2020年06月24日

不確実性の高まる世界において。不動産投資を再考する(2)-世界金融危機時のパフォーマンスから不動産のリスクと不確実性を考察する

金融研究部 准主任研究員   佐久間 誠

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まず、世界金融危機における計量可能であるリスクとして、不動産セクター毎に賃貸収入変化率の標準偏差を見ると、リスクが大きい順に、オフィス(▲22.9%)>都市型商業施設(▲17.5%)>賃貸住宅(▲10.1%)>物流施設(▲5.3%)>ホテル(▲5.0%)>郊外型商業施設(▲4.5%)となった(図表 6)。
図表 6:世界金融危機における不動産セクター別のリスク
次に、世界金融危機における不確実性として、不動産セクター毎に実際の賃貸収入変化率の下位10%の平均値と、賃貸収入変化率の平均値と標準偏差をもとに正規分布を仮定した場合の下位10%の平均値の差分を見ると、不確実性が大きい順に、ホテル(▲18.5%)>都市型商業施設(▲9.7%)>郊外型商業施設(▲9.2%)>物流施設(▲7.4%)>賃貸住宅(▲0.6%)>オフィス(+3.9%)となった(図表 7)。
図表 7:世界金融危機における不動産セクター別の不確実性
以上の分析から、リスクを横軸、不確実性を縦軸に表すと、世界金融危機において示された不動産のインカムリターンのリスクと不確実性は、図表 8のように整理できる。各セクターのリスクは図表 6において、~▲20%を「大」、▲20%~▲10%を「中」、▲10%~を「小」、不確実性は図表 7において、~▲10%を「大」、▲10%~▲5%を「中」、▲5%~を「小」として分類している。
図表 8:世界金融危機における不動産セクター別のインカムリターンのリスクと不確実性
これらのリスクと不確実性は、各セクターの景気感応度と賃貸借契約の内容によるところが大きい(図表 9)。一般に景気感応度が高いセクターとしては「ホテル・都市型商業施設・オフィス」、また低いセクターとしては「郊外型商業施設・物流施設・賃貸住宅」が挙げられる。景気感応度が高いセクターほど、本来的にはインカムリターンのリスクが大きくなる。しかし、オペレーショナル・アセットであるホテルや商業施設は、長期の賃貸借契約期間に加えて、賃料固定型マスターリースや最低保証賃料などを採用することで、リスクを低減することが多い。また、物流施設は、オフィスや賃貸住宅と比較してテナント代替性に劣るため、長期の賃貸借契約を締結することでインカムリターンの安定性を確保しようとすることが多い11。これらのセクターでは、通常時の景気変動であれば、その影響を賃貸借契約などのスキームによって吸収することができるが、外部環境の悪化がある閾値を超えると、賃貸収入が大きく減少する可能性が高まる。つまり、ホテルや商業施設、物流施設においては、不動産の経済的なリスクを低減するために講じられる賃貸借スキームによって不動産のリスクを抑えることができるが、そのトレードオフとして外部環境の大幅な悪化等があった場合の不確実性を高めている。そのため、オフィスと賃貸住宅は、賃貸収入がアナログ(緩やかな曲線)に変化する傾向があるのに対して、ホテルや商業施設、物流施設は、賃貸収入がデジタル(段差のある非連続型)に変化する傾向がある。この不確実性の高さによって、ホテルや商業施設、物流施設の個別物件のインカムリターンを一般的な統計指標である平均や標準偏差をもとに評価すると、金融危機や景気後退における不確実性を過小評価する恐れがある。
図表 9:不動産セクター別の景気感応度・賃貸借契約による分類
 
11 例えば、都市型商業施設主体の日本リテールファンド投資法人の平均残存賃貸借期間は5.1年(2020年2月末)、郊外型商業施設主体のケネディクス商業リート投資法人は9.7年(2020年3月末)、物流施設の日本プロロジスリート投資法人で7.1年(2019年11月末)と、一般的な賃貸住宅の賃貸借期間である2年と比較して長い。
 

4. おわりに

4. おわりに

本稿では、世界金融危機を振り返ることで、不動産セクター別のリスクと不確実性について考察し、それらは景気感応度や賃貸借契約の内容によるところが大きいとした。

また、冒頭で述べたように、新型コロナウイルスのパンデミックにおいては、世界金融危機では見られなかった3つの不確実性が顕在化する可能性がある。「デジタル化による不確実性」は短期的に顕在化する恐れは限定的だが、中長期的には不動産市場にAmazon Effect(アマゾン効果)をもたらすかもしれない。次に、「行動変容に伴う不確実性」では、少なくとも短期的には、社会的隔離政策がテナントの売上を直撃しているホテルや都心型商業施設において、インカムリターンが最も大きく減少する見通しである。また郊外型商業施設においても、裁量的消費や対面型サービス業の比重の高い物件では、賃貸収入が減少する懸念が強い。最後に、「賃貸借契約による不確実性」が顕在化すれば、多くの不動産セクターで不動産の価値の再評価が必要となるかもしれない。ただし、このような3つの不確実性に留意は必要であるとは言え、「歴史は繰り返さないが、しばしば韻を踏む」という言葉が示すように、前回の世界金融危機から学び、今回の危機や今後の不確実性に備えることはできるのではないだろうか。
参照文献

IMF. (2020). World Economic Outlook, April 2020 : The Great Lockdown. 2020/4/14.

吉田資. (2020). 「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し~新型コロナウィルスの感染拡大を踏まえて見通しを改定、不動産投資レポート、2020年5月27日. 参照先: ニッセイ基礎研究所: https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64535?site=nli

佐久間誠. (2020). 不確実性の高まる世界において。不動産投資を再考する(1)-新型コロナウイルス出現は必然か?感染拡大により顕在化した不確実性、不動産投資レポート、2020年5月28日. 参照先: ニッセイ基礎研究所: https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64554?site=nli

渡邊布味子. (2020). コロナ禍の下にある不動産、家賃モラトリアムのリスクを考える-コロナ禍が理由の家賃の延滞では契約解除が困難に、研究員の眼、2020年5月22日. 参照先: ニッセイ基礎研究所: https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64515?site=nli

 

【参考】 世界金融危機における不動産セクター別の賃貸収入変化率の分布の推移

【参考】 世界金融危機における不動産セクター別の賃貸収入変化率の分布の推移

J-REIT各社の開示データをもとに不動産セクター別に見た、個別物件の賃貸収入変化率の分布は図表10の通り。
図表 10:不動産セクター別の賃貸収入変化率の分布
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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金融研究部   准主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

(2020年06月24日「不動産投資レポート」)

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