2020年07月31日

放射線の画像検査への活用-放射線医療の現状 (前編)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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10|超音波検査は、主に軟部組織を対象に用いられる
超音波検査は、エコー検査とも呼ばれる。耳では聞くことのできない、周波数の高い音(超音波)を、身体に向けて出すと、臓器や血管などに超音波の一部が当たり、反射して戻ってくる。超音波を出してから戻ってくるまでの時間や、戻ってきた超音波の量や周波数を解析することで、身体の断面像をとらえることができる。

超音波検査装置で、超音波を出したり、戻ってきた超音波を受け取ったりする部分は「プローブ」と呼ばれる。プローブと身体の間に空気があると、超音波は身体の中に入っていかない。そこで、検査用クリームを塗ったうえで検査を行う。

超音波検査の対象は、主に、頸部、甲状腺、心臓、腹部、乳腺、末梢動静脈などの軟部組織となる。原則として、空気が多く含まれている肺や、骨に囲まれた脊髄や骨髄などは検査できない。実際の検査では、検査対象の部位の深さや広がりに応じて、周波数や超音波を出す範囲が異なるプローブを使い分けることもあるとされる。

11|日本は欧米よりも高度画像診断の設備が充実している
以上、代表的な検査を簡単にみていった。これらのうち、日本は、CTとMRIといった高度画像診断装置の設置台数が多い。これらの装置に関して、欧米諸国よりも、検査設備が充実しているといえる。
図表13-1. CT装置設置台数(人口100万人あたり)/図表13-2. MRI装置設置台数(人口100万人あたり)

5――放射線防護と安全管理

5――放射線防護と安全管理

放射線医療においては、被曝による身体の有害事象は避ける必要がある。本章では、放射線の防護と安全管理について、概観していこう。

1|放射線の防護には、3つの原則がある
放射線は上手に用いれば、診断や治療に役立つ。放射線の有用性を不当に制限することなく、有害事象の確定的影響を防ぎ、確率的影響を減少させることを目指して41、国際放射線防護委員会(ICRP)は、放射線防護の3原則を定めている。それぞれの原則を要約すると、次表のとおりとなる。42
図表14. 放射線防護の3 原則
 
41 確定的影響とは、照射する線量がある閾値(しきいち)を超えると、有害事象が出る確率が急上昇すること。確率的影響とは、一般的には、線量が多いほど有害事象が出る確率が上昇するが、そこには確率的な要素が入り込み、「線量が少ないから絶対に出現しない」とか、「線量が多いから必ず出現する」などとは言い切れないことをいう。(詳細は、後編を参照。)
42 3つの原則のうち、防護の最適化は、「合理的に達成できるかぎり低く保つべきである」(As Low As Reasonably Achievable)という部分を取り出して、「ALARA(アララ)の原則」とも呼ばれている。
2|放射線を取り扱う医療施設は、放射線障害予防規程を作成する必要がある
放射線障害防止法(および同施行規則)により、医療施設は、施設の実態に即した放射線障害予防規程を作成して、放射線防護体制を確立することが求められている。

規程には、職務・組織、放射性同位元素等の使用・受入れ・払出し・保管・運搬・廃棄、危険時の措置などの事項を定めることとされている。

3|外部被曝と内部被曝を低減するための対策が必要
放射線被曝は、外部被曝と内部被爆に分けられる。

外部被曝は、放射線源が身体の外にあって、その線源から出た放射線を浴びることをいう。外部被曝を低減するためには、距離、遮蔽(しゃへい)、時間の3つに留意することが原則となる。
図表15. 外部被曝低減の3 つの留意点
一方、内部被爆は、放射性物質が、経口摂取、吸入摂取、皮膚(創傷部)吸収などで、体内に取り込まれることをいう。放射性物質により、体内組織が被曝する。

内部被爆を低減するための原則としては、放射性物質を体内に取り込まないことや、取り込んでしまうリスクをできるだけ下げることがあげられる。

4|放射線を取り扱う医療施設は放射線管理区域を指定しなくてはならない
医療施設は、放射線を取り扱う場合、放射線管理区域を設けなくてはならない。X線診断装置や放射線治療装置が設置された部屋や、核医学診療室など放射性物質を使用する場所が、放射線管理区域に指定される。放射線障害防止法では、所定の基準に該当する場所44を管理区域とすることが規定されている。管理区域には、そのことを示す標識や、立ち入り禁止の掲示が義務付けられる。
図表16. 放射線管理区域を示す標識の例
なお、医療施設が作成する放射線障害予防規程では、管理区域に立ち入る人に対して、遵守すべき事項が定められる。たとえば、定められた出入り口からの出入り、個人被曝線量計の着用、区域内での飲食・喫煙の禁止などが、遵守すべき事項としてあげられる。

管理区域では、区域の外側に漏れる放射線の管理、区域内への人の出入りの管理、区域内で働く人の被曝モニタ、放射性物質の出入りの管理、汚染拡大の防止などが行われる。
 
44 (1)外部放射線の実効線量が3か月あたり1.3mSv、(2)空気中の放射性物質濃度(3か月の平均)が空気中濃度限度の10分の1、(3)放射性物質による汚染が表面汚染密度限度の10分の1、を超えるおそれがある場所
5|放射線発生装置や放射性物質を取り扱う人は放射線業務従事者となる
放射線業務従事者とは、放射線管理区域に立ち入って放射線発生装置や放射性物質などを取り扱ったり、管理したりする人をいう。

放射線業務従事者には、一般公衆の約10倍の高い線量限度が設定されている。個人線量計の装着により線量のモニタリングを行うとともに、健康診断や教育・訓練などを定期的に受けることなどが求められている。
図表17. 線量限度
(1) 個人線量計の装着
全身の被曝の程度をみる「均等被曝」について、基本部位(男性は胸部、女性は腹部45)にガラスバッジなどの線量計を装着する。なお、胸・腹部よりも多く被曝する部位がある場合、「不均等被曝」として、最も多く被曝する場所にも線量計を装着する46

(2) 健康診断
労働安全衛生法(および電離放射線障害防止規則)により、初めて管理区域に立ち入る前、および立ち入り後6か月以内ごとに、健康診断を受けることが必要となる。

(3) 教育・訓練
放射線障害防止法(および同施行規則)により、初めて管理区域に立ち入る前、および立ち入り後1年以内ごとに、教育・訓練を受けることが必要となる47
 
45 男女で付ける部位が違うのは、女性の場合、胎児に対する影響を考慮しているためとされる。すなわち、将来や現在の胎児のことを考えて、女性は腹部で測定して、個人線量を規制する。
46 鉛エプロンを着用する場合、防護衣の内側の基本部位に1つ装着し、防護衣から露出する頭頸部にもう1つ装着する。放射性物質を取り扱う場合は、基本部位に加えて、被曝が最大となる手指にリングバッジを着用する。
47 教育・訓練の内容には、放射線が人体に与える影響、放射性同位元素等又は放射線発生装置の安全な取り扱い、放射線障害の防止に関する法令、放射線障害予防規程が含まれる。
 

6――おわりに

6――おわりに

本稿では、放射線の仕組みや放射線を用いた検査・診断の概要をみていった。1つひとつの仕組みは、難解なものではない。むやみに放射線を怖がる必要はないことを感じ取っていただけたかと思う。

次稿では、放射線を用いた治療と、その有用性について概観していく。そして最後に、放射線医療についてのまとめと私見を述べることとしたい。

【参考文献・資料】
 
(下記1~8の文献・資料は、包括的に参考にした)
  1. 「やさしくわかる放射線治療学」公益社団法人 日本放射線腫瘍学会監修(学研メディカル秀潤社, 2018年)
  2. 「がん放射線療法ケアガイド 第3版」祖父江由紀子、久米恵江、土器屋卓志、濱口恵子編(中山書店, 2019年)
  3. 「患者さんと家族のための放射線治療Q&A 2015年版」公益社団法人 日本放射線腫瘍学会編(金原出版, 2015年)
  4. 「知っていますか? 放射線の特性と画像原理 -すべての医療従事者(事務職員、看護師、技師、研修医、医師)のための放射線科ガイダンス-」今西好正編著(医療科学社, 2013年)
  5. 「癌の画像診断、重要所見を見逃さない -全身まるごと!各科でよく診る癌の鑑別とステージングがわかる」堀田昌利著(羊土社, 2018年)
  6. 「希望の最新医療 奇跡の放射線治療 -脳腫瘍・頭頸部癌・肺癌・乳癌・食道癌・肝細胞癌・膵臓癌・前立腺癌・子宮頸癌・悪性リンパ腫 ほか-」桜の花出版 取材班編(桜の花出版, 2016年)
  7. 「がん治療を支えるチーム医療 -診療放射線技師-」熊谷孝三著(PILAR PRESS, 2009年)
  8. 「がんの時代」中川恵一著(海竜社, 2018年)
 
(下記の文献・資料は、内容の一部を参考にした)
  1. 「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編」(文部科学省, 平成30年7月)
  2. 「広辞苑 第七版」(岩波書店)
  3. 「キュリー夫人伝(新装版)」エーヴ・キュリー著, 河野万里子訳(白水社, 2014年)
  4. 「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成30年度版)」(環境省)
  5. 「医療施設調査」(厚生労働省)  
  6. “OECD Health Statistics 2020”(OECD)
  7. 「作業者の放射線防護に対する一般原則」(社団法人日本アイソトープ協会)
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2020年07月31日「基礎研レポート」)

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