後述しますが、後見人は本人の代理・取消権限、保佐人・補助人は本人行為の同意・取消権限を持ちます。

後見と保佐・補助のイメージは図表1の通りです。
【図表1】後見と保佐・補助のイメージ
後見では、家族等からの申し立てに基づいて家庭裁判所が後見人を選任します。後見人は、本人に代わって意思表示を行います(=代理)。また、本人が行った、日常生活に必要な行為を除くすべての行為の取消をすることができます。逆に言えば、金融機関での日常資金の引き出しなどは後見人だけでなく本人も行うことができます。他方、多額の引き出しや送金は後見人が行い、仮に本人が行ったとすると後見人は取消すことができます。

保佐も同様に、家庭裁判所が保佐人を選任します。保佐人は元本の受領(たとえば定期預金の解約)、借金や遺産分割など民法第13条に定められている重要行為について、同意を行うこととされています。保佐人の同意がない行為は取消すことができます。保佐人に代理権は法律上、付与されてはいません。

保佐(次の補助も含む)では、原則として本人が金融機関での取引を行い、保佐人が同意することで取引は有効となります。日常資金の引き出しは本人が単独で行うことができます。

なお、家族等の申し立てに基づいて家庭裁判所が定めた行為については、保佐人は本人を代理することができます。

補助でも同様に家庭裁判所が補助人を選任します。補助人は民法第13条の定める重要行為のうち、家庭裁判所が定めた行為のみについて、同意を行います。補助人の同意のない行為は取消すことができます。また、保佐人と同様、申し立てに基づいて家庭裁判所の定めた行為については本人を代理することができます。(図表2)
【図表2】後見と保佐・補助の役割

Q3.後見人選任の手続きはどうすればよいでしょうか。また、後見人は、どのような仕事をするのでしょうか。

■後見人は家族等の申し立てにより家庭裁判所で選任されます。後見人の職務は財産管理事務と療養看護事務です。
後見人を選任するには、まず家庭裁判所に後見開始の審判の申し立てを行います。この申し立ては、本人、4親等以下の親族等の関係者が行うことができます(民法第7条)。家庭裁判所は、明らかに鑑定が不要な場合を除き、医師等による本人の鑑定を行います(家事事件手続法第119条)。鑑定の結果、支援を受けても契約等の意味・内容を理解し判断することができない状態であると判断される場合には、後見開始の審判が行われます。

家庭裁判所は後見開始の審判を行ったときは、後見人を選任します(民法第843条)。後見人は家族、または家族では後見が難しいような場合には専門職(弁護士など)を選任します。この際に、後見監督人を併せて選任することがあります(民法第849条)。実務的には本人の現預金などが1000万円を超える場合や、後見人が専門職の助言を必要とする場合などに選任されます。後見監督人はその名の通り、後見人を監督し、助言を行います。

後見開始の審判がなされると、後見人に審判書の謄本が送付されます。後見人に審判書が到着した後、2週間で審判は確定します。後見については法務局に登記され、後見人の立場を証明するものとして、法務局により登記事項証明書が発行されます。この証明書を金融機関に示すことで代理権があることを証明します。

後見人は本人の財産とお金の収支を把握し、管理します。具体的には、就任後一か月以内に、財産を調査し、財産目録を作成しなければなりません(民法第853条)。あわせて年間収支予定表(民法第861条)、およびこれらの参考となる資料を家庭裁判所に提出します。

後見人の仕事の原則は民法第858条に定められています。すなわち、「後見人は、被後見人(本人)の生活、療養看護および財産の管理に関する事務」を行います。ここで事務とは契約行為などを指し、食事や入浴介護などの事実行為は含まれません(図表3)。また、療養看護の事務も、病院や施設への入院・入所契約を結ぶことは事務に該当しますが、どのような治療を受けるか、特に手術への同意は後見人の権限ではありません。
【図表3】ここでの事務とは
そして、後見人がこれらの事務を行うにあたっては、本人の「意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」とされています。

本人は判断能力を常に欠く人ですが、その人の望むこと、およびその人の心身・生活への配慮を第一として後見事務を行わなければなりません。ただし、往々にして本人の意思と、後見人が考える本人への配慮が相反することがあります。その場合、どちらを優先するかは悩ましい問題です。英国では本人意思を優先すべきことが原則とされています。たとえば、本人が酒を飲みたいときに、後見人は飲酒が本人の利益にならないと考えていたとします。この場合、本人の健康に大きな障害が生じるような場合等を除き、本人の意思が原則として優先されることになります。

療養看護についても悩ましい問題があります。上記の通り手術をするかどうか、あるいはどのような治療するかといった、本人の身体や生命に関しての決定権限を後見人は持ちません。家族に権限があるというわけでもないので、現実には現場の医師が判断せざるを得ない状況も考えられます。この場合でも、あくまで本人の意思を尊重すべきであり、過去の意思表示や、現在、仮に判断能力があったとした場合に推定される本人意思、および本人をよく知る親族意向など総合的に判断して、本人意向と考えられるものに従って行うことになります。

本人の財産の管理権限に従って、後見人は財産管理を行いますが、投資商品など、リスクをとってまで資産運用を行うことは後見人の権限には含まれないとされています。

後見人は一年ごとに、後見の事務の状況を記載した後見等事務報告書と、被後見人の財産目録を家庭裁判所に提出します。また、被後見人の死亡により後見が終了した場合には、裁判所に死亡連絡をし、財産の清算をして相続人に引き継ぐべく財産を確定し、相続人に引き継ぎを行います。

Q4.後見人が本人の財産管理をすると聞きましたが、勝手に財産を流用されることはないのでしょうか。

後見人の事務は家庭裁判所が監督します。後見監督人が選任されている場合は後見監督人も監督します。
後見制度には、後見人等が本人の財産を自分のものにしたり、本人の不利になるような取引を行ったりすることを防止するための制度が組み込まれています。原則として家庭裁判所が後見人の監督を行います(民法第第863条)。また、本人の現預金が多いときなどでは、後見監督人が選任されます。この場合、後見監督人が後見人の事務を監督します(民法第851条、第863条)。そして、元本の領収・利用、借財、不動産の売買など民法13条に定める重要行為については、後見人は後見監督人の同意を得なければなりません(民法第864条)。なお、本人の居宅(施設に入居中であっても、将来済む可能性のある居宅含む)の売却は、家庭裁判所の許可なしには行うことはできません(後見監督人が同意するだけではできません)。(後見監督人の権限について図表4)

本人と後見人が共同相続人となった場合、たとえば夫死亡時に、本人が妻、後見人が子の場合には、両者の間で遺産分割を行う必要があります。このとき、後見人が自分の取り分を本人より多くするなど本人と後見人の利益相反行為が懸念されるため、後見監督人が本人の代理を行います(民法第860条)。

後見監督人が選任されていない場合は、家族などが家庭裁判所に申し立てて、特別代理人を選任してもらう必要があります(民法第860条、第826条)。
【図表4】後見監督人の業務と居宅売却にかかる家庭裁判所の許可
なお、後見人が選任されているときに、後見人が日常的に使える資金と、施設入居などに備える大きな資金を別に管理するために、信託銀行の後見制度支援信託や、銀行等の後見制度支援預貯金といった商品があります。このような商品は後見人の資金の使い込みを抑止するものですが、詳細は別稿で解説をします。

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https://www.nli-research.co.jp/report_category/tag_category_id=15?site=nli
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松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
一般法務、企業法務、保険法・保険業法

(2020年10月07日「ジェロントロジーレポート」)

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