コラム
2020年07月27日

新型コロナ 陽性率も要チェック-第2波の襲来は、どのように把握すべきか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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新型コロナウイルスの感染拡大が始まって、半年以上が経過した。

世界では、死亡者数で、アメリカが14万人、ブラジルが8万人、イギリスとメキシコが4万人に達している。感染者数では、アメリカが400万人、ブラジルが234万人、インドが138万人を超えている。感染上位国には、欧米諸国、中南米、南アジア・中東、アフリカなど、幅広い地域の国が名を連ねている。全世界で、感染拡大が進んでおり、世界全体で感染者数は1578万5641人、死亡者数は64万16人。日本の感染者数は2万9382人、死亡者数は996人(横浜港に停留したクルーズ船を含まない)に達している。(7月26日現在/世界保健機関(WHO)“Situation Report - 188”より)
 
新型コロナの感染拡大の動向は、なかなか先読みができない。そんな中で、日々メディアでは新規感染者数が報じられている。この数字は直感的で分かりやすく、インパクトがある。感染拡大の状況を端的に表すものとして、気にかけている人は多い。
 
新規感染者数は、どれだけ検査を行ったか、すなわち検査数に依存する。極端なことを言えば、検査数がゼロならば新規感染者数もゼロとなってしまう。それでは、感染拡大の動向をとらえるには、どんなデータをみていけばよいだろうか。少し考えてみたい。

◆新規感染者数の“信ぴょう性”

5月25日に全国で緊急事態宣言が解除されてから約1か月間、全国の新規感染者数は毎日100人未満にとどまっていた。そのため、国内のコロナ感染はこのまま収束するかにみえた。
 
しかし、6月下旬から新規感染者数は徐々に増えはじめた。7月に入っても増加が続き、23日には、4月のピーク時を大きく上回って、1000人に迫る人数となった。
 
特に、東京都の新規感染者数の推移は激しい。5月には、わずか2人という日もあった(23日)が、6月以降徐々に増えていき、7月23日には366人と、4月のピーク時を大きく上回る新規感染者数となっている。
 
これまでのところ、7月の新規感染者の大半は若齢者で、重症化したり死亡に至ったりするケースは限られている。しかし、今後、高齢者や基礎疾患を抱えた人などに感染が拡大すれば、入院する人が増えて医療の現場が逼迫する恐れもある。医療機関は、感染拡大への警戒を強めている。
 
この新規感染者数については、日々発表される数字の変動が大きいため、一喜一憂する原因となりがちだ。
 
たとえば、毎週月曜日は新規感染者数が少ない。これは、前日の日曜日に休みの医療機関が多く、持ち込まれる検体数が少ないため、月曜日に確認される人数も少なくなるから──といわれている。
 
また、4月の感染拡大時には、PCR検査の実施可能数が今よりも少なく、必要な検査が行われていないのでは? との声があった。つまり、新規感染者数の信ぴょう性には疑問が投げかけられていた。
 
このように、検査数しだいで新規感染者数は変わってくる。新規感染者数だけをみていても、感染拡大を十分に把握できないかもしれない。
東京都の感染動向

◆度々見直されてきた「陽性率」計算方法

検査の動向を踏まえて感染拡大をとらえるうえでは、陽性率がポイントとなる。陽性率は、陽性判明数と陰性判明数の合計に占める陽性判明数の割合として計算される。
 
東京都は5月8日に陽性率の公表を始めた。過去にさかのぼってその推移をみると、4月は常に2桁以上のパーセントとなっており、11日には最大31.7%にまで上がった。5月に入ると徐々に低下して、1%を切る水準まで下がった。しかし、その後再び上昇して、7月24日には6.3%となっている。第2波の襲来を予感させる動きといえるかもしれない。
 
また、業種別などの集団ごとに陽性率をみることで、それぞれの集団での感染拡大の様子をみる手掛かりとすることもできる。
 
たとえば、6月に新宿区で医師から紹介された人を対象に行われた検査スポットでは、「夜の街」で働く人を含む飲食業の陽性率が31%にのぼり、学生や会社員等の陽性率の8倍も高かったと報じられている。
 
このように、陽性率をみることで検査を受けた人の中にどれぐらい陽性者が広がっていたか、すなわち新型コロナの蔓延状況をとらえることができる。
 
ただ、この陽性率には当初いろいろな疑問が出されていた。そして、それに対して計算方法の見直しが図られてきた。
 
○同じ人が何回も検査することがあるため、検査回数で陽性率を計算するのはヘンではないか?
→検査回数ではなく、検査した人の数をもとに計算することとした。
 
○患者が療養して、回復後に行なう陰性確認のための検査を計算に含めるのはおかしいのでは?
→陰性確認のための検査は、陽性率の計算には含めないこととした。
 
○抗原検査が始まってから6月16日までの間、抗原検査で陰性判定の人にはPCR検査で確定検査を行っていた。抗原検査の陰性を陽性率の計算に含めると“二重計上”になるのではないか?
→この時期の抗原検査の陰性は、陽性率の計算には含めないようにした。
 
○民間の機関が行う検査を含めずに、行政が行う検査だけで陽性率を計算するのはおかしいのでは?
→民間の検査機関分も含めて計算することとした。
 
○曜日の関係などで日々の検査数が異なると、陽性率の値が大きく変動してしまう。
→東京都や大阪府などでは、日々の結果ではなく、7日間の移動平均値として陽性率を計算することとした。

◆陽性率をどうみるべきか

また、公表される陽性率をどうみるべきかという問題も議論されてきた。たとえば、陽性率が上昇した場合、次のようなとらえ方が出てくる。
 
●検査数が少な過ぎるから陽性率が高いのでは? というネガティブな反応。
 
●濃厚接触者など、感染疑いの強い人たちに集中して検査を行なっているのだから、陽性率が高いのは当たり前だという冷めた見方。
 
●感染の疑いのある人をうまく抜き出して、効率的に検査ができていると評価する意見。
 
●潜在的な感染者(検査をすれば陽性となる人)が水面下にたくさんいるのでは? という恐怖感。
 
●検査の正確性は100%ではないため、やみくもに検査をすれば、偽陽性(本当は感染していないのに陽性となる)や、偽陰性(本当は感染しているのに陰性となる)の人がたくさん出てくる。その結果、偽陽性の人のために療養する施設が不足する、偽陰性の人が人混みに入って感染を広げる、など、感染防止のコントロールが効かなくなってしまうという、やや行政目線の指摘。
 
これらのとらえ方の、どれが正しい、どれが誤っていると一概に言い切ることは難しいが、世界保健機関(WHO)は、3月30日に新型コロナに関するバーチャル記者会見を行い、検査の陽性率について見解を示している。
 
〈陽性率が3~12%ならば、検査はかなり広範囲で実施されているといえる。陽性率がごくわずかのときは、検査する対象を誤っているかもしれない。もし陽性率が80%や90%などと高ければ、おそらく多くの感染者を見逃してしまっている(検査できていない)〉
(新型コロナ対応のテクニカル・リーダー、マリア・ヴァン・ケルホーフ博士のコメントをまとめ)

東京都の新規感染者数は、7月に、再び大きく増加している。陽性率も、徐々に上昇しているが、まだ4月のときのように常に2桁以上のパーセントで推移し、最大30%を超えるといった水準には至っていない。今後、検査数を増やしていく中で、陽性率が急上昇する事態が訪れれば、第2波の襲来とみることができるだろう。
 
このように、新規感染者数という実数と、陽性率という比率を併せてみることで、感染拡大の動向を複眼的にとらえていくことができるかもしれない。
 
新規感染者数だけを一面的にとらえて一喜一憂するのではなく、陽性率などの数字を多面的にみながら、冷静な思考を続けていく必要があると思われるが、いかがだろうか。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2020年07月27日「研究員の眼」)

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