2020年07月07日

2020・2021年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)7月号[vol.280]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―急激に落ち込んだ日本経済

日本経済は、2019年10月の消費税率引き上げによって大きく落ち込んだ後、徐々に持ち直していた。しかし、新型コロナウィルスの感染拡大を受けた2020年2月末の安倍首相による自粛要請によって3月に大きく落ち込んだ後、4/7の緊急事態宣言の発令を受けて落ち込み幅がさらに拡大した。

景気との連動性が高い鉱工業生産指数は、3月の前月比▲3.7%の後、4月は同▲9.8%の急低下となった。単月の落ち込み幅は東日本大震災時(2011年3月)の前月比▲16.5%よりは小さかったが、リーマン・ショック後の前月比▲8.9%(2009年1月)を上回った。また、家計調査の実質消費支出は2020年3月の前年比▲6.0%の後、4月は同▲11.1%と減少幅が大きく拡大した。巣ごもり需要の高まりから、食料品、ゲームソフト、インターネット接続料などは増加したが、外出自粛の影響で、食事代、飲酒代などの外食、宿泊料、パック旅行費、遊園地入場・乗物代などの教養娯楽サービス、鉄道運賃、バス代、タクシー代、航空運賃などの交通費が大きく落ち込んだ。

2―経済活動停止の影響が 労働市場に波及

経済活動停止の影響は、これまで改善傾向が続いていた労働市場にも波及し始めている。2020年4月の失業率は2.6%と前月から0.1ポイントの上昇にとどまったが、非労働力化の進展が失業率の上昇を抑えており、内容は非常に悪い。4月の就業者数は前年差▲80万人と7年4ヵ月ぶりの減少となる一方で、失業者数は前年差13万人の増加にとどまった。これは非労働力人口が前年差58万人の増加となったためであるが、この中には職を失った後に求職活動を行わず、労働市場から退出した者が多く含まれていると考えられる(いわゆるディスカレッジドワーカー)。

さらに、就業者のうち、調査期間中に仕事をした「従業者」 が2020年3月に前年差▲18万人と4年4カ月ぶりの減少となった後、4月には同▲498万人と減少幅が大きく拡大する一方、調査週間中に仕事をしなかった「休業者」 が597万人、前年差420万人の急増となった。

休業率(休業者/就業者)を産業別にみると、新型コロナウィルス感染拡大に伴う外出自粛、休業要請を受けて、宿泊業(2019年4月:2.9%→2020年4月:31.3%)、飲食業(2019 年4月:2.4%→2020 年4月:29.6%)、娯楽業(2019年4月:1.3%→2020年4月:39.7%)の急上昇が目立っている[図表1]。
[図表1]主な産業別休業率
休業理由には、「勤め先や事業の都合(景気が悪かったため等)」と「自分や家族の都合(出産・育児、介護・看護のため等)」があるが、足もとの増加は前者によるところが大きいと考えられる 。休業者は就業者としてカウントされるが、景気悪化を理由とした休業者のかなりの部分は失業者として顕在化する可能性が高い。

雇用調整助成金の拡充や中小・小規模事業者等に対する支援金(持続化給付金)などが、倒産、失業をある程度抑制する効果はあるものの、経済活動の落ち込みがあまりに大きいため、今後失業率が大幅に上昇することは避けられないだろう。失業率は2020年1-3月期の2.4%から2020年10-12月期には4.1%まで上昇し、失業者数は2020年1-3月期の167万人から2020年10-12月期には285万人へと100万人以上増加すると予想する[図表2]。
[図表2]失業率と失業者数の見通し

3―2020年4-6月期はリーマン・ ショックを超えるマイナス成長に

実質GDPは、消費税率引き上げの影響で2019年10-12月期に前期比▲1.9%(前期比年率▲7.2%)の大幅マイナス成長となった後、2020年1-3月期は前期比▲0.6%(前期比年率▲2.2%)と2四半期連続のマイナス成長となった。

2020年4-6月期の実質GDPは前期比▲6.7%(前期比年率▲24.4%)と、リーマン・ショック後の2009年1-3月期(前期比年率▲17.8%)を超えるマイナス成長となるだろう。外出自粛の影響で民間消費が前期比▲7.8%と過去最大の落ち込みとなるほか、企業収益の急激な悪化を受けて設備投資も同▲6.3%の大幅減少となることが予想される。

また、海外経済の急速な悪化や海外からの入国制限を受けて、財貨・サービスの輸出が前期比▲26.0%の大幅減少となる一方、国内需要の落ち込み、海外工場の操業停止、海外旅行の消失を受けて、財貨・サービス輸入も前期比▲17.2%と大幅に減少するだろう。輸出の減少幅が輸入の減少幅を上回ることにより、外需寄与度は前期比▲1.4%と成長率の押し下げ要因となるが、国内需要(同▲5.4%)に比べれば下押し幅は小さいだろう。

緊急事態宣言は5/25に解除されたため、経済活動の水準は4、5月が底となり、6月以降は上向くことが見込まれる。実質GDPは2020年7-9月期が前期比年率8.0%、10-12月期が同8.6%と高成長が続くと予想するが、4-6月期の大幅な落ち込みを取り戻すまでには至らない。需要項目別には、民間消費は外出自粛によって手控えられていたサービス関連を中心として7-9月期に増加に転じるが、工事の進捗ベースで計上される住宅投資、設備投資が増加に転じるのは10-12月期までずれ込むだろう。また、国内の経済活動が再開されたとしても、世界的に出入国制限が緩和、解除されるのはしばらく先となる可能性が高い。このため、輸出入はサービスを中心として回復ペースが緩慢となることが予想される。

4―新しい生活様式が 経済活動を抑制

今後の経済活動の回復ペースは、急激な落ち込みの後としては緩やかなものにとどまりそうだ。まず、新型コロナウィルス感染症専門家会議が提言した「新しい生活様式」は移動の自粛、多人数での会食の回避など、経済活動に一定の制限を設けるものである。これを実践することは恒常的に外食、旅行などのサービス支出を抑制する要因となる。

また、自粛要請、緊急事態宣言の期間が短ければ、解除後に経済がV字回復することも期待できたが、経済活動の収縮が一定期間継続したことで、今回の景気悪化が不可逆的なものとなる可能性が高くなった。すなわち、倒産、失業者の大幅増加が不可避となったことで経済基盤が損なわれ、経済活動の制限がなくなったとしても需要が短期間で元の水準に戻ることは難しくなった。雇用者所得の減少、企業収益の悪化は長期にわたって個人消費、設備投資の下押し要因となるだろう。

さらに、人々が3密(密閉空間、密集場所、密接場面)を避ける姿勢が従来よりも強くなったことで、新型コロナウィルスの第2波が襲来した場合は言うまでもなく、通常のインフルエンザ流行時にも外出自粛などの動きが強まるリスクがある。仮に、通常のインフルエンザ流行時に今回のように毎日の感染者数、死者数が報道されるようなことがあれば、人々が過剰反応する可能性も否定できない。

もちろん、コロナ後の新しい生活様式によってこれまでなかった需要が新たに生み出されることは期待できる。しかし、従来型の需要の消失分を短期間で取り戻すことは難しい。実質GDP成長率は2020年度が▲5.4%、2021年度が3.6%と予想する。2021年度末(2022年1-3月期)の実質GDPは直近のピーク(2019年7-9月期)と比べて2%以上低い
水準にとどまる。

リーマン・ショックの際には、実質GDPが元の水準に戻るまでに5年以上かかったが、今回も経済復元までに同程度の時間を要する可能性があるだろう[図表3]。
[図表3]実質GDPが元の水準に戻るのは2022年度以降
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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2020年07月07日「基礎研マンスリー」)

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