2020年07月01日

世界各国の金融政策・市場動向(2020年6月)-欧州で追加緩和、株はFOMC前後で乱高下

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.概要:欧州で追加緩和・株は乱高下

6月に世界各国1で実施された金融政策および、株価・為替の動きは以下の通り。
 

【6月金融政策】



【6月の株価・対ドル為替レートの動き】
・株価は米国FOMC(10日)の前後で乱高下する展開となった(図表1)
・為替はコロナ禍被害の小さい東南アジア・オセアニア通貨に対してドル安が進んだ(図表2)

(図表1)世界株価の動向/(図表2)対ドル為替レートの動向
 
1 本稿では金融政策はG20について確認する。また、株価・為替についてはMSCI ACWIの指数を構成する49か国・地域について確認する。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除く。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。

2.金融政策:欧州で資産購入規模拡大を決定

6月の各国の金融政策では、先進国ではまずECBとBOEがそれぞれ資産購入策の拡大を決めた。日本や米国は資産購入策の上限を定めていない一方で、ECBやBOEは上限を設けた枠組みを維持している。ただし、いずれの中央銀行も今回の規模拡大で今年の資産購入規模としては必要な量が確保できていると見られるため、当面は資産購入規模については様子見をすると見られる2。ECBは25日には外貨供給策を拡充しており、EUREP(外貨供給レポファシリティ)の導入を決めた。

日本銀行は大枠の長短金利目標と資産買入方針の変更はしなかったが、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(5月導入の「新たな資金供給手段」を含む)の実施枠を拡大し110兆円とし、コロナ対策としての緩和姿勢を見せた。FRBは連邦公開市場委員会(FOMC)では政策の変更を実施しなかった3。他方で、3月に公表していた資産購入策のうち、16日にはSMCCF(流通市場社債購入ファシリティ)の詳細を更新、社債ETFに続き社債購入を開始した。また、29日にはPMCCF(発行市場社債購入ファシリティ)の詳細を更新、運用開始を発表した。

新興国では、ブラジル・インドネシア・ロシア・メキシコ・ハンガリーで政策金利の引き下げを実施している。特にブラジルは昨年8月の利下げ以降、毎会合での利下げを実施しており、6.5%から3.0%まで3.5%もの利下げに動いたことになる。メキシコも同様に昨年8月以降の連続利下げであり利下げ幅は8.25%から5.00%までの3.25%となった。金利引き下げは通貨安懸念にもなるが、通貨安リスクを負いつつも景気減速や低インフレへの対応をする姿勢を見せている。
 
2 BOEについては高山武士(2020)「英国金融政策(6月MPC)-経済持ち直しで追加緩和も最低限」『経済・金融フラッシュ』2020-06-19、ECBについては高山武士(2020)「ECB政策理事会-6000億ユーロの増額決定」『経済・金融フラッシュ』2020-06-05を参照。ECBはPEPPの購入額の増額とともに、購入期限の延長(少なくとも20年末→21年6月末)と再投資方針(再投資は少なくとも2022年末まで実施する)についても決定した。
3 FRBのFOMCの詳細ついては、窪谷浩(2020)「【6月米FOMC】予想通り、従前の金融政策を維持。22年までの実質ゼロ金利政策維持を示唆」2020-06-11を参照。

3.金融市場:株は乱高下する展開

(図表3)MSCI ACWI構成銘柄の国別騰落数 MSCI ACWIにおける月間騰落率を見ると、全体では前月比+3.0%、先進国が前月比+2.5%、新興国が前月比+7.0%となった。

6月の株価はFRBの(FOMC、10日)を挟む形で乱高下し、荒い値動きだった。先進国指数は8日にかけ+5.9%、新興国指数は10日にかけて8.8%と急上昇したものの、FOMCを消化すると急落した。その後、反動増と月末付近では米国の新型コロナ感染者が過去最大を記録したことを受けての下落など、ボラティリティが増している。6月末の前月比でみると、若干の上昇となって終えている(前掲図表1)。
国別の株価の動きを見ると、今月は前月比で49か国中39か国が上昇した(図表3)。なお、6月は幅広い新興国株価が上昇した(図表4)。先月時点で昨年末水準を回復していたデンマークとニュージーランドに続き、今月は中国も昨年末水準を回復している。新興国株価はコロナ禍後のボトムからの回復力が弱く先進国に劣っていたが、6月は先進国の回復水準まで近づいてきた(前掲図表1)。
(図表4)各国の株価変動率
(図表5)MSCI ACWI構成通貨の通貨別騰落数 通貨の騰落率に関しては、対ドルの27カ国のウェイトで加重平均した実効為替レート(Narrow)が前月比+1.5%、60カ国のウェイトで加重平均した実効為替レート(Broad)が前月比+1.0%となった4(前掲図表2)。株の上昇と合わせる形で6月上旬にはドル高が進んだが、その後はドル安に転じ、前月比では若干のドル高にとどまった。
MSCI ACWIの構成通貨別に見ると、今月は25通貨が対ドルで上昇し、うち14通貨が新興国だった(図表5)。新興国通貨のうち韓国ウォンやインドネシアルピア、タイバーツなど東南アジアの一部通貨に対するドル安傾向が強まっている。先進国通貨であるニュージーランドやオーストラリアも含めてコロナ禍の感染被害が小さい国に対して自国通貨高(ドル安)が進んでいる傾向がうかがえる(図表6)。
(図表6)各国の対ドル為替レート変動率
 
4 名目実効為替レートは6月23日の前月末比で算出。
主要国の新型コロナウィルス拡大後の金融政策一覧
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年07月01日「経済・金融フラッシュ」)

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