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ワーケーションが創出する観光需要-観光業・企業・地方自治体にとっての魅力を考える
佐久間 誠
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1――ワーケーションに期待される効果
ワーケーションにより旅行先でテレワークするという新たな観光需要を創出できれば、コロナ禍の影響を緩和できるのでは、との期待がある。また、ワーケーションは、観光業や企業、地方自治体が、コロナ以前から抱える課題を解決する手段の1つとして期待されている。
1 佐久間(2020a)「Go To Travelによるワーケーションのすすめ-感染防止と両立したウィズ/アフターコロナの働き方を体験する旅を」、研究員の眼、ニッセイ基礎研究所、2020年7月14日
2 佐久間(2020b)「ワーケーションが秘める多様な可能性-非日常な場所でのテレワークとしてのワーケーションを考える」、研究員の眼、ニッセイ基礎研究所、2020年8月28日
2――観光業には観光戦略の多様化としての期待
3 日本交通公社(2019)
3――企業には働き方改革としての期待
一方、エクスペディアの「有給休暇・国際比較調査2019」4によれば、日本の有給取得率は50%と、調査対象の19カ国で最下位である(図表 5)。また、日本人が年休を取得しない理由の1位は「緊急時のためにとっておく」だが、2位は「人手不足」、3位は「仕事する気がないと思われたくない」とあるように、仕事の多忙や同僚への気兼ねが休暇取得を妨げている原因となっている。
JTB総合研究所のアンケート調査によれば、「プライベートで行った先でする仕事が会社から業務として認められれば、もっと休暇が取りやすくなる」と回答した人の割合は20代が38.1%と高く、若い世代ほどワーケーションにより、年休消化や長期休暇の取得が促進されることが期待される。
ワーケーションによる年休取得は、法令順守の観点だけではなく、従業員の健康を重視する健康経営にもつながりそうだ。また、従業員の創造性や発想力、生産性を高める、自由で自律的な働き方を従業員に提供することで人材確保・定着に向けた企業の魅力向上を図るといった効果も期待される。2019年7月にワーケーションを導入したユニリーバ・ジャパンでは、地方自治体と連携して、ワーケーションを通して地域課題解決に協力するなど、CSR推進の手段に位置付けている。
新しい概念であるワーケーションの効果に関する検証は少ないが5、6月から実施されたNTTデータ経営研究所、JTB、日本航空の実証実験6が参考になる。これによれば、ワーケーションは、会社への愛着や帰属意識を高めたとしている。また、ワーケーション実施中は仕事のパフォーマンスを20.7%高め、仕事のストレスを37.3%低減、そして、それらの効果がワーケーション終了後も5日間持続したとしている7。
4 エクスペディア(2020)
5 田中・石山(2020a)
6 NTTデータ経営研究所・JTB・日本航空(2020)
7 ワーケーションは公私の区別を曖昧にするリスクを伴うが、実証実験ではワーケーションを通じて、逆に公私を分離する志向が高まったとしている。今後、ワーケーションへの取り組みが増えれば、想定しなかったメリットやデメリットが顕在化する可能性がある。
4――地方自治体には地方創生としての期待
セールスフォース・ドットコムは2015年10月に、和歌山県白浜町にサテライトオフィスを開設した。同社は社会貢献を一つのミッションに掲げ、「従業員はそれぞれの就業時間の1%を社会貢献活動に費やす」とし、白浜町の活性化にも一役を買っている8。
和歌山県は2017年からワーケーションを推進している。同県ではワーケーション拡大のためプロジェクトチームをつくり、ワーケーションを行う企業や個人をサポートしている9。2017年度から2019年度の3年間で104社910名が和歌山県でワーケーションを体験した。
ワーケーションに取り組む自治体は、全国に広がりつつある。2019年11月に和歌山県と長野県が中心となり、「ワーケーション自治体協議体」を設立し、1道11県87市町村の計99自治体が参加している(2020年8月13日時点)。
8 F.I.N.(2018)
9 天野(2019)
5――おわりに
ワーケーションを導入する企業は、労働時間や経費、労災の適用範囲など労務管理制度の再構築が求められる。また、情報セキュリティは、在宅勤務以上の対策が必要になるだろう。ワーケーション制度を導入しても、形骸化させずに有効活用するためには、制度というハードだけでなく、会社文化や職場の雰囲気などのソフトもアップデートすることが求められる。
また、ワーケーションを受け入れる民間事業者や地方自治体においても、Wi-Fiなどのネット環境に加えて、シェアオフィスやミーティングルームなど快適な執務環境を整備する必要があろう。ワーケーションの魅力には、豊かな自然などの非日常な場所だけでなく、現地の人々との交流や様々なアクティビティなど非日常な時間が大切である。そうしたなかで生まれるひらめきやアイデアこそが、旅行の魅力であり、イノベーションの糧となるものだと考える。ヒトやコトなどソフトの魅力を高めていくことが、他の観光地との差別化につながるのではないだろうか。
これまでは、仕事とプライベートを切り分けて考えるワーク・ライフ・バランスが重視されてきた。しかし、コロナ禍により多くの企業で在宅勤務を迫られたことで、仕事の合間に家事をするなど、仕事と日々のプライベートな生活の境界線が曖昧となった。ワーケーションは、休暇という非日常な生活と仕事を統合し、ワーク・ライフ・インテグレーションをさらに進めることになる。ワーケーションの拡大で、働き方の多様化がどのように進展していくのか、今後の動向に注目される。
参考文献
- 天野宏(2019), 「インタビュー:新たなマーケットへの対応と展望~施設と地域、それぞれの取り組み例~-地域における取り組み例」『観光文化』、242号、pp.35-39、公益財団法人日本交通公社
- エクスペディア(2020)「世界19ヶ国 有給休暇・国際比較調査2019も発表 日本人は世界で一番「短い休暇」が好き おススメの旅行スタイルは「ステイケーション」」、<https://welove.expedia.co.jp/press/50236/ >2020年8月20日参照
- NTTデータ経営研究所・JTB・日本航空(2020)「ワーケーションは従業員の生産性と心身の健康の向上に寄与するワーケーションの効果検証を目的とした実証実験を実施」、< https://www.nttdata-strategy.com/newsrelease/200727.html>2020年8月20日参照
- 佐久間誠(2020a)「Go To Travelによるワーケーションのすすめ-感染防止と両立したウィズ/アフターコロナの働き方を体験する旅を」、研究員の眼、ニッセイ基礎研究所、2020年7月14日< https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64930?site=nli>
- 佐久間(2020b)「ワーケーションが秘める多様な可能性-非日常な場所でのテレワークとしてのワーケーションを考える」、研究員の眼、ニッセイ基礎研究所、2020年8月28日< https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=65261?site=nli>
- JTB総合研究所(2019)「進化し領域を拡大する日本人の国内旅行(2019)」、<https://press.jtbcorp.jp/jp/2019/09/20190925-sokenkokunairyokou.html >2020年8月20日参照
- 武田敏則(2019)「夏休みの旅先で仕事OK 日本航空がワーケーションを拡充する理由」、日経BizGate、<https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO4714429009072019000000>2020年8月20日参照
- 田中敦・石山恒貴(2020a)「日本型ワーケーションの効果と課題(前編)」『TRAVEL JOURNAL』、2020年5月4-11日号、pp.24-29
- 田中敦・石山恒貴(2020b)「日本型ワーケーションの効果と課題(後編)」『TRAVEL JOURNAL』、2020年6月8日号、pp.24-27
- 日本交通公社(2019)「旅行年報2019」、公益財団法人日本交通公社
- F.I.N.(2018)「第2回 ワーケーション拠点としての未来」<https://fin.miraiteiban.jp/ワーケーション拠点としての未来/>2020年8月20日参照
(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
(2020年09月04日「基礎研レポート」)
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