2020年09月03日

コロナ危機で浮かぶユーロ-国際通貨として役割は拡大するのか?-

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■要旨
 
  • コロナ不況下でユーロ高が進んでいる。世界金融危機後も一時ユーロ高に振れる場面があったが、その後、ユーロ圏で債務危機が拡大、ユーロの信認問題に発展したことで、ユーロ安基調に転じ、ユーロの国際通貨としての役割も縮小した。
     
  • 国際通貨としてのユーロのプレゼンスには浮き沈みがあったが、国際通貨体制におけるユーロは「第2の国際通貨」としての地位を保ち続けてきた。基軸通貨としてすべての要件を満たし、ネットワーク外部性が働くドルと、第二の国際通貨ユーロとの差は大きいが、ユーロと円の間には主に経済規模、ユーロと人民元では、主に資本取引の自由度の違いからくる国際通貨としての役割の大きな差がある。
     
  • 2018年以降、EU、ECBは、ユーロの国際化により積極的な姿勢をとるようになっている。国際通貨としての役割を高めることによって、金融政策面では、自律性の向上や国際的な波及による好影響、為替の急変動による国内物価への影響の低下などのベネフィットが得られる。金融政策外では、米国の金融制裁や、英国のEU離脱に象徴される第3国の一方的な決定の影響を軽減するベネフィットが、コストを上回ると判断されるようになった。
     
  • コロナ危機は、ユーロ国際化推進の方針を後押しすることになるだろう。7月に合意した復興基金は、ユーロの欠点の1つである安全資産の不足を改善する効果もあり、ユーロの信認にとってプラスとなる。
     
  • 米中対立が先鋭化し、米国が、ドルの圧倒的な優位性を活用する金融制裁を拡大するリスクが高まっている。米国の金融制裁にはドル離れを促し、中国に人民元の国際化を加速させる効果がある。中国の経済規模と国際通貨・人民元の役割とのギャップとユーロと人民元の国際通貨としての差の縮小につながる可能性がある。
     
  • ユーロの国際的地位の低下という趨勢的なトレンドを反転させるには、経済通貨同盟(EMU)の完成に向けた取り組みを加速させ、許容できる範囲に格差を抑えながら「グリーン・リカバリー」を実現することが必要だ。危機意識がユーロをより強い通貨に変えるのか、今後の展開を注視して行きたい。

■目次

1――はじめに
2――ユーロの国際通貨体制における位置づけ
  1|ユーロ導入からの軌跡
  2|主要通貨との比較で見たユーロの特徴
3――国際通貨としてのユーロの強みと弱み
  1|国際通貨としての地位を決める要因
  2|ユーロの地位向上を阻む要因
4――ユーロの国際化戦略
  1|中立姿勢から積極姿勢へ
  2|コストとベネフィットの変化
5――コロナ危機とユーロ
  1|コストとベネフィットへの影響
  2|復興基金の意義
  3|先鋭化する米中対立の影響
6――おわりに

(2020年09月03日「基礎研レポート」)

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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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