2020年08月03日

世界各国の金融政策・市場動向(2020年7月)-株価は過去最高値を記録する国も

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.概要:株価が過去最高値を記録する国も

7月に世界各国1で実施された金融政策および、株価・為替の動きは以下の通り。

 

【7月金融政策】

【7月の株価・対ドル為替レートの動き】
・中国を中心に新興国株価が大幅上昇。過去最高値を記録した国も見られた(図表1)
・ドル全面安となり、対主要通貨ではドルの年初来安値を記録した(図表2)

(図表1)世界株価の動向/(図表2)対ドル為替レートの動向
 
1 本稿では金融政策はG20について確認する。また、株価・為替についてはMSCI ACWIの指数を構成する49か国・地域について確認する。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除く。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。

2.金融政策:先進国は政策の微調整、新興国では追加緩和も

7月の各国の金融政策では、先進国では日銀とFRBで政策決定会合が開かれたが、政策の変更を実施しなかった。他方でFRBはFOMCとは別に、コロナ対策として打ち出してきた各種流動性供給ファシリティ2の期限延長(年末まで)、中央銀行間のレポファシリティやスワップラインの延長(21年3月末まで)、TALF・CPFF・SMCCFの取引相手拡大などを決めており、導入済の政策の調整・拡充を実施している。また、リクスバンク(スウェーデン)は資産購入策の拡大、期間延長、社債購入の開始を発表したことに加え、常設貸出ファシリティの金利引き下げ、銀行貸出の拡充(週次緊急貸出の金利引き下げと6か月物の提供、企業支援貸出の金利優遇と満期長期化)など流動性供給策を拡充した。量的緩和の拡大と期間延長はECBの緩和と足並みをそろえた形となる。

新興国では、インドネシア・ハンガリー・南アフリカ・ロシアで政策金利の引き下げを実施している。いずれもコロナ禍に伴う景気後退に対する措置と言える。なお、インドネシアでは会合前にコロナ対策の財源となる国債直接引受3と利息受取の辞退などを含む負担分担計画(Burden Sharing)について政府と合意しており、コロナ禍に対応する「統合政府」としての存在感が強まっている。
 
2 PDCF、MMLF、PMCCF、SMCCF、TALF、PPPLF、MSLP(MSNLF・MSPLF・MSELF)が対象。なお、MLFは当初より12月末が期限でCPFFは21年3月17日が期限となっている。
3 397.6兆ルピアの引き受けと、176.8兆ルピアの入札未達部分を引き受ける。

3.金融市場:株は新興国を中心に上昇、為替はドル全面安

MSCI ACWI構成銘柄の国別騰落数 MSCI ACWIにおける月間騰落率を見ると、全体では前月比+5.1%、先進国が前月比+4.7%、新興国が前月比+8.4%となった。

6月の株価は月間を通して上昇基調が続いた。特に新興国株の上昇ペースは速く、中国株が上昇をけん引している。中国のコロナ禍からの改善ペースが早く、V字回復期待があるなかで、金融当局の緩和姿勢が強いことが背景にあると見られる4。MSCIの新興国指数はコロナ禍からの下落をほぼ取り戻し、先進国指数と同水準まで近づいてきた(前掲図表1)。
(図表4)各国の株価変動率
国別の株価の動きを見ると、今月は前月比で49か国中27か国が上昇した(図表3)。前述した中国の他新興国では26銘柄中17銘柄が上昇しており、また上昇幅も大きい(図表4)。コロナショック前の水準まで戻っている国も多く、8か国が前年末比を上回る水準となった。中でも中国は年初来高値を記録、台湾・デンマーク・ニュージーランドは過去最高値を更新している。台湾は半導体市場の好調が背景にあり、特にインテルの半導体生産の遅れから主要銘柄のTSMCに生産を委託する観測が浮上されたことで月末にかけて急上昇した。デンマーク・ニュージーランドはヘルスケアセクターのウェイトが高いことがコロナ禍での株上昇に寄与している。
(図表5)MSCI ACWI構成通貨の通貨別騰落数 通貨の騰落率に関しては、対ドルの27カ国のウェイトで加重平均した実効為替レート(Narrow)が+3.1%、60カ国のウェイトで加重平均した実効為替レート(Broad)が前月比+2.7%といずれもドル安が進んだ5(前掲図表2)。特に、先進国通貨に対するドル安傾向が強まりコロナショック前の水準を超えた。米実質金利の低下やマネーサプライの増加といった金融環境や米中対立の再燃の地政学的リスク懸念などが意識されたと見られる。

MSCI ACWIの構成通貨別に見ると、今月は38通貨中33通貨が対ドルで上昇(ドル安方向)、先進国通貨についてはすべての通貨が対ドルで上昇した(図表5・6)。
(図表6)各国の対ドル為替レート変動率
 
4 香港国家安全維持法が6月30日に成立し地政学的リスクも高まっているが、地政学リスクによる株価の下落圧力は強くない。
5 名目実効為替レートは7月28日の前月末比で算出。

 
(参考)主要国の新型コロナウィルス拡大後の金融政策一覧
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年08月03日「経済・金融フラッシュ」)

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