2020年08月18日

感染不安と消費行動のデジタルシフト

第1回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~感染不安や非接触志向の高まりで加速する消費行動のデジタルシフト

新型コロナウイルスは私達の暮らしに多大な影響を及ぼしている。感染への不安から外出を控えてネットショッピングを利用したり、非接触志向が高まることで現金よりキャッシュレス決済サービスを利用するなど、消費行動のデジタルシフトは加速しているようだ。

本稿では、ニッセイ基礎研究所の「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査1」を用いて、感染不安と消費行動のデジタル化の状況を捉える。
 
1 調査時期は2020年6月、調査対象は全国に住む20~69歳の男女、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用、有効回答2,062。
 

2――コロナ禍の感染不安

2――コロナ禍の感染不安~低年齢や大学生の子がいる者、専業主婦、在宅勤務がしにくい就業者で強い

コロナ禍の消費行動には感染不安が密接に関係していると考えられるため、まず、感染不安の状況を確認する。

現在、自分や家族の感染による健康状態の悪化への不安がある割合は全体では55.9%を占める2

属性別に見ると、性別には男性(49.0%)より女性(62.7%)で、年代別には男女とも30歳代で、未既婚別には未婚より既婚で、子の有無別には子なしより子ありで、ライフステージ別には第一子大学入学や第一子小学校入学、第一子誕生で感染不安が強い傾向がある(図表1~3)。なお、30歳代では、第一子誕生と第一子小学校入学というステージにいる割合が約4割を占める3

これらより、コロナ禍で帰省の難しい大学生の子がいたり、ソーシャルディスタンスを意識しにくい幼い年齢の子がいる生活者では、感染不安は強い様子がうかがえる。
図表1 性年代別に見た新型コロナの感染不安がある割合/図表2 未既婚・子の有無別に見た不安がある割合
図表3 ライフステージ別に見た新型コロナの感染不安がある割合/図表4 職業別に見た新型コロナの感染不安がある割合
図表5 デジタル化の進展についての考え方別に見た新型コロナの感染不安がある割合
職業別には専業主婦・主夫(66.1%)で高い傾向がある(図表4)。なお、企業等の就業者では、パート・アルバイト>嘱託・派遣・契約社員>正規雇用者(一般社員)>正規雇用者(管理職)>経営者・役員の順に不安が強い。つまり、就業上の地位が低いほど不安が強くなっている。

また、業種別には「宿泊業・飲食サービス業」や「教育・学習支援業」などで不安が強い傾向がある(図表略)。なお、パート・アルバイトでは、全体と比べてこれらの業種に従事する割合が高い。

つまり、就業者では、在宅勤務によるテレワークをしにくい業種で働く者や、働き方における自己裁量が小さい者ほど、感染不安は強い傾向がある。

また、デジタル化の進行についての考え方別には「同様のサービスが受けられるのであれば、対面よりオンラインでの対応が好まれるようになる」や「現金の利用より、キャッシュレス決済が主流になる」について、そう思う4層で不安が強い(図表5)。つまり、消費行動のデジタル化が進行すると考えている消費者ほど感染不安は強い。
 
2 「非常に不安」「やや不安」「どちらともいえない」「あまり不安ではない」「全く不安ではない」「該当しない」の6つの選択肢のうち「非常に不安」と「やや不安」の合計値
3 一方、40~50歳代では第一子大学入学が1割弱を占めて他年代より多い。しかし、1割弱であり、40~50歳代においては少数派であるため、第一子大学入学の感染不安の強さは、年代としての特徴にあらわれにくいようだ。
4 「そう思う」「ややそう思う」「どちらともいえない」「あまりそう思わない」「全くそう思わない」の5つの選択肢のうち「そう思う」と「ややそう思う」の合計値
 

3――コロナ禍の消費行動

3――コロナ禍の消費行動~感染不安でデジタルシフト、子育て・就労世代などは進みにくい状況も

1全体の状況~リアル店舗は減少、キャッシュレス決済やネットショッピングは増加が目立ちデジタルシフト
本稿では、消費行動の中でも感染不安によるデジタルシフトの影響が大きいであろう、買い物の状況に注目したい。

新型コロナウイルスの感染拡大前(1月頃)と比べた現在(6月末)や収束後5の店舗などの利用状況を見ると、現在も収束後も、スーパーやデパートなどのリアル店舗の利用は「減少」が、キャッシュレス決済やネットショッピングなどのデジタル手段の利用は「増加」が目立つ(図表6)。

現在、リアル店舗の利用が「減少」している消費者は、スーパーなど食料や日用品といった必需性の高い商品を揃える店舗では約3割、デパートやショッピングモールなど主に被服類や贅沢品といった必需性の低い商品を揃える店舗では47.2%を占める。

収束後は、減少の割合は低下するものの、依然として、スーパーなどでは約2割、デパートやショッピングモールでは39.9%を占める。なお、デパートやショッピングモールでは、「利用していない・しない」を除く利用者で見れば、減少は51.4%を占める。
図表6 新型コロナによる買い物行動の変化(n=2,062)
ところで、当調査では、収束後を「ワクチンや特効薬などが開発され、季節性インフルエンザと同様に予防や治療ができるようになった時」と定義している。よって、収束後のリアル店舗の利用は「変わらない・元に戻る」が、より多くを占めても良い印象もある。しかし、依然として利用を控える消費者は少なくない。現時点ではワクチンや特効薬などは登場しておらず、感染状況の収束も見えにくい。消費者の新型コロナへの不安は強く、収束した状況を上手く想像できないために、リアル店舗の利用に消極的な結果となっている可能性もある。

なお、調査では、収束後の感染不安についてもたずねているが、収束後にも関わらず、不安がある割合は49.7%を占める。調査は継続的に実施する予定であり、今後の動向を注視していきたい。

一方、キャッシュレス決済やネットショッピングの利用は、現在は増加が約25%を占めており、コロナ禍で消費者の約25%で買い物におけるデジタル手段の利用が増えたと言える。
収束後は、ネットショッピングでは増加の割合がやや低下するが(19.7%、▲4.9%)、キャッシュレス決済では若干低下するものの、おおむね変わらない(23.9%、▲1.4%)。つまり、感染不安が弱まれば、ネットショッピングの利用はやや減ることでリアル店舗の利用はやや増える可能性があるが、キャッシュレス決済の利用はおおむね変わらず、現金の利用には戻りにくいようだ。
 
5 「ワクチンや特効薬などが開発され、季節性インフルエンザと同様に予防や治療ができるようになった時」と定義
2属性別の状況~感染不安が強いほどデジタルシフト、子育て・就労世代や高齢者では不安が強くてもデジタルシフトが進みにくい状況も
次に、属性別に収束後の買い物の状況を確認する。本稿では、リアル店舗の利用は減少が目立ち、デジタル手段の利用は増加が目立つ傾向を「デジタルシフト」として注目したい。なお、本稿で言うデジタルシフトは、各消費者層における1月頃のビフォーコロナと比べた変化であり、絶対的なデジタルシフトの進行状況ではない。例えば、もともとデジタル志向が高く、ビフォーコロナの時点からデジタルシフトが進行していた層ではコロナ禍でのデジタルシフトは目立ちにくい可能性もある。

まず、感染不安別に見ると、デジタルシフトは、感染不安のない層よりある層で強くあらわれている(図表7・8)。また、デジタルシフトは、性別には男性より女性で、年代別には30歳代を中心に、未既婚別には未婚より既婚で、子の有無別には子なしより子ありで強くあらわれている(図表9~11)。つまり、感染不安の強い層でデジタルシフト傾向は強い。
図表7 属性別に見た新型コロナ収束後の買い物行動
図表8 感染不安別に見た新型コロナ収束後の買い物行動/図表9 性別に見た新型コロナ収束後の買い物行動
図表10 年代別に見た新型コロナ収束後の買い物行動/図表11 未既婚・子の有無別に見た新型コロナ収束後の買い物行動
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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