2020年04月21日

欧州のコロナ危機-手探りの制限緩和、試される連帯-

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■要旨
  1. 新型コロナの感染の増加の勢いが鈍り始めたことを受けて、欧州諸国が、3月に導入した厳しい外出制限の条件付き、部分的に緩和に動き出している。
     
  2. 制限の緩和は、制限強化に比べると遙かに緩やかなペースとなる。経済活動の本格的再開が遅れれば、企業や家計を支える対策の規模は拡大し、危機以前の経済活動への回帰も難しくなる。財政基盤が脆弱な国で債務危機が再燃する潜在的なリスクがある。
     
  3. コロナ危機対応では国際的な協調が鍵となるが、世界金融危機時と比べて国際協調の動きは鈍い。低所得国の対外債務の返済猶予で合意は数少ない成果だ。
     
  4. EU、ユーロ圏の初動も、協調あるいは連帯の不足が目立ったが、ここ1カ月ほどで、若干軌道修正された。ECBは、柔軟な条件による長期資金供給や資産買入れを通じて、金融市場と国債市場の緊張緩和、債務危機の阻止に動いている。政府も4月9日のユーログループでなんとか総額5400億ユーロの対策で合意した。4月23日に予定されるEU首脳会議で、経済の再起動のための「復興基金」に関わるEU中期予算枠組みで合意に近づけば、連帯の不足の軌道修正が進む、良いシグナルとなる。
     
  5. EUの連帯が試される場面は続く。欧州は、手探りでより緩い制限による拡大抑制と経済活動の再開の両立を目指す段階に進もうとしている。さらに、経済復興の段階に至るまで、息の長い取り組みと、多額の資金が必要となる。財政、金融システム危機に発展するリスクは常にあり、各段階に応じた、機動的で柔軟かつ大胆な政策対応が必要だ。
EU・ユーロ圏のコロナ危機対応の規模(対GDP比%)
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

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