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- ECB政策理事会-6000億ユーロの増額決定
2020年06月05日
1.結果の概要:PEPP拡充
6月3日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・PEPPの買入総額を拡大し、1兆3500億ユーロに拡大(従来は7500億ユーロ)
・PEPPの実施期間を延長し、少なくとも2021年6月末まで実施する(従来は2020年末)
・PEPPの元本償還の再投資について明示し、少なくとも2022年末まで実施する
【記者会見での発言(趣旨)】
・ベースラインの予測では成長率は2020年▲8.7%、21年5.2%、22年3.3%
・5月には経済に底打ちの兆しがある
・ECBはEU司法裁判所の管轄にあり、PSPPは責務に従ったものと判断している
2.金融政策の評価:市場予想より若干多い6000億ユーロの増額を決定
金融政策でPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)を拡大することについては、市場予想通りであった。拡大規模については、市場予想は5000億ユーロの増額とする声が多かったが、結果は6000億ユーロとなり、予想対比で若干多いという結果であった。また、PEPPの実施期間の半年延長を決定しており、これも一部で予想されていた通りであった。
一方、PEPPにて投資不適格級に落ちた債券(いわゆる堕天使債)の購入や、購入する各国国債の比率の制限(出資比率に応じて購入するという制限)の緩和については予想する向きもいたが、変更はなかった。
また、今回の決定ではPEPPの元本償還の再投資についても明示された。少なくとも2022年末までは元本償還の再投資を実施するというもので、長期間にわたって元本償還分も再投資されるという点では市場が認識していた通りだったと思われる。ただ、コロナ禍前から実施されていた量的緩和策であるAPPの元本償還分の再投資停止は利上げとの関係で明示されており、今回、PEPPで明示された期限を示した形式とは異なっている。
そのため、APPの元本償還分の再投資停止とPEPPの再投資停止との関係性は記者会見でも言及されている。結果として、ラガルド総裁からは明確な回答はなく、PEPPは一時的な措置であるため、早期に再投資の停止をするのか、APPと平仄を合わせるのかについては、不明なままとなった。
記者会見では、新しいスタッフ予測に言及され、ベースラインで2020年▲8.7%と前回の理事会で示されたベースシナリオ(▲8%)よりも若干低いものとなった。また足もとの5月の指標で底打ちの兆しが見られる点にも言及している。
質疑応答では5月にドイツ憲法裁判所のPSPPに対する一部違憲判決を受けて関連する質問が数件か見られた。ラガルド総裁は、判決はドイツの問題として、ECBの独立性は脅かされず、政策運営には影響されないという立場を貫いた回答となった。
一方、PEPPにて投資不適格級に落ちた債券(いわゆる堕天使債)の購入や、購入する各国国債の比率の制限(出資比率に応じて購入するという制限)の緩和については予想する向きもいたが、変更はなかった。
また、今回の決定ではPEPPの元本償還の再投資についても明示された。少なくとも2022年末までは元本償還の再投資を実施するというもので、長期間にわたって元本償還分も再投資されるという点では市場が認識していた通りだったと思われる。ただ、コロナ禍前から実施されていた量的緩和策であるAPPの元本償還分の再投資停止は利上げとの関係で明示されており、今回、PEPPで明示された期限を示した形式とは異なっている。
そのため、APPの元本償還分の再投資停止とPEPPの再投資停止との関係性は記者会見でも言及されている。結果として、ラガルド総裁からは明確な回答はなく、PEPPは一時的な措置であるため、早期に再投資の停止をするのか、APPと平仄を合わせるのかについては、不明なままとなった。
記者会見では、新しいスタッフ予測に言及され、ベースラインで2020年▲8.7%と前回の理事会で示されたベースシナリオ(▲8%)よりも若干低いものとなった。また足もとの5月の指標で底打ちの兆しが見られる点にも言及している。
質疑応答では5月にドイツ憲法裁判所のPSPPに対する一部違憲判決を受けて関連する質問が数件か見られた。ラガルド総裁は、判決はドイツの問題として、ECBの独立性は脅かされず、政策運営には影響されないという立場を貫いた回答となった。
3.声明の概要(金融政策の方針)
6月3日の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
- PEPPの規模拡大(追加)
- 買入総額を6000億ユーロ増額し1兆3500億ユーロに拡大(従来は7500億ユーロ)
- パンデミックに伴うインフレ見通しの下方修正を受けたもの
- PEPP規模拡大で金融政策スタンスを緩和し、企業や家計の資金調達を支援する
- 購入に際しては、実施期間、資産クラス、国構成について柔軟性を持って行う
- これにより理事会は金融政策の円滑な伝達に関するリスクを回避する
- PEPPの実施期間延長(追加)
- PEPPを少なくとも2021年6月末まで実施する(従来は2020年12月末)
- 理事会は、PEPPによる資産購入を新型コロナ危機が去るまで実施する
- PEPPの元本償還分の再投資期間の明示(追加)
- PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2022年末まで実施する
- 将来のPEPPの元本償還分(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する
- 資産購入プログラム(APP)の実施(変更なし)
- 月額200億ユーロに加えて、年末までの1200億ユーロの購入を実施
- 毎月の購入は、緩和的な政策金利の影響が強化されるまで必要な限り継続
- 政策金利の引き上げが実施される直前まで実施
- APPの元本償還再投資(変更なし)
- APPの元本償還分は全額再投資を実施
- 政策金利を引き上げ、十分な流動性と金融緩和を維持するために必要な限り実施
- 政策金利の維持(変更なし)
- 主要リファイナンス・オペ(MRO)金利:0.00%
- 限界貸出ファシリティ金利:0.25%
- 預金ファシリティ金利:▲0.50%
- フォワードガイダンス(変更なし)
- インフレ見通しが、見通し期間において2%に十分近いがやや下回る水準へと確実に収束し、かつ、インフレ動向に一貫して反映されるまで、政策金利は現行水準もしくはより低い水準を維持する
- インフレ見通しが、見通し期間において2%に十分近いがやや下回る水準へと確実に収束し、かつ、インフレ動向に一貫して反映されるまで、政策金利は現行水準もしくはより低い水準を維持する
- 追加緩和へのスタンス(変更なし)
- インフレが目標に向け推移するよう、必要に応じ、すべての手段を調整する準備がある
4.記者会見の概要
(冒頭陳述)
(経済分析)
(金融分析)
- ユーロ圏は前例のない大きさの経済収縮に直面している
- 新型コロナウイルスの蔓延と封じ込め政策の結果、経済活動は急停止
- 雇用・所得の深刻な喪失で先行きの不確実性が増し、消費と投資の急減速をもたらした
- 封じ込め政策が段階的に緩和された結果、景況感調査やリアルタイムデータでは経済活動の底打ちを示している。しかし、その改善は過去2か月の急落を比較すると緩慢である。
- 6月のスタッフ予測では4-6月期に前例のないペースで成長が減速した後、財政・金融政策の支援もあり、今年後半にかけて回復する
- 予測は成長率・インフレ率ともに大きく下方修正され、不確実性も高い
- ヘッドラインインフレ率(HICP)はエネルギー価格の低迷で抑制されおり、物価上昇圧力は実質成長率の急激な低下によって落ち着いている。
- ECBはその責務に従い、十分に良好な金融環境と金融政策の円滑な伝達を確保する
- 中期的な物価安定を守り、経済再開の支援のため、一連の金融政策の実施を決定した
- 中期的な物価安定を守り、経済再開の支援のため、一連の金融政策の実施を決定した
- 金融政策の決定内容
- (具体内容は上記第3節記載の通り)
- (具体内容は上記第3節記載の通り)
- 今回の金融政策は、これまでの刺激策とともに、流動性と資金調達環境を支え、家計・企業への円滑な信用供与を維持、各国・各業種の資金調達に貢献、コロナ禍からの回復に貢献する
- 理事会は、きわめて困難な時期を通じ、ユーロ圏のすべての市民を支援するために権限の中で必要なことはすべて実施すると約束する(fully committed)
- これは物価安定の責務において、金融政策の波及効果が経済・地域全体へ伝達することを確実にするために、我々に必要な役割である
(経済分析)
- 最新の経済指標と景況感調査は域内の経済活動の急減速と、雇用環境の悪化を示している
- パンデミックとその対策により、製造業・サービス業、生産・国内需要に影響が生じた
- 2020年1-3月期の実質GDPは、3月後半のロックダウンを反映して、前期比▲3.8%
- 景況感調査、高頻度指標、経済統計によれば4-6月期はより深刻となる見込み
- 経済活動の段階的な再開によって、多くの最新指標は5月の底打ちを見せている
- 封じ込め政策の緩和が続けば、良好な資金環境、財政政策、世界経済の活動再開により、7-9月期には回復に転じる見込みだが、回復スピードと強さには多くの不確実性が残る
- 不確実性はスタッフ予測にも反映されている
- ベースラインの予測では成長率は2020年▲8.7%、21年5.2%、22年3.3%
- 3月予測と比較した修正幅は、2020年▲9.5%pt、21年3.9%pt、22年1.9%pt
- 不確実性の高さを反映して、予測はベースラインの他に2種類の代替シナリオを用意した。
- 一般的に、成長減速と回復は封じ込め政策の効果と長さに依存し、政策が成功すれば、所得・雇用への影響、特に供給・需要への恒久的な影響に拡大することを緩和する
- 理事会はベースラインからの下方リスクを見ている
- ユーロ圏のヘッドラインインフレ率(HICP)は4月0.3%から5月0.1%まで低下
- 主にエネルギー価格の低下、今後も低下基調が続き、年後半まで弱含む
- 中期的には需要の弱さが物価抑制の圧力になり、供給制約による上昇圧力を相殺する
- 市場での期待インフレ率は低迷している
- インフレ期待調査では、短期・中期的には低下、長期的な期待インフレへの影響は小さい
- HICPのベースラインの予測は2020年0.3%、21年0.8%、22年1.3%
- 3月予測と比較した修正幅は、2020年▲0.8%pt、21年▲0.6%pt、22年▲0.3%pt
(金融分析)
- M3上昇率は4月8.3%で3月7.5%より上昇
- 流動性を急拡大させたことで、銀行による民間部門への信用創造が進んでいる
- 経済の不確実性により、予防的な理由による貨幣保有選好が進んでいると思われる
- 流動性の高い狭義通貨(M1)が広義通貨の伸びをけん引している
- 民間部門への貸付も新型コロナウイルスの影響を受けている
- 非金融法人向け伸び率は3月5.5%から4月6.6%に増加
- 収入が急速に低下するなかで、支出維持と運転資金確保のための資金需要を反映
- 家計向け貸出伸び率は3月3.4%から4月3.0%まで低下
- 封じ込め政策、景況感低下、労働市場悪化による個人消費低迷を反映
- 政策手段としては特にTLTROⅢが、民間部門への貸出を支援している
- 各国政府や欧州機関による信用支援とともに多くの人への資金調達支援となっている
- 各国政府や欧州機関による信用支援とともに多くの人への資金調達支援となっている
- 経済分析・金融分析の結果、物価安定のために十分な金融緩和策が必要であると確認された
- ユーロ圏の急激な縮小を踏まると、野心的かつ協調した財政政策が重要
- 可能な限り、一時的かつ対象を絞った措置が必要
- 欧州理事会の労働者・企業・国家のための5400億ユーロの政策は重要な支援となる
- 同時に、理事会はさらに強力かつ適した回復支援策も要請する
- 欧州委員会の提案する、パンデミック被害を受けた地域・産業を支援し、単一市場を強化し、持続的な繁栄のための復興計画を強く歓迎する
(2020年06月05日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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