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- コロナ禍のベンチャー投資への影響~継続するスタートアップの支援・育成
2020年09月09日
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1――はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大がベンチャー投資にも影響を及ぼしている。本稿では、ベンチャー投資の動向から、今後のスタートアップやイノベーションの動向を考えたい。
図表1は世界のベンチャー投資の金額の推移を示している。これを見ると、世界のベンチャー投資の金額の金額は2018年第三四半期には665億米ドルに達したが、その後は緩やかな減少が続き、2020年第一四半期には525億米ドルに減少している。直近2020年第二四半期には543億米ドルとやや増加した。
2018年以降の世界のベンチャー投資の金額の減少は、中国での資金調達の減少が影響している。中国でのスタートアップの資金調達は、アント・グループ(アリババグループ傘下の金融サービス会社)が大型の資金調達を行った2018年第二四半期の271億米ドルをピークに減少が続き、2020年第一四半期には53億米ドルまで減少している。
図表1は世界のベンチャー投資の金額の推移を示している。これを見ると、世界のベンチャー投資の金額の金額は2018年第三四半期には665億米ドルに達したが、その後は緩やかな減少が続き、2020年第一四半期には525億米ドルに減少している。直近2020年第二四半期には543億米ドルとやや増加した。
2018年以降の世界のベンチャー投資の金額の減少は、中国での資金調達の減少が影響している。中国でのスタートアップの資金調達は、アント・グループ(アリババグループ傘下の金融サービス会社)が大型の資金調達を行った2018年第二四半期の271億米ドルをピークに減少が続き、2020年第一四半期には53億米ドルまで減少している。
2――自動運転などのスタートアップが資金を調達
次に、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年上半期に、どのようなスタートアップがベンチャーキャピタルから資金を調達したのか見てみたい。図表2は2020年上半期の主要なスタートアップ資金調達案件を示している。
自動運転の開発を手がけるWaymo(ウェイモ)が30億米ドルの資金調達を行った。Waymo は2016年12月にGoogleの自動運転車開発部門が分社化して誕生した企業である(親会社はAlphabetでGoogleは兄弟会社)。同社は、自動運転の開発において世界でもトップレベルの技術を保有している。
自動運転を活用した新たな交通サービスの提供に向けて世界各国で様々な取り組みが行われている。このようなバス、鉄道、タクシー、航空機などの移動サービスを統合的に提供する交通サービスプラットフォームはMaas(Mobility As A Service マース)と呼ばれている。Maas関連市場は、将来的な成長性や市場規模が大きく注目されている。三菱総合研究所によれば、Maas関連市場の規模は2050年には900兆円に達すると予測されている1。
インドネシアでライドシェア事業を展開するGojek(ゴジェック)は12億米ドルの資金調達を行った。ライドシェアとは、乗用車の相乗りの需要をマッチングさせるサービスの総称である。同社が事業を展開するインドネシアは人口2.6億人(2018年時点)と東南アジア諸国連合(ASEAN)の約4割を占めており、将来的な市場成長が期待されている。Gojekは調達した資金で、スマートフォンを使った決済サービスを提供しているMokaを買収し、事業展開を加速させている。
自動運転の開発を手がけるWaymo(ウェイモ)が30億米ドルの資金調達を行った。Waymo は2016年12月にGoogleの自動運転車開発部門が分社化して誕生した企業である(親会社はAlphabetでGoogleは兄弟会社)。同社は、自動運転の開発において世界でもトップレベルの技術を保有している。
自動運転を活用した新たな交通サービスの提供に向けて世界各国で様々な取り組みが行われている。このようなバス、鉄道、タクシー、航空機などの移動サービスを統合的に提供する交通サービスプラットフォームはMaas(Mobility As A Service マース)と呼ばれている。Maas関連市場は、将来的な成長性や市場規模が大きく注目されている。三菱総合研究所によれば、Maas関連市場の規模は2050年には900兆円に達すると予測されている1。
インドネシアでライドシェア事業を展開するGojek(ゴジェック)は12億米ドルの資金調達を行った。ライドシェアとは、乗用車の相乗りの需要をマッチングさせるサービスの総称である。同社が事業を展開するインドネシアは人口2.6億人(2018年時点)と東南アジア諸国連合(ASEAN)の約4割を占めており、将来的な市場成長が期待されている。Gojekは調達した資金で、スマートフォンを使った決済サービスを提供しているMokaを買収し、事業展開を加速させている。
この他には、RobinhoodやImpossible Foodsといったスタートアップが資金調達を行っている。
Robinhoodはスマートフォンなどのアプリによる証券取引を提供しており、投資手数料無料のサービスを特徴としている。Robinhoodは金利収入、ブローカーから受け取るリベート、有料会員からの手数料などから収益を獲得している。日本において証券取引手数料が低下していく中、今後を考える上でRobinhoodのビジネスモデルが参考となるかもしれない。
Impossible Foodsは「代替肉」の製造・開発を行っている。代替肉とは、植物など他の素材を原料として豚肉や鶏肉といった食肉を再現した食品である。代替肉は、大豆など植物を原料にしたものや、牛や豚、鶏など動物の細胞を培養した培養肉などさまざまな種類がある。植物を原料とする代替肉は菜食主義や健康志向による需要がある。また、代替肉は従来の畜産業と比較して水の利用が少なく、CO2などの温室効果ガス排出も少ない等、環境に優しいと言われている。
このように、2020年上半期には自動運転やライドシェアなど将来的な成長余地の高いスタートアップやソフトウェア、インターネット関連などのスタートアップが資金を調達した。
1 三菱総合研究所 マンスリーレビュー2018年11月号 「MaaS市場900兆円への挑戦」
Robinhoodはスマートフォンなどのアプリによる証券取引を提供しており、投資手数料無料のサービスを特徴としている。Robinhoodは金利収入、ブローカーから受け取るリベート、有料会員からの手数料などから収益を獲得している。日本において証券取引手数料が低下していく中、今後を考える上でRobinhoodのビジネスモデルが参考となるかもしれない。
Impossible Foodsは「代替肉」の製造・開発を行っている。代替肉とは、植物など他の素材を原料として豚肉や鶏肉といった食肉を再現した食品である。代替肉は、大豆など植物を原料にしたものや、牛や豚、鶏など動物の細胞を培養した培養肉などさまざまな種類がある。植物を原料とする代替肉は菜食主義や健康志向による需要がある。また、代替肉は従来の畜産業と比較して水の利用が少なく、CO2などの温室効果ガス排出も少ない等、環境に優しいと言われている。
このように、2020年上半期には自動運転やライドシェアなど将来的な成長余地の高いスタートアップやソフトウェア、インターネット関連などのスタートアップが資金を調達した。
1 三菱総合研究所 マンスリーレビュー2018年11月号 「MaaS市場900兆円への挑戦」
3――コロナ禍でも継続するスタートアップへの投資
次に、コロナ禍の中で、どのような投資家がスタートアップに投資を行っているかを見ていきたい。図表3,4は2020年上期と2019年下期の投資家毎のベンチャー投資の金額と件数を示している。
各投資家の投資金額は、ソフトバンクグループが2019年下期の53億米ドルから2020年上期の35億米ドル、テンセントは47億米ドルから39億米ドルと大きく減少している。
ソフトバンク、アリババ、テンセントといった巨大テック企業は事業の成長などによって獲得した豊富な資金をスタートアップに投資している。こうした投資家はコロナ禍の中、スタートアップへの投資を減らしていることが分かる。
その一方で、セコイア・キャピタルの投資金額は2019年下期の63億米ドルから2020年上期の71億米ドル、アンドリーセン・ホロウィッツは31億米ドルから48億米ドルと増加している。これらの投資家は、コロナ禍の中でも継続して、スタートアップに投資を行っていることが分かる。
これらのベンチャーキャピタルは、過去、優れた投資実績を積み重ねている。セコイア・キャピタルは1972年に創業した老舗ベンチャーキャピタルである。同社は長期的な視点で、次世代の市場成長に投資することを哲学としている。
アンドリーセン・ホロウィッツは、起業に必要なコストの低下などにより、ベンチャーキャピタルは資金の豊富さだけでは差別化を図れなくなっていると主張している。このため、同社は資金面のみならず、人材採用、マーケティングなどスタートアップの成長に必要な様々な支援を行っている。
これらのベンチャーキャピタルは、コロナ禍の中でも投資を継続しており、スタートアップの支援・育成を継続的に行っていることが分かる。
コロナ禍により、世界の経済は低迷しているが、将来の成長に向けた投資を行う好機かもしれない。
過去、リーマンショックによって世界の経済が低迷する中で創業したAirbnb(2008年創業)やUber(2009年創業)といったスタートアップは、その後、ユニコーン企業へと成長を遂げた。現在、コロナ禍の中で行われた投資が将来のユニコーン企業の誕生につながるかもしれない。
各投資家の投資金額は、ソフトバンクグループが2019年下期の53億米ドルから2020年上期の35億米ドル、テンセントは47億米ドルから39億米ドルと大きく減少している。
ソフトバンク、アリババ、テンセントといった巨大テック企業は事業の成長などによって獲得した豊富な資金をスタートアップに投資している。こうした投資家はコロナ禍の中、スタートアップへの投資を減らしていることが分かる。
その一方で、セコイア・キャピタルの投資金額は2019年下期の63億米ドルから2020年上期の71億米ドル、アンドリーセン・ホロウィッツは31億米ドルから48億米ドルと増加している。これらの投資家は、コロナ禍の中でも継続して、スタートアップに投資を行っていることが分かる。
これらのベンチャーキャピタルは、過去、優れた投資実績を積み重ねている。セコイア・キャピタルは1972年に創業した老舗ベンチャーキャピタルである。同社は長期的な視点で、次世代の市場成長に投資することを哲学としている。
アンドリーセン・ホロウィッツは、起業に必要なコストの低下などにより、ベンチャーキャピタルは資金の豊富さだけでは差別化を図れなくなっていると主張している。このため、同社は資金面のみならず、人材採用、マーケティングなどスタートアップの成長に必要な様々な支援を行っている。
これらのベンチャーキャピタルは、コロナ禍の中でも投資を継続しており、スタートアップの支援・育成を継続的に行っていることが分かる。
コロナ禍により、世界の経済は低迷しているが、将来の成長に向けた投資を行う好機かもしれない。
過去、リーマンショックによって世界の経済が低迷する中で創業したAirbnb(2008年創業)やUber(2009年創業)といったスタートアップは、その後、ユニコーン企業へと成長を遂げた。現在、コロナ禍の中で行われた投資が将来のユニコーン企業の誕生につながるかもしれない。
4――まとめ
本稿では、新型コロナウイルスが流行する中でのベンチャー投資の動向を調べた。コロナ禍の影響などにより、2020年上半期のベンチャー投資の金額はやや減少した。しかし、自動運転、ライドシェアなど将来有望なスタートアップは資金調達に成功している。また、セコイア・キャピタルなど長期的な視点で投資を行うベンチャーキャピタルはコロナ禍の中でも投資を継続しており、スタートアップの支援・育成を継続的に行っていることが分かる。
コロナ禍により、世界経済は混乱が続いているが、その中で行われた投資が将来のユニコーン企業の誕生につながるかもしれない。今後のベンチャー投資やイノベーションの動向に注目したい。
コロナ禍により、世界経済は混乱が続いているが、その中で行われた投資が将来のユニコーン企業の誕生につながるかもしれない。今後のベンチャー投資やイノベーションの動向に注目したい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年09月09日「基礎研レター」)
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経歴
- 【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)
【加入団体等】
・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
・修士(工学)
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