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新型コロナウイルスと各国経済-封じ込めは限界?コロナとの共生を模索する各国

経済研究部 主任研究員 高山 武士
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新型コロナウイルスの封じ込めでは、初期に感染が拡大した中国で強固なロックダウン(都市封鎖)がなされ、一定の効果を挙げたこともあって、その後に感染が拡大した欧米でもロックダウンを中心とした厳しい封じ込め政策が実施された。しかしながら、世界的に見ると感染拡大は止まらなかった。厳しい封じ込め政策は経済への影響が甚大であることなどから、長期間実施することは難しく、経済活動を再開・維持する国も多くなっている。
本稿では、こうした最近の動きについて、世界的な状況および各国の状況を比較・概観していきたい。得られた結果は以下の通りである。
・感染者数は世界的に見て増加傾向にある。いったん感染拡大のピークを越えた国でも「第二波」による拡大に見舞われている国が散見される。
・5月以降は多くの国で経済活動の再開・維持が模索されており、外出制限などの厳しい封じ込め政策の実施はしていない。また、混雑状況データからは「住宅」の滞在時間が減り「職場」の滞在時間が増えるなど、人の移動量も増していることが分かる。欧州を中心に「公園」の混雑量にも増加傾向が見られる。
・ロンドン大学が公表している7月11日時点での実効再生産数の推計値は多くの地域で1を超えている。7月までに取られている感染予防策では、今後も感染者数の増加が止まらない可能性がある。
・理論的には、感染者1人が感染させる人数が1人より少なければ、時間が経過するにつれ感染は収束するが、こうした状況になっていない。
・感染拡大が制御不可能になってしまえば、医療崩壊リスクが高まり、強固な封じ込め政策の再実施を検討する必要も生じてくるだろう。
・多くの国で、感染予防的な行動をとりつつ経済活動も再開・維持するというコロナとの共生を目指しているものの、経済活動の再開は始まったばかりであり、最適解を見つけられていない。経済復興の腰折れリスクは依然として大きいと言える。

その結果、世界全体の感染者数は5月半ばの減速傾向から再度上昇に転じ、現在まで右肩上がりの状態が続いている。死亡者も4月のピークから5月下旬までは減速が続いていたが、その後は増加に転じている(図表1)。
1 本稿以前に「新型コロナウイルスと各国経済」『ニッセイ基礎研レター』シリーズでMSCI ACWIの指数を構成する49 カ国・地域についての調査をしており、本稿でも特に断りがない限り、これらの国・地域を対象とする。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除くこととする。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。
感染拡大が続く一方で、足もとの政府の封じ込め政策については4月に比べて厳しい政策を打ち出している国は多くない。
図表4には横軸に政策の厳しさ、縦軸に感染者増をプロットしている。4月は厳しい封じ込め政策を実施している国が多く、緑の〇印が図表の右側に偏っているのに対して、7月の封じ込め政策の厳しさ(青の□印)は左側にシフトしている。感染が収束した国(図表でいえば下側に位置している国、つまり「抑制成功国」)が封じ込め政策を緩めただけでなく、ほとんどの国で4月ほど厳しい政策を取っていない状況にある。実際、各国の4月の政策の厳しさと7月の政策の厳しさを直接比較すると(図表5)、7月の封じ込め政策が4月の政策より厳しい国はごく一部にとどまっていることが分かる。
ただし当然ながら、感染を完全に抑えているわけではないので、場所・期間を限定した断続的な封じ込めの実施や、ソーシャルディスタンス確保・マスク着用などの基本的な感染予防策は導入されている。
前節では、政府による対策としての封じ込め政策の厳格度を見た。次に実際の人々の活動がどうなったかを見ていく。
Googleが公表している混雑状況データ(COVID-19 コミュニティモビリティレポート)では、コロナ禍前(1月3日以降の5週間)をベースラインにして、訪問者数・滞在時間から測定した混雑量を公表している。
このデータをもとに「住居」の混雑具合を見ると(図表6)、厳しい封じ込め政策をしていた4月には「住居」の滞在時間(および訪問者数)が長くなっていることが分かる(図表5の緑〇が右上の位置にある)。4月には厳しい行動制限が課されていた結果、様々な店舗が休業し、また在宅勤務などが進み自宅で過ごす人が増えたことが背景にあるだろう。一方、7月は4月より「住居」への滞在時間が減少している(図表6の青□が下側にある)ことが分かる。7月は封じ込め政策が緩和され経済活動が段階的に再開されてきているため、「住居」以外への人の移動が進んでいると言える。
一方、「職場」の混雑具合は、「住居」の混雑具合と逆の現象が起きている(図表7)。4月は「職場」への滞在時間が急激に減る一方で、4月は増えている。
前節までに見たように、世界的に見て感染者数は増加傾向にある。これは、多くの国で経済活動の維持・再開が模索され、厳しい封じ込め政策を避けており、また人の移動・混雑具合も増してきた結果とも言える。
図表9はロンドン大学が公表している7月11日時点での実効再生産数2の推計値3と7月の感染者数をプロットしたものである。ここからは多くの地域で実効再生産数が1を超えていることが分かる。
この実効再生産数はひとつのモデルにおける推計値であり、時系列で変化するため結果は幅をもって見る必要があるが、7月までに取られている感染予防策では、今後も感染者数の増加が止まらない可能性がある4。

多くの国で、感染予防的な行動をとりつつ経済活動も再開・維持するというコロナとの共生を目指しているものの、経済活動の再開は始まったばかりであり、最適解を見つけられてはいないと思われる。経済の復興は始まっているが感染者数の急拡大による腰折れリスクは依然として大きいと言えるだろう。
2 あるウイルスを1人の感染者が何人に感染させるかを示す値。1人が2人に感染させる場合、再生産数は2となる。
3 ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)による推計値。詳細はウェブサイト(https://epiforecasts.io/covid/posts/global/)を参照。
4 ニュージーランドやタイでは7月の感染者増加数が少ないが、実効再生産数の推計値が大きくなっている。これらの国では推計の誤差が大きく信頼区間が広い点には注意が必要。推計値の詳細は前述のウェブサイトを参照。
なお、感染拡大がまず他人との接触が多い人からはじまって、こうした人への再感染がないとすれば、他人との接触が少ない人のみが感染の可能性がある状態になっていき、次第に感染拡大ペースが減速する可能性なども考えられる。
5 重症者や死亡者が増えなければ感染者数が増えても問題ないとする意見もあるが、新型のウイルスであり、仮に回復したとしても後遺症などの影響が未知数である以上、感染拡大を放置する政策は講じにくいと思われる。例えば日経新聞(英フィナンシャル・タイムズからの翻訳)では「[FT]コロナ「後遺症」? 長引く倦怠感などの症状」の記事で後遺症についての論争を紹介している(https://r.nikkei.com/article/DGXMZO62268990U0A800C2000000?type=my&s=1#IAAUAgAAMA)。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年08月07日「基礎研レター」)

03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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