2020年07月28日

新型コロナによる大封鎖が不動産市場に与えた影響-不確実性の高まる世界において。不動産投資を再考する(3)

金融研究部 准主任研究員   佐久間 誠

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1――はじめに

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大は、経済や社会に甚大な影響をもたらしている。「大封鎖(The Great Lockdown)」1と称されるように、社会的隔離政策のもと人の移動が制限され、世界的に広範囲で需要蒸発を引き起こしたことが、今回の経済的な落ち込みの主たる原因である。

現在でも新型コロナウイルス感染拡大の終息の見通しは立たず、多くの国で大封鎖は続き、不動産市場の先行きは依然として不透明なままである。その一方で、中国で感染が急拡大した2020年1月から半年が経過し、一般的に経済に遅行するとされる不動産市場においても、その影響が徐々に顕在化し始めている。そこで、本稿では新型コロナによる大封鎖が不動産市場に与えた影響について概観する2, 3
 
1 IMF(2020), “World Economic Outlook, April 2020 : The Great Lockdown”, 2020年4月14日
2 前々稿においては、リスクと不確実性の違いを確認し、世界の様々なシステムの脆弱化やネットワークの拡大・複雑化を背景に、経済や金融市場、社会の不確実性が構造的に高まっていることを述べた (佐久間誠(2020)「不確実性の高まる世界において。不動産投資を再考する(1)-新型コロナウイルス出現は必然か?感染拡大により顕在化した不確実性」、不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2020年5月28日)
3 前稿では、米国のサブプライム住宅ローン危機を発端とした2007年以降の世界金融危機における不動産のインカムリターンを分析し、不動産投資におけるリスクと不確実性について述べた (佐久間誠(2020)「不確実性の高まる世界において。不動産投資を再考する(2)-世界金融危機時のパフォーマンスから不動産のリスクと不確実性を考察する」、不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2020年6月24日)
 

2――「大封鎖」

2――「大封鎖」: 社会的隔離政策により止まったヒトの流れ

新型コロナウイルスによる今回の危機は、2007年以降の世界金融危機と比較されることが多い。双方とも経済と社会に未曾有のインパクトをもたらし、100年に一度の危機と言われている(図表 1)。

前回の世界金融危機(The Global Financial Crisis)は、金融バブルの崩壊により「カネの流れ」が止まったことに起因する。コベナンツ条項抵触などによるデフォルトや貸し渋り・貸し剥し、不動産の投げ売りなどが発生し、不動産投資市場が大きなダメージを被り4、その影響は不動産賃貸市場にも波及した。それに対して今回の危機は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、「ヒトの流れ」が止まったことに起因する。ヒトの流れが賃貸収入の源泉となっていたホテルや商業施設は深刻な影響を被る一方、eコマース拡大やテレワークなどデジタル化により恩恵を受ける物流施設やデータセンターへの注目が高まるなど、不動産セクター間の格差が強まっている。
 
また、前回の世界金融危機とは異なり、今回は危機対応のスピード感が早い。前回は、米国のサブプライム住宅ローン危機を発端とし、金融機関の過剰なリスクテイクが問題視された。米議会の公聴会で大手金融機関のトップが経営責任や高額報酬を問われ、反ウォール街の抗議運動(Occupy Wall Street)が盛り上がりを見せた。そのため、目詰まりを起こした金融市場(カネのネットワーク)を修復するために必要な金融機関への財政・金融的な救済に対する政治的・社会的な抵抗が強かった。一方、今回はウイルスを原因とした感染症が根本にあるため、政治的反対は少なく、強い社会的要請を背景に、大規模な財政政策と金融政策が迅速に講じられている。その結果、溢れた資金が金融市場に流入し、一部では「コロナバブル」とも言える様相を呈している。
図表 1:不動産賃貸市場・投資市場への世界金融危機と大封鎖の影響のイメージ
今回のパンデミックでは、多くの人が外出を自粛し「自宅に籠る」ことになった。コロナ前の東京の平日のオフィスワーカーを例にとると、食品や医薬品などの生活必需品は自宅と最寄り駅周辺の「生活エリア」で購入し、都心にある「オフィスエリア」で働き、衣料品などの裁量型消費、外食やエンターテイメントといったコト消費は都心部の「商業エリア」、旅行や出張ではさらに足を延ばし「トラベルエリア」にあるホテルに宿泊した。つまり、行動の種類によってエリアが色分けされており、日々の活動には、それらのエリアをまたがる移動が伴った(図表 2)。

しかし、コロナ禍によって多くのワーカーが自宅に籠ることを余儀なくされた。生活必需品はこれまで通り生活エリアで購入するが、自宅からテレワークし5、衣料品などは自宅からeコマースで購入し、飲食店での外食はフードデリバリーによって取って代わられ、映画館や劇場で楽しんだエンターテインメントはNetflixやYouTubeなどの動画配信サービスで楽しむようになった。人の移動は自宅を中心とする生活エリアに限定され、エリアをまたがる移動は急減した。
図表 2:東京のオフィスワーカーの行動イメージ
このヒトの流れの停止を、NTTドコモのモバイル空間統計をもとに確認する(図表 3)。同統計で公表されている東京都の12地点6を生活エリア、通勤エリア、商業エリア、トラベルエリアに分類し、前年からの人口増減率(前年比)を見ると、緊急事態宣言のさなかにあったゴールデンウィーク明けの一週間は、減少率が小さい順に、生活エリア▲48.7%<商業エリア▲67.7%<トラベルエリア▲68.8%<オフィスエリア▲71.5%と、生活エリアではヒトの流れが半減、他のエリアでは7割減となった。全国で緊急事態宣言が解除された5月25日以降は徐々に人出が戻り、直近7月22日までの1週間では生活エリア▲13.4%<商業エリア▲32.9%<オフィスエリア▲41.1%<トラベルエリア▲41.2%となった。生活エリアにおいては概ね人出が回復してきているが、オフィスエリアにおいては依然として4割減と、在宅勤務を継続している企業が少なくないことが示唆される。
図表 3:東京都の行動圏別の人口増減率
 
4 金惺潤(2013)『不動産投資市場の研究―1992年から2011年の市場変遷と投資行動の二十年史』、東洋経済新報社
5 一般社団法人日本テレワーク協会によれば、テレワークは「tele:離れたところ」と「work:働く」を合わせた造語で、ICT技術を活用して、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことを指す。また、自宅で勤務する在宅勤務や客先や移動中のモバイルワーク、勤務先以外のオフィスで働くケースを含む。
6 東京駅、大手町、丸の内、東京駅南、霞が関、銀座、新宿駅、渋谷センター街、品川駅、羽田空港 第1ターミナル、羽田空港 第2ターミナル、立川駅。
 

3――新型コロナによる大封鎖の不動産市場の影響

3――新型コロナによる大封鎖の不動産市場の影響

新型コロナウイルスの感染拡大と大封鎖の不動産市場への影響は、ホテル>商業施設>オフィス>賃貸住宅>物流施設の順に顕在化している。

ホテルの稼働は壊滅的な状況である。2020年5月の日本の延べ宿泊者数は前年同月比▲84.8%、うち日本人は▲81.6%、うち外国人は▲98.6%の減少となった。新型コロナウイルスの感染拡大は1月に中国で急増した後、2月以降は韓国やイタリアなどにも波及し、グローバルな拡大を見せた。入国規制が厳格化され、国内でも県をまたいだ移動の自粛が要請されるなか、ホテルの宿泊需要が急減した。2020年7月22日に開始されたGo To Travelキャンペーンを宿泊需要復活への起爆剤として期待されるが、新型コロナウイルス感染拡大の終息の見通しは立たず、予断を許さない状況が続いている。
図表 4:2020年の日本の延べ宿泊者数の推移(前年同月比)
商業施設は、営業自粛や施設休館などの影響もあり、深刻なダメージを受けている。ただし、テナントの業態によって強弱が鮮明だ。2020年5月のモノ消費に関する小売販売額7(前年同月比)は、伸び率が大きい順に、ホームセンター10.8%>家電量販店が6.9%>スーパー4.5%>コンビニエンスストア▲10.0%>百貨店▲63.6%となった。生活必需品を扱うスーパーやドラッグストア、巣ごもり消費のホームセンターや家電量販店は堅調だが、オフィス周辺などの来店者が減ったコンビニや外出する機会が減って衣料品などの売上が大幅に落ち込んでいる百貨店が不調である。また2020年5月のコト消費に関連するテナントの売上高8(前年同月比)は、伸び率が大きい順に、ファーストフード▲9.3%>ファミリーレストラン▲49.4>喫茶▲66.8%>ディナーレストラン▲71.5%>パブ・居酒屋▲90.0%>映画館▲99.1%となった。持ち帰り需要を捉えたファーストフードが健闘しているものの、それ以外の業態は3密の回避が求められるなか、甚大なダメージを被っている。
図表 5: 2020年の商業施設の主要テナント業態の月次販売額 (前年同月比)
オフィス市場はこれまで好調を保ってきたが、足元では徐々にピークアウトの兆しが出てきた。三幸エステートによると、2020年7月1日時点の東京都心5区のオフィスビルの空室率は1.16%となった。依然として空室率の水準は低いものの、3ヶ月連続で上昇している。規模別に見ると、空室率の低い順に、大規模ビル0.66%<大型ビル1.08%<中型ビル2.12%<小型ビル3.51%となった。直近のボトムからの上昇幅(悪化幅)は、大規模ビル+0.25%<大型ビル+0.56%<中型ビル+0.66%<小型ビル+0.92%と、中小規模のオフィスほど空室率が上昇している。今回の危機で相対的に大きな打撃を受けているサービス業には中小企業が多い。また、大企業よりも中小企業の方が財務基盤が弱く、資金繰りの懸念がある。オフィス賃料負担を軽減するため賃貸スペースを返す中小企業も増加してきている。そのため、中小テナントの多い中小規模のオフィスビルほど空室率が上昇している。
図表 6:東京都心5区の空室率の推移
不動産セクターの中でもディフェンシブとされる賃貸住宅やeコマース拡大による需要拡大が期待される物流施設については、今のところ小さな影響にとどまっている。しかし、両セクターとも景気後退の長期化が懸念されるため、楽観できる状況ではない。都心部への人口流入はこれまで堅調な賃貸住宅市況を後押ししてきた。東京都への転入超過数と東京23区マンション賃料指数の相関は高く、転入超過数がピーク/ボトムを付けた後に、賃料変化率がマイナス/プラスに転じる傾向がある。例えば、転入超過数は2008年にピークを付け、マンション賃料指数は2009年第2四半期に前年比マイナスに転じた。また、転入超過数は2011年にボトムを打ち、マンション賃料指数は2012年第3四半期に前年比プラスに転じている(図表 7左図)。東京都への人口流入は足元でストップし、2020年5月は1,069人の転出超となった(図表 7右図)。新型コロナウイルスの感染動向によっては、今年の東京都への転入超過数は前年から大幅に減少する可能性がある。
図表 7: 東京のマンション賃料と転入超過数
今後の見通しについても、ホテル>商業施設>オフィス>賃貸住宅>物流施設の順に、新型コロナの影響がさらに顕在化すると予想されている。日本不動産研究所のアンケート調査(2020年4月1日時点)9によれば、今後1年間の新型コロナのネガティブな影響は、「大:ホテル・都市型商業施設」、「中:郊外型商業施設・オフィス」、「小:賃貸住宅・物流施設」との見通しである10,11(図表 8)。また、新型コロナが収束後に市況回復に要する期間としては、「1年:ホテル・都市型商業施設・郊外型商業施設」、「半年:オフィス」、「早期:賃貸住宅・物流施設」、と予想されている。
図表 8:新型コロナの不動産市況への影響に関する市場関係者の見通し
 
7 スーパー・コンビニ・百貨店は既存店ベース、ホームセンター・家電量販店・ドラッグストアは全店ベースから店舗数変化率を差し引くことで調整。
8 全店ベース。
9 日本不動産研究所(2020)「第42回不動産投資家調査(2020年4月現在)特別アンケート(Ⅰ)」、2020年5月26日。回答者はアセット・マネージャーやデベロッパー、金融機関などを中心とする。
10 同調査による不動産セクター間の見通しは、J-REITが織り込む価格下落リスクと同一の傾向を示している (岩佐浩人(2020)「新型コロナでREIT市場は急落。不動産市場は曲がり角に直面-不動産クォータリー・レビュー2020年第1四半期」、不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2020年5月14日)
11 東京都心部Aクラスオフィスビルの空室率は2020年3月末時点の0.3%から2020年末には2%程度まで上昇すると予想している (吉田資(2020)「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し~新型コロナウィルスの感染拡大を踏まえて見通しを改定」、不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2020年5月27日)
 

4――おわりに

4――おわりに

本稿では新型コロナによる大封鎖が不動産市場に与えた影響を概観し、ホテル>商業施設>オフィス>賃貸住宅>物流施設、の順に影響が顕在化していることを確認した。しかし、今回のパンデミックは、これらの影響に加えて、長期的には不動産市場に構造変化をもたらす可能性がある。ブラックスワンと呼ばれる大きな不確実性が顕在化した後にはニューノーマルが訪れるためだ。次稿では、不動産業の在り方について再定義を迫るかもしれない、新型コロナがもたらした「デジタル化」、「行動変容」、「賃貸借契約」の3つの不確実性について考察する。
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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金融研究部   准主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

(2020年07月28日「不動産投資レポート」)

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レポート紹介

【新型コロナによる大封鎖が不動産市場に与えた影響-不確実性の高まる世界において。不動産投資を再考する(3)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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