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中国経済の見通し-20年下半期はさらに成長加速、落ち込んでいた観光・文化娯楽の再開が牽引役

三尾 幸吉郎
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1.中国経済の概況

産業別に内訳を見ると(図表-1)、生産活動を再開した製造業は1-3月期の前年比10.2%減から同4.4%増へ、建築業も同17.5%減から同7.8%増へと、第2次産業は成長の勢いを取り戻した。一方、第3次産業は二極化の様相を呈している。新型コロナ禍対策として実施された外出規制が直撃した宿泊飲食業は1-3月期の前年比35.3%減に続き4-6月期も同18.0%減と大幅なマイナス成長が続いたが、卸小売業は同17.8%減から同1.2%増へ、交通運輸倉庫郵便業は同14.0%減から同1.7%増へ、小幅ながらもプラス成長に転じた。他方、新型コロナ禍がもたらした非接触型への行動変容が追い風となった情報通信・ソフトウェア・ITは1-3月期の同13.2%増に続いて4-6月期も同15.7%増と高成長が持続し、中小零細企業の支援に奔走した金融業も1-3月期の同6.0%増に続き4-6月期も同7.2%増とプラス成長を維持した。
また、インフレ動向をみると、消費者物価はアフリカ豚熱(ASF)の影響で20年1月には前年比5.4%まで上昇率を高め、その後も長江や淮河流域の洪水被害で食品価格が高止まりしたが、新型コロナ禍による需要減を背景に交通通信、居住、衣類などは下落、7月の消費者物価は食品・エネルギーを除くコア部分で同0.5%上昇、全体でも同2.7%上昇と低位に留まっている(図表-3)。
2.需要動向
また、新型コロナ禍が与えた打撃が大きかったことから、1-6月期の可処分所得は名目で前年比2.4%増(実質同1.3%減)と落ち込み、失業率は高止まり、消費者信頼感指数も低下している(図表-6)。さらに、習近平国家主席が8月11日に飲食の浪費行為を阻止するため“ぜいたく禁止令”を打ち出したことも、個人消費を抑制する要因となりそうである。
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。

また、投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると(図表-7)、20年1-2月期に前年比24.5%減と19年通期の同5.4%増から大幅な前年割れになったあと、3月には同0.2%増(推定)と前年水準を上回り、6月には同13.1%増(推定)と2桁の伸びを示し、7月には同7.2%増(推定)と伸びがやや鈍化した。内訳を見ると、3大セクターでは不動産開発とインフラ投資が牽引した一方、製造業の投資は勢いが鈍い(図表-8)。また、国有・民間では、国有企業が力強い伸びを示した一方、民間企業は1桁台前半の伸びに留まっている(図表-9)。したがって、ここもとの投資回復は中国政府の意向を受けた国有企業が中心となって、不動産開発やインフラ投資を増やした結果だと見られる。
3.財政金融政策

中国では新型コロナ禍で延期されていた第13期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)第3回会議が5月22日~28日に開催された。その冒頭で李克強総理は政府活動報告を行い、新型コロナ禍で「不確実性が非常に高い」ことを理由に経済成長率の年間目標の提示を見送り、図表-12に示したような目標を掲げて20年の経済運営に取り組むこととなった。
また、財政政策に関しては、「積極的な財政政策はより積極的かつ効果的なものにする必要がある。今年の財政赤字の対GDP 比は3.6%以上とし、財政赤字の規模は前年度比1兆元増とするほか、感染症対策特別国債を1 兆元発行する」としたのに加えて、「今年は地方特別債を昨年より1 兆6000 億元増やして3 兆7500 億元」とするとし、20年の財政出動は19年よりも3兆6千億元(日本円換算約54兆円)拡大することとなった。
他方、金融政策に関しては、「穏健な金融政策はより柔軟かつ適度なものにする必要がある。預金準備率と金利の引き下げ、再貸付などの手段を総合的に活用し、通貨供給量(M2)・社会融資総量(企業や個人の資金調達総額)の伸び率が前年度の水準を明らかに上回るよう促す」とした。

但し、経済の持ち直しを背景に 8月6日付の貨幣政策執行報告では、通貨供給量(M2)と社会融資総量残高の伸びに関して「合理的増加」という表現を用いた。20年下半期の金融政策はこれまでの“じゃぶじゃぶの緩和”をやや引き締める方向に軌道修正されるだろう(図表-13)。
4.今後の見通し

新型コロナ禍の大打撃を受けた中国では、20年の財政出動を19年よりも3兆6千億元上乗せし、公共衛生インフラの建設や老朽化した集合住宅の改良工事を本格化するのに加えて、“新型インフラ”の建設に財政資金を投じ、次世代情報ネットワークを発展させてデータセンターの構築や新エネルギー車の普及を後押しし、新型コロナ後の経済発展を支える礎を築こうとしている。そして、上海市が23年までに2700億元、重慶市が22年までに3983億元、深圳市が25年までに4119億元の行動計画を打ち出すなど各の政府も動き出しており、経済成長の牽引役となりそうだ。また、中国では1日当たり484万人分のPCR検査体制を整えた上で、7月には医療従事者らを対象にワクチン緊急投与を開始し、行政区(省、直轄市、自治区)を跨る国内団体観光ツアー催行を再開したり、9-10月に“消費促進月”を設定したりして、経済活動をさらに正常化させる方向だ。周知のとおり新型コロナ禍の“第2波”を恐れる中国政府は、消毒などの防疫措置を維持しつつ、通行証明書となる”健康コード”を活用した管理手法を導入、社会的距離(ソーシャル・ディスタンシング)を堅持する方針であるため、回復ペースは決して速くはないだろう。しかし、世界的大流行(パンデミック)が収まらない中では海外旅行から国内旅行に切り替える人が増えると見込めるため、観光や文化娯楽はゆっくりとだが着実に回復に向かうと見ている(図表-15)。したがって、20年下半期は4-6月期よりも加速して前年比5%台と予想している。
一方、21年以降には、新型コロナ対策で拡大した財政赤字を縮小し、新型コロナ対策で緩んだ金融紀律を引き締めるステップが待っている(図表-16)。21年1-3月期だけは比較対象となる基数が低いため高成長となりそうだが、その後は4%前後の安定成長に移行することになると予想する。
なお、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)にはまだ不明な点が多いため、不確実性の高さには留意したい。もし“第2波”が襲来する事態となれば経済活動の正常化も頓挫しかねないからだ。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年08月28日「Weekly エコノミスト・レター」)
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