2020年07月30日

FOMC(20年7月)-予想通り、政策金利も含め、現在の金融政策の維持を決定

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:金融政策の維持を決定

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が7月28-29日(現地時間)に開催された。FRBは、市場の予想通り、政策金利を据え置いたほか、量的緩和政策を継続するなど、従前の金融政策を維持することを全会一致で決定した。

今回発表された声明文では、景気の現状判断で経済活動と雇用について「ここ数カ月で幾分上向いた」とし上方修正した。もっとも、その後段で「今年初めの水準をなお大きく下回っている」としており、依然厳しい状況が続いていることも示した。景気見通し部分では「経済の行方はウイルスの成り行きに大きく左右される」との表現を追加した。金融政策ガイダンス部分に変更はない。

一方、一部市場で予想されていたフォワードガイダンスの変更や、金融政策の中長期的なフレームワークに関する発表は見送られた。

なお、FRBは7月28日には9月30日が期限となっていた資金供給ファシリティを12月31日まで延長した。また、7月29日には各国中銀と結んでいた米ドルを供給するためのスワップ協定と、スワップ協定を結んでいない中銀に対しても米国債を担保に翌日物のレポを提供するFIMAレポ・ファシリティを21年3月31日まで延長することを決定した。

2.金融政策の評価:金融政策は当面維持、金融政策の長期的な枠組みの発表を示唆

米国経済の底打ち、金融市場の流動性回復などがみられていることもあり、金融政策維持を決定したことは予想通り。また、当面は現在の金融政策を維持するとみられる。

前述のように、声明文の現状判断では経済活動などの表現が上方修正されたものの、FOMC会合後の記者会見でパウエル議長は、新型コロナの感染が拡大していることに伴い、一部の消費指標が6月下旬以降に悪化したことに言及するなど、米景気に対する慎重な見方が示された。

一方、追加緩和手段については、前回会合で触れられた「イールドカーブコントロール」に関する言及はなく、実施される可能性が後退したとみられる。また、「明確なフォワードガイダンス」については、今回の会合でも継続審議されたものの、結論には至らなかったようだ。

さらに、長期的な金融政策の枠組み(フレームワーク)についても、今回の会合では結論が持ち越された。もっとも、パウエル議長は発表時期を近い将来としているほか、現状からの大幅な変更ではなく、現在行っている手段を成文化すると述べており、早ければ9月会合で発表されるとみられる。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを0-0.25%に維持することを決定(今回変更なし)。
  • FRBは家計や企業の信用の流れを支えるため、今後数ヵ月に亘って少なくとも現行ペースで米国債やエージェンシーの住宅ローン担保証券(RMBS)、商業用不動産ローン担保証券(CMBS)の保有を増やすことで市場機能を円滑に維持し、より広範な金融環境に金融政策を効果的に伝達する(今回変更なし)
  • 翌日物とターム物のレポ取引を大規模に提供(今回変更なし)。
 
(フォワードガイダンス)
  • 経済が最近の出来事を乗り切り、最大限の雇用と物価安定の目標を達成する軌道にあると委員会が確信するようになるまで、この目標レンジを維持する(今回変更なし)。
  • 金融政策のスタンスに対する将来的な調整のタイミングと規模を決める上で、委員会は最大限の雇用確保の目標と対照的な2%のインフレ目標に関連付けながら、経済情勢の現状と予測の面から精査する(今回変更なし)。
 
(景気判断)
  • 新型コロナの流行は米国全土と世界各地に甚大な人的、経済的困難を引き起こしている(今回変更なし)。
  • 経済活動と雇用は急激な落ち込みの後、ここ数カ月で幾分上向いたものの、今年初めの水準をなお大きく下回っている(経済活動について前回の「急激に低下させ」“sharp declines”、雇用について「失業を急増させている」”a surge in job losses”から、「ここ数カ月で幾分上向いた」”picked up somewhat in recent months”に上方修正。また、「今年初めの水準をなお大きく下回っている」”remain well below their levels at the beginning of the year”の表現を追加 )。
  • 需要の弱まりと大幅に下落した原油価格は、消費者物価の上昇を抑制している(今回変更なし)。
  • ここ数カ月で全般的な金融環境は、経済および、家計や企業への信用の流れを支えるための政策措置を一部反映して改善してきた(金融環境について「全般的」“Overall “、「ここ数カ月」”in recent months”を追加し小幅に表現変更)。
 
(景気見通し)
  • 経済の行方はウイルスの成り行きに大きく左右される(今回追加)。
  • 現在進行中の公衆衛生の危機は、経済活動に大きな影響を与えるだろう(変更なし)。
  • 短期的には雇用やインフレなど、中期的には経済見通しに大きなリスクをもたらす(変更なし)。

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • FRBは、我々ができることを、必要とされる限り行い、ある程度の救済と安定を提供し、景気回復が可能な限り強くなることを確保し、経済に対する永続的なダメージを制限するために、政策手段を用いることに引き続きコミットする。
    • 経済が再開されたことで、ここ数カ月経済活動は上向いた。5月と6月に経済ニュースが改善したにもかかわらず、全般的な活動はパンデミック以前の水準をかなり下回っており、第2四半期の実質GDPの減少は史上最大となる可能性が高い。
    • 経済の先行きは極めて不確実であり、ウイルスを抑制することに成功するかどうかに大きく左右される。また、今後の道筋は、政府のあらゆるレベルでとられる政策措置に依存する。
    • 現在の景気後退は、我々の人生の中で最も深刻だ。今年初めの経済活動と雇用の水準に戻るにはしばらく時間がかかるだろう。そして、それを達成するためには、金融政策と財政政策の両方からの継続的な支援が必要である。
    • 我々は、金融政策、戦略ツール、及びコミュニケーション慣行に関する公開レビューを昨年初めに開始した。我々の目的は、世界的な低金利下で、雇用の最大化と数年先までの物価安定の目標をいかに上手く達成できるかを包括的に検討することであった。本日、共有できる詳細はないが、近い将来に結論を出したい。
 
  • 主な質疑応答
    • (景気が二番底となる可能性について)高頻度で発表される経済データは、回復のペースが新型コロナの感染者数が急増した6月以降、鈍化したことを示す。ただし、鈍化がどの程度の大きさでどの程度の持続性をもつのか述べるには時期尚早だ。我々は非常に注意深く監視している。
    • (追加緩和や利上げ転換の条件について)我々は適切だと判断した時点で、追加緩和する準備は出来ているが、特定の要因を示すことはできない。以前も申し上げたかもしれないが、我々は利上げを考えたことすらない。
    • (フォワードガイダンスについて、資産購入をインフレや労働市場などの経済的効果に結び付けることにメリットはあるか)まだ、何も決めていないが、2、3の方法はある。金利を一定期間維持する条件を日付に結び付けることも出来るし、あるマクロ経済目標が達成されることを条件にすることも出来る。
    • (金融政策のフレームワークの見直しについて)見直しは、非常に優先順位が高い。6月の会合で完了する予定だったが、新型コロナの影響で邪魔された。一方、長期目標と金融政策戦略の変更の大部分は、我々が既に行っている政策の進め方を成文化したものとなるだろう。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年07月30日「経済・金融フラッシュ」)

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