2020年07月16日

ソーシャルディスタンス(社会的距離の確保)の経済への影響

大阪経済大学経済学部教授 小巻 泰之

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3.2 都道府県別の状況
地域毎に外出状況をみると、大きな違いが確認できる(図表3)。各自治体では、公立小中高の学校休業、自治体保有の施設休館など物理的に強制力の高い手段に加え、地域住民への不要不急の外出自粛の要請(協力依頼と表現する自治体もある)、自地域をまたぐ他地域への移動の自粛、各地域の商業施設への休業要請、営業時間の短縮などを実施してきた。
[図表3]都道府県別の外出状況
ただし、地域のNPIをみると、実施期間、実施内容は全ての地域で異なっており、一律なものではない。アメリカの都市におけるNPIの違いと同様に(Hatchett et al.(2007)、Markel et al. (2007)等)、NPIの取り組みでは大きな差異が確認できる。たとえば、休業要請の状況をみると、中国・四国地域が特徴的である。徳島県や岡山県は未実施であり、愛媛県、鳥取県、島根県も実質的に未実施といえる。ただし、徳島県などでは県外客には入店のお断りを要請する等の対応がみられる。また、首都圏4都県でも各県ごとに違いがある。東京都と神奈川県は4月11日にほぼ同じような内容で非常事態措置を実施しているものの、埼玉県は4月13日、千葉県は4月14日となっており、飲食店への酒類提供時間の制限も当初は未実施であった。休業要請の全面解除までの期間でみると東京都・神奈川県が最長69日となっている(図表4)。
[図表4]休業要請の状況
ここでは、各地域の感染状況及び休業要請の期間(NPIの強さ)をもとに、地域毎のSDへの影響を確認すると、休業期間の長い地域ほど外出の減少幅が大きくなることが確認できる(小巻、2020)。この点は、SDの水準が高いほど感染症の拡大の抑制につながっているならば、先行研究(Hatchett et al.(2007)、Markel et al. (2007)等)と同様の結果とみることができる。
 

4――日本の消費行動の状況

4――日本の消費行動の状況

4.1 家計の消費行動とSDとの関係
日本では日次ベースで詳細な家計消費動向に関するデータが利用可能である。家計調査の消費支出には「こづかい(使途不明)」、「交際費」、「仕送り金」が含まれているため、それを除外したものを「実消費支出」とする。その上で、 BOE(2020)にしたがって基本的消費、延期可能消費、仕事関係消費及びSocial Distance消費(以下、SD消費)の4つに区分する。それぞれの割合はほぼイギリスと同様であり、諸外国でも日本と同様の影響を受けている可能性も示している(図表5)。
[図表5]消費の区分
まず、4つに区分した消費動向を確認すると、延期可能消費及びSD消費が大きく減少している一方で、基本的消費は逆に増加傾向を維持していることが確認できる(図表6)。
[図表6]消費の状況
基本的消費は感染症の拡大が意識し始められた頃から増加基調にある。消費の内訳をみると、Chronopoulos et al. (2020)が指摘するようなパニック的消費は「マスク」の購買行動として顕在化し、パスタや乾麺・カップラーメンが備蓄的な消費として増加している(図表7)。
[図表7]パニック的な消費と備蓄的な消費
延期可能消費が3月以降減少基調となり、5月の連休にかけて20%を超える減少を示している。その後、非常事態宣言の解除などから被服・履物関連の消費や外食関連の消費は回復傾向も確認できる。しかし、SD消費では娯楽サービス関連で文化的な消費(映画、演劇等の鑑賞)はここ3か月の消費がほぼゼロに近い状況にあることが確認できる。また、この期間に、外食産業を中心に倒産が多数生じており、仮に経済活動が回復しても、後戻りできない状況になっている(図表8)。
[図表8]延期可能消費とSocial Distance 消費(個別の状況)
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大阪経済大学経済学部教授

小巻 泰之

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